マールズ
多くの兵士が王城付近を走り回っていた。
その兵士の声と足音からは外で何かがあったことが分かる。
「何かあったんでしょうか?」
身近に控えている兵士はうんともすんとも言わないので、その問は空に消えていった。
そんなことよりも、今自分はどういう状況なのだろうか?
服は着替えさせられ、貴族が着るようなドレスに身を包んでいる。
そして、今いる場所は見るからに捕虜を捕まえておくような場所とは思えないほど豪華な内装をしていた。
「トワ様は大丈夫でしょうか?って心配することはありませんね」
メルは微笑を浮かべた。
会った頃のトワ様はとても弱弱しい様子だったが、今は力を得たことでとても自分に自信を持てている、その姿がとても私にはかっこよく見えるのだ。
私も女子なんだな。
仲間ができたことにより、思考に余裕ができたのか色恋沙汰を考えるようになった。
逃げていた頃とは大違いだ。
そんなことを思いながら、気持ちを切り替える。
「さて、ここから逃げ出したいんだけどな」
手には魔法を封じ込めるリングがはめられており、それは自分の力では外すことはできそうにない。
つまり魔法は使えないということ。
唯一の出口には兵士が二人いて魔法なしでは抜け出すことは困難だろう。
そして、極めつけにここに案内した男だ。
ここにいる兵士などより遥かに魔力を多く持ち、またその魔力は体に循環しているように見えた。
とても強いだろう。
もしかしたら、私一人では勝てないかもしれない。
どうにか突破口がないか、延々と考えている内に誰かが扉を叩く音が聞こえた。
「失礼します」
「「はっ」」
扉に立っていた兵士が扉を開け、敬礼している中、扉から入ってきたのは先ほど対策を考えていた案内人の男だ。
いかにも執事のような服を着ており、その佇まいからは隙が見当たらない。
「メル様、ご準備ができましたのでこちらの方においでください」
「……」
従順に従うことにする。
今の自分はひ弱な娘と変わりないのだから。
その案内人の後に続き廊下を歩いていく。
時たま外から聞こえてくる声には『あっちに行ったぞ』や『捕虜は……』などと聞こえてくるので、もしかしたらトワ様達が逃げ出して私を助けに来てくれているのかもしれない。
そうならなんか申し訳ないな。
「そういえば、外が騒がしいですね。どうも牢屋にいた捕虜が数名逃げ出したとか……メル様の同行者ですかな?」
「さあ、知りません」
一体何が言いたいのだろうか。
そして、そこで会話が途切れる。
案内人の男もそれ以上しゃべることがないのか前を向いてまた歩き始めた。
時間にして10分ほどだろうか、長い廊下もやっと終わりが見え、両開きの扉がそこにはあった。
「では、こちらへ」
案内人の男が扉を開けると、そこには向かい合ったソファーとその間に机、そして一人の青年がそのソファーに座っているのが見える。
その青年はこちらが来たのが分かると手を振ってきた。
「やあ、この子かい?」
「はい、そうでございます。では、私はこれで失礼いたします」
「ありがとうね」
私はどうすればいいのか分からず、その場に立ち尽くす。
「こっちのソファーに座って座って」
「……」
その青年に言われた通り、対面のソファーに座ることにする。
そのエルフの青年はずっと私を見て、ニコニコとしていた。
なかなか整った顔立ちをしている、美男子といっていいだろう。
まあ、私はトワ様の方が好みなんだが。
「僕はね、この国の第一王子のマールズっていうんだ。よろしくね」
「……」
「君の名前は、メルっていうんだよね。間違ってないかな」
「……はい、そうです」
マールズはその笑みを絶やさずにこちらに話しかけてくる。
なんで私はそんな重要人物と話しているのだろうか?
マールズの第一印象はとても性格の良さそうな青年といった感じだ、しかし、その笑みはなんだか自分には末恐ろしいものに見えてしまう。
マールズからの質問に無難に答えながら、周りの様子を確認する。
兵士が周りに6人。
そして、マールズの後ろの方にある扉にも魔力を感じるので、扉の外にも菱がいるのが分かる。
「なんでそんな不愛想なのかな。これから一緒に暮らすっていうのに」
「っ、今なんて」
「うん?聞いてないの?僕たちは結婚するんだよ。君は選ばれたんだ次の王の妻としてね。いや、もしかしたら愛人になるのかもしれないけど、分かんないや」
何とも軽い感じで、さも当然のように言われる。
そんな話は聞いていない。
私はトワ様が好きなのに、あなたと結婚なんてしたくない。
ここから逃げなくては。
「あ、一応君の力は調べさせてもらったから分かるんだけど、ここから逃げようとしても無駄だよ。魔法が封じられているでしょ、それにこれから君は僕のいいなりになるんだからね」
その言葉を聞いた瞬間だった。
体から力が抜けて座っていられなくなる。
ソファーの上でうつ伏せで倒れてしまった。
「ああ、もう発動してしまったのか。もうちょっと話していたかったのにな、まあまた目覚めたときにはいっぱいお話をしてくれると思うし、いっか」
意識がすーっと抜けていくような感覚に陥っていく。
ああ、眠たい。
瞼がゆっくりと落ちているのが分かる。
「そのままお休み」
最後にマールズの笑みを深めた顔が見え、意識が切れた。
「さて、彼女を着替えさせておいて」
マールズは部屋に入ってきたメイドにメルを連れて行かせる。
これから結婚式をするのだ、これから妻となる者にも準備が必要だ。
そして、自分も準備が忙しくなるだろう。
ああ、忙しいな。
それにしてもなんて不愛想な女なんだ。
それが気がかりだ、そしてそれが楽しみでもある。
「どうやって彼女を調教しようかな?」
それは結婚式をした後のこと、王になる者にとって大事な仕事の一つである。
王は血を残さなくてはいけない。
最初は彼女も抵抗するだろう、いやしてくれないと面白くない。
確か彼女の仲間が牢に閉じ込められていたはずだ。
「ふむ、目の前で殺すってのはどうかな?いや、逆に目の前で行為に興じる方が楽しそうだな」
妄想が膨らむ。
確か脱走した者がいるとか言っていたな。
その脱走した者が彼女の仲間であってほしいな、そうすればあの頑固な大臣も俺のおもちゃにすることを許してくれるだろう。
ああ、楽しみだ。
その時が来るまで待ちきれそうにないよ。
「では、マールズ王子はこちらへ」
「はーい、今行くよ」
今は結婚式が先だね。
結婚式用の制服に着替えに行くことにする。
その間にもマールズの妄想は止まることはなかった。
「本当に本当に楽しみだな」




