第60話 鬼面党
秀吉は大坂城を完成させると、翌天正十四年二月には京に聚楽第の建築を開始する。
空前の建設ラッシュにあやかろうと、全国から大勢の人々が流入してきた。人が大勢集まることで町は活気に溢れたが、これは同時に、ならず者やあぶれ者の徘徊を許すこととなった。戦で荒れた人々の気風は、秀吉がいくら上から取り締まろうとしてもなかなか鎮めることが出来なかった。千人斬りと称しての人殺しや喧嘩は絶えることは無かった。
盗賊も横行した。『勇は盗となり怖は乞となる』という言葉どおり、飢えて死ぬのは弱い者、ちょっとばかり腕っぷしに自信がある者は盗人になって、何ら不思議とは思われないような時代だった。
この頃、盗賊の中でも武家にばかり押し入る輩がいて、世間を騒がせていた。
太平の世になってから、武家屋敷ばかり狙って義賊と称えられた鼠小僧が捕らえられて、何、武家屋敷が一番警備が手薄だったから、と白状したという話があるが、当時は戦国真っ只中の荒々しい時代だ。
しかもこの盗賊は、元織田の家中の者ばかり狙うというのである。織田の鼻をあかすのを楽しみに、命さえ惜しくない連中のようだった。おそらくかつて織田に滅ぼされた家の輩であろうが、その正体は杳として知れなかった。だが彼らを一度でも見た者は、決してその姿を忘れることは無かった。いずれも色とりどりの鬼の面を付け、赤熊を被っていたからだ。
そのことから、彼らを指して『鬼面党』と呼ぶ者もいた。




