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魔物探偵事務所~赤狼と猟犬~  作者: 星野翔


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第2章:血月の崛起と旧友の討伐

【第一幕:雨の路地に狂う狼】


数年の歳月は、ロンドン工業地帯の消えることのない炉火のように轟音を立てて駆け抜けていった。

かつて泥の中で身を縮めて殴られ、虐げられるがままだった混血の少年は、今や魁偉な体躯と鋼の腕を持つ威風堂々たる巨漢へと成長を遂げていた。年月はフェンリルの瞳から怯懦を洗い流したが、骨の髄に刻まれた温厚さを消し去ることはなかった。そしてかつて、立ち去り際の両手に語ったシリウスの「力をもってこの世に立て」という背中は、彼の魂の深淵に刻まれた明かりとなっていた。


搾取と抑圧に苦しむスラム街において、フェンリルはその並外れた勇武と屈することのない傲骨、そして貧しい人々のために自ら刃を浴びる器量によって、次第に誰もが頼りにする不可欠な大黒柱となっていった。


「フェンリル兄貴! またあの役人どもが食糧を奪いに来やがった!」

「奴ら、奴隷狩りの鉄鎖まで持ってやがる……隣村の子供たちが何人も連れていかれちまった!」


帝国の苛政と重税が枷のように貧民の首を絞め、腐敗した役人が無辜の婦女子にまで手を伸ばした時、フェンリルはついに立ち上がった。

彼はスラム街に生きる、膝を屈して屈辱を舐めることを拒んだ男たちを募り、暴政に抗うための武装組織——『血月盗賊団』を結成したのだった。


【第二幕:闇夜の義賊】


深夜、スラム街を抜ける唯一の隘路は深い霧に包まれていた。

金貨と食糧を山積みした華美な馬車が数台、泥濘を轟かせて進んでいく。その周りを手銃(火縄銃)を手にし、獰猛な面構えをした税吏や奴隷商人が取り囲んでいた。荷台の後方では、鉄鎖で縛られた数十人のスラムの子供たちが絶望的な泣き声を上げている。


「ハハハ! このドブネズミどもめ、最後の1滴まで血を絞り尽くして税の足しにしてやるわ!」

税吏長は重々しい金貨の袋を手のひらで弄び、脂ぎった顔を激しく歪めて歪んだ笑いを浮かべた。


「轟——!」


突如として爆音が一帯を切り裂いた!

街道の両脇に聳える大木が、狂暴な蛮力によって根こそぎ引き抜かれ、馬車隊の真前に重々しく叩きつけられたのだ。撒き散らされる泥水と、狂乱する馬たちの悲鳴!


濃霧の奥から、一筋のしなやかで巨大な人影がゆっくりと歩み出てくる。

フェンリルは真紅の破れマントを羽織り、黒髪を夜風に荒々しくなびかせていた。その暗赤色の混血の双眸は、漆黒の夜闇の中でぞっとするほどの凶光を放っている。


「ち……『血月盗賊団』だ! 『赤血の爪』フェンリルが出たぞ!」

税吏たちは顔面を蒼白にさせ、慌てふためいて佩刀や火銃を引き抜いた。


「貧しい者たちの食糧と自由を置いていけ」

フェンリルは両手を胸の前で組み、氷結した湖面のように静かな声で言い放った。

「さもなくば、今夜ここがお前たちの墓場になる」


ほどなくして、暗い路地には惨叫と刀銃が砕け散る乾いた音が響き渡った。

最後の税吏がほうほうの体で逃げ去ると、フェンリルは素手で冷たい鉄鎖を握り潰し、怯える子供たちを優しく馬車から抱き降ろした。そして、駆けつけた貧民たちに金貨と食糧の袋を惜しみなく分け与えた。


「ありがとう、フェンリル兄貴! あんたは俺たちの守護神だ!」

人々は涙を流しながら地に膝をついた。

フェンリルは東の空に差し込み始めた微かな光を見つめ、口元に温かな笑みを浮かべた。彼はやり遂げたのだ。父と同じように、この泥濘の地の守護神となったのだった。


【第三幕:公安討伐令】

しかし、『血月盗賊団』による度重なる襲擊は、帝国の高官と軍部を徹底的に激怒させた。


「スラム街の賤民どもが、帝国の税制と法に反旗を翻すだと? あげく『守護神』だと……笑止千万!」


帝国審判廷の奥深く、高官が血痕の残る報告書を机の上に叩きつけた。皇室と貴族の威信を守るため、駆魔公安最高指令が下される——『赤血の爪』フェンリルおよびその盗賊団を危険魔物と認定し、全滅させよ、と。


そして、この特別清剿(せいしょう)任務を率いることになった者こそ、駆魔公安特別行動隊の隊長であった。


「隊長、ターゲットである『赤血の爪』フェンリルの詳細ファイルです」


特別行動隊本部。隊員の一人がファイルを差し出した。

デスクに向かって座る男は、仕立ての良い純白の公安軍服に身を包み、腰には寒光を放つ佩刀を佩いていた。彼がわずかに顔を上げると、細長い双眸が灯火の下で細められ、鋭利極まりない冷気を放った。


ファイルに記された懐かしい名前、そして幼さを脱ぎ捨て、蒼古たる凄みと覇気を纏ったその顔写真を見つめながら、シリウスの狭い目元の奥底に極めて複雑な光が過ぎ去った。


「全員に整備を命じる。十分後に出発する」

シリウスは潔白な手袋をはめ、揺らぎひとつない静かな声で告げた。

「私自ら隊を率い、魔物……『赤血の爪』を討伐する」


【第四幕:雨夜の宿命の再会】


土降るような大雨が、スラム街のレンガ壁を冷たく濡らしていく。

『血月盗賊団』の拠点外縁は、訓練し尽くされた数十名の駆魔公安隊員によって完全に包囲されていた。冷酷な火砲と駆魔の利刃が、雨幕の中で冷たい光を撒き散らしている。


フェンリルは一人で重々しい木門を押し開き、大雨の中に佇んだ。分厚い胸板を露わにし、肌に刻まれた暗赤色の狼紋がかすかに脈打つように光を放っている。


雨幕の向こう側で、特別行動隊の陣形が割れた。

白の軍服を纏い、佩刀を握りしめたシリウスが水たまりを踏みしめながらゆっくりと歩み出て、フェンリルから十歩離れた位置で足を止めた。


傾注する暴雨の中、二人は漫々たる雨水を隔てて静かに視線を交わした。


「大きくなったな、フェンリル」

シリウスが先に沈黙を破った。その声はあの頃と変わらず、冷徹で厳格だった。

「だが、お前は最も愚かな道を選んだ。官吏を襲い、法を犯す……帝国の律法の下において、お前はもはや駆除されるべき『魔物』だ」


眼前の上に立つ、正義を纏ったかつての親友を見つめ、フェンリルは長い沈黙ののち、突然天を仰いで豪快かつ切ない大笑いを弾けさせた。


「ハハハハハ! 律法だと? シリウス、お前のその律法はスラムの子供たちを餓死から救えるのか?! お前の法は、あの役人どもが生き人間を奴隷として売りさばくのを止められるのか?!」


フェンリルは笑いを収め、その双眸に電光を宿すと、己が死すとも守ると誓った背後の大地を指差し、一語一語魂を揺さぶるように叫んだ。


「お前はお前の帝国の秩序を守れ。俺は……俺の同胞と尊厳を守る! 来い、シリウス隊長! お前が駆魔公安で学んだその力を、俺に見せてみろ!」


シリウスは腰の佩刀をゆっくりと引き抜いた。刀身が雨を切り裂き、澄んだ刃鳴りを響かせる。彼は目を細め、氷のように冷たい声を雨幕の向こうへと通した。


「特別行動隊……交戦開始!」


かつて孤兒院で肩を寄せ合った少年たちは、ついに運命と信念の引き裂く中で、最も残酷で、最も胸を打つ宿命の決戦を迎えるのだった——!

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