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第二十九話(Copper):タイタン

完成したエンジンの唸りがラボに響く中、柚紀たちは次なる目標、自動車の製作に取り掛かった。もっとも、その大部分は金属加工の専門であるメガネとヒューストンの領分だ。柚紀は、彼らに自動車の設計と製作を一任し、自身は依然として頭から離れない謎の電波の調査に没頭していた。


(人類が居住可能な惑星は、少なくとも現代の科学では、太陽系内には地球以外に存在しないはずだ。となると、この電波の発信源は、最低でも最も近い恒星系、ケンタウルス座アルファ星まで4光年以上離れていることになる。もし、この電波が過去に地球から発信されたものだとすれば、その発信日を特定できれば、逆算してこの異世界と地球との時間的なずれ、ひいては距離さえも推測できるかもしれない……)


柚紀は、受信機から流れるノイズ混じりの音に耳を澄ませていた。時折、途切れ途切れに人間の声が聞こえてくる。


「……これは……英語のラジオ番組?訛りからして、BBCっぽいな。」


彼は、必死にアナウンサーの言葉に集中した。何か、日付を言っていないか?


しばらくすると、男性アナウンサーの声が、ややクリアに聞こえてきた。「……and now for the weather forecast for April……」


(四月……今年、しかも今月の日付だ!嘘だろ!?)


柚紀は、心の中で叫んだ。アナウンサーは、ごく自然に今年の日付を告げている。もしこの電波が数光年も離れた場所から届いているのなら、今日発信されたものが今、この瞬間に届くはずがない。


(一体どういうことだ?この電波は、どこから来ているんだ?まさか、地球がすぐ近くにあるのか?それとも、この電波だけが、時間や距離の法則を無視しているのか……?)


混乱と驚愕が、柚紀の思考を渦巻いた。遠い故郷の電波が、まるで隣の街から届くラジオのように、今、この瞬間に聞こえている。その事実は、柚紀の常識を根底から覆すものだった。


地球の電波が、まるで昨日の出来事のように鮮明に届く。その異常な事態に、柚紀の思考は深く沈んでいた。


(太陽系内ならば、電磁波は数時間、長くても一日程度で各惑星に届く。しかし、この世界には、地球のような明確な四季の変化が見られない。何より、地球と1日の長さが極端に変わると、人体内の体内時計が崩れる。つまり、1日の長さも近しい。太陽系内には、そんな生命が居住可能な上で都合の良い星は存在しないはずだ……)


夜になり、考え込んでいる柚紀を心配したエリンが、ラボの外に誘い出した。二人は並んで夜空を見上げた。


「あちらの地域では、夜になると大きな茶色の星が見えるそうですよ。環っかが特徴的だって。」エリンは、遠くの空を指さしながら言った。


「何だと?巨大な星……特徴的なリング……茶色の縞模様……まさか……土星か?!」


柚紀は、エリンの言葉に衝撃を受けた。巨大な環を持つ茶色の星。それは、どう見ても太陽系の惑星、土星の特徴に合致する。


「もし、この星から巨大に土星が見えるなら……この世界は、土星の衛星じゃないのか」


太陽系内でただ一つ、地球以外に大気を持ち、生命の居住環境が整っている可能性のある星がある。タイタンだ。だが、1日の長さが地球とほぼ同じなのは

なぜだろうか。それに、なぜここまで高度な文明に誰も気づいていないんだろうか。


(他の衛星が太陽の光を丁度良く反射しているから1日のように感じられるとか?......まあ有り得ないか)


「一部の地域でしか見えない、か……」柚紀は、エリンの言葉を反芻した。「潮汐ロック……!」


地球上では月の表面しか見えないように、惑星の自転周期と公転周期が一致している衛星は、常に同じ面を親惑星に向けている。タイタンもまた、土星に対して潮汐ロックされている。それならば、この星の一部の地域からしか土星が巨大に見えない、という状況も説明がつく。


(まさか、俺たちは太陽系の、それもタイタンにいるのか……?地球の電波が届くのも、説明がつくが……)


ともかく、元地球の住人だった、サーモンやメガネ、馬之助を呼び出して、このことを伝えようとした。



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