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第二十六話(Ferrum):医療は科学とともに

医薬品の不足を痛感していた柚紀は、エンジン製作をメガネとヒューストンに託し、空いた時間を利用して医薬品の合成に乗り出した。今回は、医師会や商会の代表者たちをラボに招き、今後彼らが自力で量産できるよう、合成の手順を公開することにした。


「今日は、いくつかの重要な医薬品の合成を行います。皆さんも、しっかりと見ていてください。」


柚紀は、集まった人々にそう告げ、実験の準備を始めた。


「まず、メタンと塩素ガスを準備します。塩素ガスは危険です。再現する際は漏れないように気をつけてください。」


塩素の準備として、柚紀は食塩水を電気分解する装置を組み立てた。電極に電気を流すと、陽極からは塩素ガスが発生し、それを慎重に回収していく。


(食塩水の電気分解:2NaCl + 2H2O → 2NaOH + H2 + Cl2)


次に、メタンガスの準備だ。柚紀は、酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムをフラスコに入れ、加熱を開始した。


(メタンの生成:CH3COONa + NaOH → CH4 + Na2CO3)


メタンガスが発生し始めたのを確認すると、柚紀はそれを別のフラスコへと導き、先ほど集めた塩素ガスと混合させた。そして、自作の電球を光源として照射した。


「メタンと塩素は、光のエネルギーによって連鎖的に反応します。まずは、水素原子が塩素原子と置き換わり、クロロメタンが生成されます。」


(CH4 + Cl2 → CH3Cl + HCl)


反応が進むにつれて、フラスコ内ではさらに塩素との置換反応が起こり、ジクロロメタンが生成されていく。


「このジクロロメタンは、モルヒネやカフェインといった有用な成分を植物から抽出する際に、優れた有機溶媒として役立ちます。」


(CH3Cl + Cl2 → CH2Cl2 + HCl)


柚紀は、反応の進行具合を注意深く観察しながら、次の段階へと進んだ。


「さらに、このジクロロメタンに塩素を反応させると……」


再び塩素ガスをジクロロメタンの入ったフラスコに導入し、光を照射すると、より多くの塩素原子が水素原子と置き換わっていく。


「……ついに、トリクロロメタン、別名クロロホルムができます。これは、強力な麻酔作用を持つ液体です。」


(CH2Cl2 + Cl2 → CHCl3 + HCl)


フラスコ内には、特有の甘い匂いを放つ液体、クロロホルムが生成されていた。医師会の面々は、その過程を食い入るように見つめていた。


「これが、手術の際の痛みを和らげる麻酔薬です。ただし、扱いには注意が必要です。」


次に、柚紀は、紅茶の茶葉を用意した。


「今回は、先程作ったジクロロメタンを使って、カフェインを取り出します。」


紅茶の茶葉の入ったフラスコに、植物の灰を溶かした水を加え、アルカリ性にする。次にアルコールランプでそのフラスコを加熱し、中の水溶液を温める。その後、十分に加熱したら、アルコールランプの火を消し、フラスコの中の水溶液を、ビーカーに移し替える。その後、ジクロロメタンを加え、ある程度混ぜてからしばらく待つと、上層が茶色の水の層、下層が透明なカフェインの溶けたジクロロメタンの層の二層に分かれる。この上の上層の水をそっと捨て、湯煎で下層のカフェインが溶けた溶液を蒸発させると、カフェインが取り出せる。


(アルカリ性にすると取り出しやすくなるのは、カフェインやモルヒネといったアルカロイドと呼ばれる物質のグループの特徴だ。)


「これが、カフェインです。脳に興奮作用があり、眠気覚ましや、風邪薬として使えます。同じ手順をケシの実を使って行うと、鎮痛剤のモルヒネができます。しかし、中毒性があるので、使用しすぎないでください。」


熱心に話を聞いていた人々は、メモを取り、熱心に聞いていた。彼らに、新しい医薬品の合成方法を伝えたことで、一気に医療が発展する。これまでの抗菌薬のペニシリン、解熱剤のアスピリン、それに笑気ガスに加え、今回、鎮痛剤のモルヒネや、カフェイン、それに麻酔になるクロロホルムが加わったことで、医療の幅が一気に広がっていく。



この小説に出てくる、実験を簡単に真似しないでください。特にモルヒネやクロロホルムは法律で規制されている場合があります。

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