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第二十三話(Vanadium):緊急手術

柚紀が、製鉄所の建設現場を視察した後、ラボに戻って、休憩している時だった。


「柚紀さんはいませんか!?危篤状態の患者がいます!!」


レイリーの焦燥に満ちた声が、ラボに響き渡った。柚紀は、ラボにいたエリン、スカーレット、メガネと共に慌ててレイリーの診療所へと駆けつけた。ヒューストンはラボに残り、不測の事態に備えてラボに残った。


診療所のベッドには、息も絶え絶えに出産間近の妊婦が横たわっていた。浅く、不規則な呼吸は、事態の深刻さを物語っていた。柚紀は、一目で帝王切開が必要だと判断した。


「……早く、お腹の子を取り出さないと、母子ともに危険だ!」


しかし、現実は厳しかった。麻酔はもちろんのこと、十分な医療器具も、それを扱う熟練した技術も、この世界には存在しない。


その時、幸いにも、柚紀とほぼ同時期にディアモスや医師会の人々が診療所に到着した。彼らは、完成したばかりの人工呼吸装置や、メスやゴム管などいくつかの医療器具を持参していた。さらに、医師会には解剖学を専門とする医師もおり、手術自体は不可能ではない状況だった。


だが、決定的に欠けているものがあった。麻酔だ。


時間がない。一刻を争う状況で、柚紀は必死に思考を巡らせた。


(麻酔がない……このままでは、激痛で母体が耐えられない……何か、他に方法はないのか……!)


その脳裏に、かすかな希望が灯った。


「……笑気ガスなら、すぐに作れるかもしれない!!妊婦には基本使えないが、急いで帝王切開をすれば……!」


柚紀は、わずかな可能性に賭けることにした。笑気ガスは、亜酸化窒素とも呼ばれ、弱い麻酔作用と鎮痛作用を持つ。


「レイリー先生、患者さんを頼みます!僕は一度ラボに戻ります!」


柚紀は、レイリーたちに患者を託し、ラボへと全速力で戻った。


ラボに到着するや否や、柚紀は硝酸カリウムと硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムの入った瓶を掴み、いくつかの実験器具と共に診療所へと再び駆け出した。彼の表情は、焦りと決意に満ちていた。


(どうか、間に合ってくれ……!この命を、救ってみせる!)


柚紀の心臓は、激しく鼓動していた。彼は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムを三角フラスコにいれ、、硝酸アンモニウムの水溶液をその上から滴下できるようにし、アルコールランプで加熱できるようにした。亜酸化窒素を発生させる準備をした。


麻酔の導入を始める前に、帝王切開の計画を立てた。とにかく、笑気麻酔は安定して亜酸化窒素を送らなければ、すぐに効果がなくなる。即興の実験器具でできた設備では、亜酸化窒素は不安定にしか送れない。だからこそ、とにかく早く赤ちゃんを取り出さなければならない。そこで、解剖学の専門医がすぐさま腹にメスを入れ、レイリーが赤ちゃんを取り出し、急いで針で腹を縫うことにした。


また、帝王切開ではほぼ確実に輸血が必要になることから、血液型を判別し、輸血の準備をすることになった。まず、AB型である柚紀と、この妊婦の血液を採血し、プレパラートの上で、それらを混ぜ、どちらかが溶血していないかを顕微鏡で確認した。すると、幸いにもどちらも溶血することがなかったので、彼女もAB型であるとわかった。また、エリンもAB型だとわかった。


「エリン、採血させてくれ、AB型の血液があれば、それを輸血するのが望ましい。」


(血液型は、赤血球の持つ抗原の種類で決まり、A抗原、B抗原がある。A抗原を持つA型、B抗原をもつB型、どちらも持つAB型、どちらも持たないO型がある。非常時以外は、基本的に同じ血液型同士で輸血を行わなければいけない。)


この妊婦と同じAB型の柚紀とエリンは、採血を行い、輸血用の血液を用意した。そして、手順を再確認し、ついに手術が始まる。

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