第98話 姫
「レ、レイコ社長、これは一体どういう事なんだ……?」
オジキらしき少女に直接聞くのが恐ろしくて、思わず背後に控えていたレイコ社長に確認してしまう。
「混乱していると思うけど、そいつは間違いなく貴方達の知るオジキよ。前の世界で死んでしまって、貴方達と同じようにこの世界に転生したの。……ただ、どういう訳か前世と姿が違っていてね。調査の結果、転生システムになぜかバグが生じたみたいなのよ」
「みたいなのよって、そんな事あり得るのか……!?」
「そんな実例、私の知る限りじゃオジキしか存在しないわ。調査は続けているけど、未だに原因は分かっていない」
「そんな……」
「クソッ、オジキ一体何をしたって言うんだ。まあ、前世で色々したかもしれねぇが……」
「ああ、でも安心して。オジキ自身はもうその姿を受け入れているから。女の子の姿での活動も、もうお手の物って感じよ」
「「ええっ……」」
説明を受けて尚、俺とシチサンは混乱の最中に居た。
「カッカッカ! まっ、そういう事じゃよ。ワシが言うのも何じゃが、何とも数奇な運命なものよ」
「マ、マジでオジキなのか……い、いや、でもオジキはそれで良いのか!?」
「変わったのは肉体だけじゃないんですよ!? 服装だってフリフリだ!」
現在のオジキの姿を改めて説明するとすれば、和装ドレス風桃色獣人狐耳美少女と言うしかない。これまでのイメージとは真逆の姿になったってのに、ここまで冷静さを保てているのは流石オジキ、略してさすオジと言わざるを得ないが、それにしたって現状維持という選択肢はないだろう!?
「オジキ、何かその姿に思い当たる節はねぇんすか!? クッ、オジョーの姿を模しているのかとも一瞬考えたが、どうもオジョーとは方向性が違うようだしよ……!」
「バグだが何だか知りませんが、俺らが必ず元の姿に戻してみせます! だから、何か心当たりがあったら教えてください! 全力を尽くしますから!」
「いや~、そこまでワシを想ってくれるのは嬉しいし、身に覚えがない訳でもないんじゃが……」
「「ッ! つ、つまり……!?」」
俺とシチサンに緊張が走る。
「その……これ、前世のオンラインゲームで使っていた、自作のキャラでな? どういう理屈なのかは知らないが、いつもの調子でワシの運がそういういざこざを引き起こしたんじゃないかなぁ、と……」
「「……は?」」
ハモった。
「……ま、待て、待て待て待て! オジキ、オンラインゲームなんてしていたのか!? いや、そういう趣味を否定する訳じゃないが、オジキがゲームをしている姿なんて、俺は見た事がねぇっすよ!?」
「そりゃお前さん、ワシだってストレス解消とかしたかったし。組織のトップに立つ者として、弱味になるような事は表に出せんかったし」
「そ、そうだったんですか。グラサンは兎も角として、俺までオジキの秘密に気付けなかったとは……けど、何でそんなキャラになったんです? オジキはもっと力強い、それでいて渋いキャラが好みだと勝手に思っていたんですが」
確かに。俺の中にあるオジキの好みは、西部劇とかの渋いタイプだった筈だ。
「い、いやな? こう、オンラインゲーム中では可愛らしい女キャラを使ってなりきりプレイをしていると、周りのプレイヤーが勝手にもてはやしてくれると言うか、助けてくれると言うか……」
「なりきり、プレイ……?」
「もてはやす……?」
俺達の中にドンドン困惑の波が広がっていく。
「あー、それ僕知ってる。ネカマの姫プレイってやつでしょ? 女の人のフリをして、周りの人達に助けてもらうの」
「「オ、オジキ……?」」
「いや、違うのじゃ! ワシも最初はそんな気は全然なくて、けど限られたプレイ時間で効率的にゲームを進める為には、周りのフレンドに助けてもらうのが一番良くてじゃな!」
急に焦り出すオジキ(美少女アバター)、そこにかつてのハードボイルドな雰囲気は微塵もなくなっていた。
「オジキ、失礼な事をお伺いしますが……一人称が俺からワシになったり、口調が老人っぽくなったのは、ひょっとしてそのオンラインゲームのなりきりプレイが原因で?」
「俺、行きつけのメイドカフェで聞いた事があるんすけど……世の中にはロリババアだの、のじゃロリだのと言うジャンルがあるらしいっすね? オジキ、まさかそういう造詣も深いんで?」
「え、えっとじゃね~……」
「……? クロマ、先ほどから皆さんは何の話をしているのですか? 全く内容が理解できないのですが」
「んー、アタシもよく分かんねぇけど、とりあえず修羅場なんじゃね?」
「大人って複雑だねー」
その後、観念したのかオジキは白状してくれた。俺達に隠れてやっていたオンラインゲームで、ポニちゃんが言うところのネカマ姫プレイをしていた事を。ゲーム内で留めていたなりきり口調が、現実世界でも間違えて言ってしまう事が多くなり、その対策として少しずつ一人称や話し方を、今のものへと変えていった事を。
「す、すまぬ……お主らの夢を壊さぬよう努力をした結果がこれだったのじゃが、お主らを信じて真実を告げた方が良かったかの……」
「……いいえ、オジキの立場なら仕方ないですよ。俺だって度の過ぎた動物好きだ、オジキの事をとやかく言えた立場じゃありません」
「ああ、俺も嫁の目を盗んではメイドカフェに通っていたっすからね。いつも即バレしちまう俺と違って、最後の最後まで秘密を隠し通したオジキは、むしろすげぇっすよ!」
「お、お主ら……!」
無意識のうちに俺達は肩を抱き合っていた。
「あ、何か良い感じに話が纏まりそう?」
「むう、グラサンが女の子を励ましてるの、何かムカムカするっつうか……」
「それよりもお腹が空きました」
俺達は和解した。いや、むしろ隠していた癖を共有する事で、以前よりも絆の繋がりが強化されたと言っても良いだろう。俺らの知るオジキはもう居ない。今ここに居るのは転生して生まれ変わった、新たなるオジキ――獣耳美少女オジキちゃんだ!
……うっ、俺は一体何を言っているんだ? オジキの空気に呑まれたと言うか、オジキを支えてやらねばと、そんな気持ちが急に湧き上がって……まさか、これがオジキの姫プ能力だとでも言うのか……!?
「そろそろ茶番は終わりそうかしら?」
「むっ、茶番などではない。これは新たな家族の絆を深める為の、重要な儀式で――」
「――はいはい、今の現実をグラサンとシチサンが受け入れる事ができたのなら、細かい事はどうだって良いわよ。よく分からない演出の為に社長室まで使わせてあげたんだから、暫くは我が儘を言わないでよね?」
「……仕方ないのう。グラサン、シチサン、話はまた後での。今はレイコに主導権を渡そう」
こうなる事を最初から予測していたのか、レイコ社長は淡々としていた。最初にレイコーポレーションと契約したカードマスターがオジキ、だったか? なら、今のオジキについてはレイコ社長の方が詳しいまであるな、これは。
「なあなあ、グラサン? あの狐ちゃんがオジキって人で間違いないのか? 人違いじゃなくて?」
俺に肩を貸すついでに、そんな事を耳打ちしてくるクロマ。
「……間違いなくオジキではある。ゲームの使用キャラの姿になるなんて、そんな明後日の方向に運を使うのは、世界中を探したってオジキくらいしか居ねぇ。全ての行動が幸運に導かれるオジョーとは違って、オジキの運はこういう事をたまに引き起こすんだよ。先の読めねぇ人だろ?」
「先が読めない以前に、アレくらいの事をたまにレベルで引き起こすのか……?」
そりゃまあ、オジキだし。




