第99話 再会&再会の後の再会
「茶番は兎も角として、貴方達は私の想定を超えた速さでレベル5に至ってくれた。その事に改めて感謝を、そして拍手を送るわ」
そんな言葉を口にしながらも、尊大な態度でオフィスチェアに座るレイコ社長。若干のイラつきが仕草に表れていらっしゃる。
「そいつはどうも。で、今後の話ってのは?」
「ここへ来る間に軽く話したけど、一ヶ月後に企業七騎の順位戦があるわ。けれど、そのバトルの観戦には2人しか連れて行けない。だから誰を連れて行くか、その人選を決めなくちゃいけないの。まあその方法ってのは、シチサンが言い当てた通りのものなんだけどね」
「企業七騎の中に順位があるように、ここに集まったスポンサー契約者の中でも順位を決めようって話だっけ? 良いんじゃない? それなら誰も文句を言わないと思うし、分かりやすいから僕は賛成」
「小娘、良いのか? その方法ではワシが圧倒的に有利じゃぞ?」
「小娘じゃなくて小僧だから! あ、いや、小僧呼びも嫌だけど!」
「えっ、マジかの?」
「その言葉、そっくりそのままお返しして良い?」
仕方のない事だが、オジキはポニちゃんを女の子だと勘違いしたようだ。……今更だが俺らの男女比率って、見る奴によって大分変りそうだよな。アルバイトのクロマを抜かすと男4人と女1人なんだが、大抵の奴らは男2人と女3人だと思うんじゃねぇか?
「順位戦は今後定期的にやるにしても、土台を決める最初が一番肝心よ。できるだけ正確に決める為にも、総当たり戦を実施するわ。これなら互いがどんなデッキを使うのか、自己紹介がてらに知れて一石二鳥でしょ?」
「あー、オジキは当然として、そういやシチサンともバトルをした事がなかったな。確かにちょうど良いかもしれん」
「俺もこの場に居る奴らだと、クロポニのデッキしか知らねぇな。グラサン、お前のは確かメイド系のデッキだったか?」
「そう言うシチサンは確か、森の……何だっけ?」
「森のお友達わくわくデッキだ、こんな基本的な事を忘れるな。まあ、あれから大分経って、内容は大分変わったがな」
「あ、これって自分のデッキを言う流れ? 僕はゾンビパンデミックデッキ!」
「私は満腹満漢全席デッキと名付けました。ええ、そんな料理があると本で見たんです。どこで食べられるんですか?」
「バイトのアタシはスパイダーデッキ! いつかグラサンのハートを雁字搦めにしたい!」
「可愛いワシは魔法少女デッキ! 相手のハートを射止めるのじゃ!」
どういう訳か始まってしまった、自分のデッキ公開大会。有用ではあるが、この場に居る殆どのデッキを知る俺からすれば、それほど得る情報は――ま、ままっ、魔法少女デッキだって!?
「オ、オジキ、西部劇デッキや任侠デッキとかではないんですかい!?」
「そうですそうです、それではあまりにも今までとのギャップが……!」
「メイドだのわくわくデッキだの、そういうのを使っているお主らに言われとうないわ! 可愛くなって生まれ変わった今、ワシだって可愛いデッキを使いたいのじゃッ! 魂の形は肉体に引っ張られてしまうのじゃ!」
本音をぶっちゃけ始めるニューオジキは、最早魂のブレーキが作動していなかった。
「「「やいのやいの!」」」
「ああ、もう。またやいのやいのと……ほら、静かに静かに! 勝負は1週間後、我が社のバトルルームで行うわ! レベル5になって新パックが購入できるようになっているから、それと併せて各々準備を進めなさい! 期間中に仕事が欲しいのなら斡旋するし、表も裏も試合に参加するのは自由! 可能であるのなら、レベルアップして次のエリアに進んだって構わない! ただ、負けてレベル4に落ちるのだけは禁止よ! そうなったらこのエリアに来る事ができなくなるし、もう我が社と契約する資格がないって事で、スポンサーも降りてやるから! ほら、こんな手短に話が終わった! 解散! 解散ったら解散!」
レイコ社長が早口でそう捲くし立てた直後、部屋に完全武装の警備員NPCが次々と乱入。この世界で完全武装の意味なんてないだろと、そんなツッコミを入れる暇もなく俺達はそいつらに担がれ、社長室の外へと運ばれてしまうのであった。
◇ ◇ ◇
レイコーポレーション本社を出発し、本日の宿となるホテルへと向かう。無理矢理に追い出された形だが、どうもこのレベルからは契約者全員に移動用の車と運転手(NPC)が付くらしく、現在俺は優雅なドライブを満喫中だ。流石に来た時に乗った空間歪め車両ではなかったが、この車も十分に高級車と言って良いもんだと思う。レイコ社長の資産がすげぇって事と、俺達がどんだけ期待されているかってのが、改めて再認識できた形だな。
「グラサン、どこでデートするんだ? アタシはどこでも大歓迎だぜ!」
「……普通に乗っているとこ悪いけどよ、何でクロマも一緒なんだ?」
「え? だってアタシは皆と違ってスポンサー契約していないし、だからなのかアタシ専用の車とかも貰えなかったんだよな。で、レイコ社長に聞いてみたんだけど――」
黒マスク越しにコホンコホンと軽く咳払いするクロマ。
「――ああ、そう言えばクロマの分は用意していなかったわね。明日までには代案を考えておくから、今日のところはグラサンの世話になりなさい。貴女としても、その方が良いでしょ? ……だって!」
「……いや、だってじゃないが?」
クロマの物真似が上手過ぎて、否定するのがワンテンポ遅れてしまった。レイコ社長本人の声かと思っちまったぞ。しかし、こうなってしまった以上、ここでクロマを降ろす訳にもいかねぇだろう。買い物に付き合うって約束もあるし、考えようによっては良い機会か。
「運転手さんよ、悪いが行き先変更だ。こいつのような年頃の奴が、買い物を楽しめる場所に向かってくれ」
「お任せあれ☆」
ん、んんっ? 何か特徴的な喋り方をするNPCだな。見た目はスーツを着込んだ渋いおっさんなのに、イントネーションが独特っつうか……まあ今まで出会ったNPCも、変わり者率は高かった気がするが。
「グ、グラサンっ!? 良いの!?」
「前に約束したろ? とりあえず、今日はお前さんが満足するまで付き合ってやるよ」
「や、やったあああッ!」
ここまで喜ばれて期待されると、流石に悪い気はしないもんだ。それじゃ、レベル5の観光がてら買い物に行くとしようか。
「グラサン、次はあっちの店な!」
「あ、あいよ……!」
――俺は覚悟が足りていなかった。クロマのデートに対する熱意とテンション、それを補う体力は俺の想定を大きく上回っていたようで、既に何十店舗と店を回っていると言うのに、一向にそれらが削がれる様子はない。また学園の仕事で金を得て懐が温かい今、欲しいもんを我慢する必要もないんだろう。故に欲望も無限に湧き上がっているのか、今もクロマは全力でデートを遂行中だ。
「空間収納型のバックがあるから、荷物持ちになっていないのは不幸中の幸いか……」
それでも足りなければ、あの車に置かせてもらうって手もある。しかし、もう日が沈んでそれなりに経過している時間帯だ。喉も乾いてきたし、そろそろ酒が飲みてぇんだが、それ言うのは無粋――
「――ん?」
今、俺の横を誰かが通り過ぎた。そいつは別人と化したニューオジキとは違う、途轍もなく見覚えのある姿をしていた……気がした。だからこそ、俺の目は無意識のうちに彼女を追ってしまう。
「あっ、グラサン! デート中に他の女を見るの禁止!」
「……グラサンですって?」
クロマのその言葉は俺に向けられたものだった。しかし、実際にその言葉に逸早く反応したのは、俺の無意識を操った当の本人。つまりは彼女――オジョーその人だった。




