第100話 手段
奇跡というものは、どうやら立て続けに起こるものであるらしい。シチサンにポニちゃん、性別やら諸々が入れ替わったオジキに続いて、今度はオジョーとの再会を果たすなんてな。レベル5の広大な都市、その中で偶然鉢合わせるなんて事は、一体どれだけ奇跡的な出来事なんだろうか。教養を持たない俺には、大雑把に想像する事しかできねぇよ。
「まあ俺が起こした奇跡って言うより、オジョーの幸運に引き寄せられたって流れなんだろうが……」
「何か言ったかしら?」
「いや、こっちの話だ。ところでオジョー、これはどういう事で?」
再会を果たした直後、オジョーは少し驚いた表情を見せてくれた。いつも鉄仮面を被っているオジョーにとって、これは大変に珍しい事だ。尤も、一方の俺はそれ以上に驚いてしまっていて、そんな光景を堪能する余裕なんて全くなかったんだが。
で、秒で元のポーカーフェイスに戻ったオジョーは、何を説明する訳でもなく、ただ一言「付いて来なさい」と口にして歩くのを再開。その有無を言わさぬ雰囲気に押され、俺とクロマは大人しくオジョーの後を追う事になったのだ。そうして行き着いた先が――豪華な料亭であった。
「どういう事って、今はちょうど夕飯時でしょ? 私も食事をしに行くところだったから、一緒にどうかと思ってね」
「は、はぁ……そのお誘い自体はありがてぇんだが、ここって相当な高級店なんじゃ?」
高層ビルとスタジアムが乱立するこのエリアであるが、この料亭がある場所だけは自然豊かであり、同時に風流に整備され尽くされていた。俺のボキャブラリーでは表現し難いんだが、まあ明らかに超高級、一見さんお断りな空気が漂う店だってのは分かったよ。大企業の商談やら政府の取引とかで使われそうな場所って言えば、大まかには想像できるだろう。それの最上級版だと思ってくれれば良い。要はクソ落ち着かない、って事だな。
「五つ星に認定されている料亭よ。セキュリティがしっかりしているから、密談にも最適ね」
「なるほど、密談っすか」
「……冗談だからね? もう知っていると思うけど、私は企業七騎の末席に名を連ねているわ。食事をするにしても場所を選ばないと、要らぬ騒ぎが起こってしまうのよ。」
「有名税ってやつだな。けどオジョーの豪運があれば、何事もなく済むんじゃないか?」
「そういう時もあるけど、それが転じて著名人との出会いに繋がったりする事もあってね。むしろ騒ぎが酷くなる場合もあるから、静かに食事をしたい時はいつもこうしているのよ。私の運も決して万能ではないと言う事ね」
「自分の運を卑下しているようだが、起こってる事は滅茶苦茶にラッキーだからな?」
「どうかしらね」
表情こそ変わらないが、どこか楽しそうに食事をするオジョー。どうやら前世に引き続き、オジョーの幸運体質に変化はないようだ。
「それで? グラサン、その女は一体誰?」
「え、ええっと、アタシは……」
唐突に話の矛先が自分に向かった為なのか、クロマは相当にビビっているようだ。慣れないこの料亭空間、そしてオジョーの圧を一緒に堪能しちまったんだ。そりゃこうもなるよな。オジョーはクロマよりも年下に当たるが、そんなのは些事も些事。たとえ相手が大国の大統領だったとしても、オジョーの態度が変わる事はないだろう。
「オジョー、そんなに睨まないでやってくれ。こいつはクロマっていうカードマスターで、俺のスポンサー企業のアルバイトをしてんだ」
「……そのアルバイトに手を出したって事?」
「違う違う、何でシチサンと同じ反応をするんだよ……オジョー、絶対分かっている上で言っているよな? 俺は嫁以外に女は作らねぇよ」
「さて、どうかしらね。私としては、現地妻でも作ってくれた方が面白いと思うのだけれど」
「そうだそうだ、アタシを娶れ娶れ!」
「クロマお前、急にそっち側に付き出したな……」
本当に調子の良いものである。
「……オジョー、オジキとはもう会ったのか? 俺はもう色々と衝撃を受け過ぎて、逆に受け入れるのも早かったんだが」
「状況は把握しているわ。流石の私も言葉を失ったけどね」
「ククッ、だよなぁ」
「けど、今は訳あって連絡もしていない状態。パパから連絡があっても、全部未読スルーね」
「え? 何かあったのか?」
「あったと言えば、特大級の出来事があったのだけれど……」
深々と溜息をつくオジョー。珍しいな、いつも冷静沈着なオジョーがこんなにも溜息をつくなんて。何か立場的な問題でも発生したんだろうか。
「……あの姿になってから、パパから頻繁に写真が送られてくるのよ」
「写真? どんな写真だ?」
「妙なポーズとドヤ顔を決めた自分の写真」
「は? ……な、何でそんな事を?」
「肉体に魂が引っ張られて、自撮りにハマってしまったんだじゃないの。で、家族に共有するくらいの軽いノリで、それを全部私に送っているんだと思う」
よく分からないが、自撮り写真って家族で共有するものなのか? いや、それよりも何やってんだよ、オジキ……
「それが1日に数十枚単位で送られて来てね、最初は何かの暗号かとも思ったけど、どうも単なる趣味みたいだったから、今は完全放置しているって訳よ」
「後でキッチリ注意しておくよ……ああ、そうだ。オジキついでに伝えておきたいんだが、俺と契約したスポンサー企業、オジキやシチサンも一緒なんだ」
「それはまた……奇跡的ね」
「だよな。オジョーもこっちに来る気は――いや、スポンサーの契約枠上、それは無理か。もう全部埋まってるから、クロマもバイト扱いだったっけ」
「仮に空いていたとしても、私にその気はないわよ? 今のスポンサーにはよくして貰っているし、私には私の目的があるからね」
「……今度、企業七騎間での順位戦があるらしいな。それも目的遂行の為の手段なのか?」
「あら、おかしな事を聞くのね? カードマスターとして、頂点を目指すのは当然の事じゃないかしら?」
「ああ、真っ当な理由だよ。だが、オジョーにしては真っ当過ぎる理由だ」
「ふ~ん?」
前世界においても、オジョーは最強クラスのカードの使い手だった。オジキはあまり乗り気でなかったが、傭兵団の次期頭として皆から期待され、ただ1回のバトルを除いて、負けた場面を見た事がなかったくらいだ。そんな超常的な実力を誇るオジョーだが、意外にもカードバトルの大会などに参加した事はなかった。
カードで世界征服を狙うような奴でも、表の大会に参加するのは普通の事だろ? ……うん、普通の事なんだよ、少なくとも俺らの世界では。そこは前提条件として納得してくれ。そんな常識的な大会にオジョーは全く興味を示さず、仕事関係のバトル、或いは突発的にバトルを仕掛けられ、仕方なく対処するなどの時しかカードを手にする事はなかったんだ。それでいて化け物みたいに強いから、いつからか無冠の女王なんて呼ばれるようになっていたっけ。
まあ、俺が何を言いたいかってぇとだな……オジョーはカードバトルの喝采や名誉とかに興味はなく、ただただ目的の為の手段としか見ていない。むしろ、有名になるだけ損をすると言っていたくらいだ。一方で、我欲の為だけに動く人でもない。自分の事よりも身内の利益を優先して、大局的に動ける人だ。最初こそ強さ故の結果だって納得しかけたが、後になってそんなオジョーが企業七騎になったって話に、だからこそ少しばかりの違和感を覚えた。で、こう考えたんだ。企業七騎のトップになれば、何かがあるんじゃないかって。
「可能性があるとすれば……企業七騎の頂点になったら、何かしらの特典があるとか? たとえば、どんな願いも叶えられる権利を得るとかよ」
「あら、冴えてるわね? その推理、なかなか良い線いってるわよ」
「……マジすか?」
オジョーは今日一番に良い表情を作っていた。かつて俺が目にした事のある、一二を争うほどの表情を。




