第101話 オジョー
企業七騎のトップ、現在で言えば第一席のフンドシがその地位に当たる。つうか、企業七騎が結成(?)されてからずっとか。その第一席になれば、どんな願いも叶う――自分で発言しておいて何だが、何とも夢のある話だ。しかし、オジョー曰くこれは夢ではない訳で。
「と言うか貴方達の社長さん、まだ何も教えていないの? 一応これ、上位存在の中でも機密扱いの情報ではあるけど、レイコーポレーションの社長なら知らないって事はないと思うのだけれど」
「サラッとうちの会社についても言い当てたな」
「パパと同じスポンサー企業なら、そこで間違いないでしょ?」
「まあ、そうだな……だが、レイコ社長の事も知っているのか?」
「その社長、私が契約しているスポンサー企業、マドコムのトップとほんの少し繋がりがあってね。ひょっとしたら、グラサンよりも知っている事が多いかも? ああ、でも安心して。身内を騙すような社長ではない筈だから。まだ情報を公開していないのも、時期を見定めているのでしょうね。うん、納得」
と、勝手に納得してしまうオジョー。マジで俺よりもレイコ社長の事について詳しそうだ。つかレイコ社長、プライマルアカデミーの学園長だけでなく、マドコムの社長とも知り合いなのか? 新鋭企業の社長にしてはやたらと羽振りが良いし、本当に何者なんだって感じだ。
「そっちの社長については、これ以上喋ると余計な事まで言っちゃいそうね。さっきのグラサンの推理に話を戻しましょうか。企業七騎のトップになればって話、良い線はいってるけど、まだ足りないのよね。この意味、分かる?」
「と言うと?」
「企業七騎のトップになるのは前提条件に過ぎないって事。そこに至った上で、最後の試練をクリアしなければならないのよ」
「……今のトップ、フンドシはその最後の試練とやらを、クリアできていないのか?」
「察しが良くて助かるわ。ただフンドシがって言うよりも、この世界が誕生して以来、歴代トップの誰1人としてクリアできなかったみたい」
「なんじゃそりゃ? その試練ってのは、一体どんなものなんだ?」
「さて、どんなものなのかしら? ただ1つ言えるのは、その試練こそがこの世界が存在する意味なのよ。私達にとっても、それぞれの社長をはじめとした上位存在達にとっても、ね」
「また意味深な物言いを……」
オジョーのこの遠回しな言い方、具体的な部分は説明しないつもりだな。その試練がどんなものなのか、そこはレイコ社長に聞けって暗に言っているようなもんだ。
「じゃあよ、試練についてはさて置こう。仮にそいつをクリアしたとして、オジョーはどんな願いを目指しているんだ?」
「何だと思う?」
「……前世への復活とかか?」
「それもアリだけど、第一候補ではないわね」
「ハァ……これくれぇはもったいぶらずに教えてくれよ」
「うーん……まあ、良いか。私はね、前世での自分の死因が知りたいのよ」
「死因? また斜め上の願いが出て来たな」
この世界に転生する為には、前世で何かしらの死を遂げる必要がある。俺やシチサンにオジキ、オジョーだってその道を通って来た事になるんだろう。しかし、死因に関わる記憶は失っており、今は死んだという事実のみが俺達の中にあるだけだ。
「私が運に恵まれているのは、何もカードバトルの中だけじゃない。それはグラサンもよく知っているわよね?」
「ああ、よく知っているよ。ここを食事場所に選んだ理由もそうだが、オジョーは日常的に豪運を発揮させていた。ありきたりな表現で言えば、神に愛されているっつうのかな」
「まあ的を射た表現かも。お陰で私、大抵の事じゃ死ななかったもの」
箸で焼き魚の身をほぐしながら、オジョーが話を続ける。
「敗北を認められない愚者に銃撃されても、私は死ななかった。相手の銃が暴発して、跳弾した弾丸が彼に止めを刺してくれたから。不意に頭上から巨大な落下物が迫っても、私は死ななかった。局所的な強風が吹いて、私をそこから押し出してくれたから。明らかに人間じゃない異界の生物が謎の光線を放ってきても、私は死ななかった。よく分からないけど発射した本人が何か爆発して、勝手に謎の死を遂げてくれたから」
「……全部悪意あるもんからの攻撃だな。最後のやつはマジで意味不明だったが」
「ええ、アレだけは未だに謎だわ。まあ、宇宙人や異世界人の襲来なんて別に珍しい事じゃないから、そのどれかだったんでしょうけど」
オジョーはその体質上、敵組織から狙われる事が多く、故にカード以外の手段での襲撃も多かった。大抵の場合はオジキや俺らが事前に潰して対処したが、それでも全部という訳にはいかない。だからこそ、先ほどのような事が起きてしまったのだが……まあ、何だ。全部が全部、攻撃を行った敵側が自滅するパターンとなり、それでオジョーが怪我をする事はなかったんだ。
前に一度、オジョーの独断で敵組織の拠点に単身で乗り込んだ事があったんだが、例の如くオジョーは無傷のまま帰還した。オジョー曰く、ちょっと散歩をして来ただけ、なんだそうだ。後になって確認したんだが、その拠点は見るも無残な状態になっていた。恐らく、オジョーはマジで散歩以外に何もしていなかったんだと思う。真っ正面から歩いて来るオジョーに対し、敵さんだけが攻撃を行い、巡り巡ってその味方同士の争いにでも発展したんだろう。で、オジョーが散歩を終えて安全圏に入った瞬間、拠点の自爆スイッチでも入って完全粉砕――まあ、それくらいの事は余裕で起こるってこった。
「でもね、地球外生命体に敵意を持たれても死ななかった私が、どういう訳か死んでしまった。時期は分からないけど、パパやグラサン達も死んでいるって事は、関係性が全くない訳ではないのでしょう。貴方の言う神に寵愛されていた筈の私が、一体何が原因で死んでしまったのか……私はそこに興味があるの」
「なるほどな。しかし、自分の欲が剥き出しなもんを理由にするなんて、オジョーにしては珍しいもんだ」
「ええ、自分でも驚いているくらいよ。生まれて初めて私に不幸が訪れた、故に私の運にも限りはあった。私はね、その限界値を知りたいの。知った上で克服もしてみたい。フフッ、命を賭けて試行錯誤するって、こんなに楽しい事だったのね。一度死んでしまったからなのか、今、とっても生を堪能できているのよ、私」
今日のオジョーは本当に表情豊かで、あろう事か今は笑顔まで見せている。……笑顔? 笑顔なんだよな、これ? 普段表情筋が死んでいるせいか、笑顔が不器用――ゴホン! ま、まあ兎に角、オジキとは違った方向性でオジョーにも変化があったようだ。
「グラサン、企業七騎の順位戦、見に来るのよね? 参考になるかは分からないけれど、貴方もトップを目指すと言うのなら――」
「――ああ、絶対に見に行く。俺にだって欲はあるからよ。それに、今の俺とオジョーの間にどれだけの差があるのか、それも確かめてぇしな」
「そう、ならば相応に頑張りなさい」
こう宣言してしまったからには、契約者内での総当たり戦で負ける訳にはいかねぇな。まあ、最初から負けるつもりもないが。
「そうだ、一応これも教えておいてあげる。トップを目指しレベルを上げていくのなら、今後は私以外の企業七騎とも関わりを持つ事もあるでしょう」
「そうなるだろうな。実際、ゴキョージュ先生とはもう会って話をしてバトルもしたしよ」
「……貴方、今も昔も手が早いわね」
「誤解を招く言い方をするんじゃない」
「フフッ。まあ相手がゴキョージュだったのは運が良かったわね。一般的にスター的な扱いをされる企業七騎だけど、その中にも危険人物は存在するもの。第二席、第四席辺りはその傾向が特に強いから、精々警戒しておきなさい」
「……了解した」
いや、もうその第二席とは、間接的な関わりを持っちまったんだが。




