第95話 闘技都市バトルオリンピア
衝撃に衝撃が重なり過ぎて、正直もう何が起こっても驚かないくらいの心境に至った俺。それもその筈っつうか、予期せぬシチサンとクロポニとの再会を果たした後、こいつらも俺と同じスポンサー契約者だって事が、レイコ社長の口から直接説明されたんだ。残る最後の契約者もオジキって話だし、まさかの全員知り合いなオチである。本当にどんな確率だよ?
「俺とシラスみてぇに、一緒にスカウトされたのか?」
「いや、クロポニとは違う奴だったし、スカウトされたタイミングも微妙に違う。俺らが合流したのはニクショクさんと別れた後で、本当に偶然出会ったって感じだ」
「あの時はビックリしたよ。見覚えのある人がカードショップで酔い潰れていてさ~」
「へえ? その話、是非とも詳しく聞きたいな?」
「クロポニ、後でパフェでも何でも奢ってやるから、その話は墓まで持っていけ」
「わ、本当に? うん、分かった!」
よほど俺に聞かれたくないのか、シチサンは何をするのも辞さない姿勢のようだ。こうなったシチサンを敵にするのは面倒だし、そろそろ茶化すのも止めておくか。
「皆、待たせたな。相手が妙に粘って、ちょっと時間食っちまって」
「おう、クロマも来たか。お前が最後だぞ?」
情報交換を兼ねた雑談をしていると、野良バトルからクロマが帰って来た。他の奴らは全員レベルアップ済みだから、これで漸く揃ってレベル5へ行ける訳だ。
「結局、同じタイミングでレベルアップする事になっちゃったわね……ま、出遅れるよりかはマシと考えておきましょうか。それじゃ、ちゃっちゃと移動するわよ。同じ転送場所に設定しておくから、全員この転送装置で移動なさい」
「へいへい」
そんなレイコ社長の号令の下、順番に転送装置を使用する俺達。転送した先に待っていたのは――
「――なるほどな、今度はこう来たか」
レベル5・闘技都市バトルオリンピア、都市と言うだけあってエリア全体が都会だな。つうか、もう普通に現代レベルの街並みが目の前に広がっている。高層ビルが立ち並び、巨大なスクリーンにはアイドルらしき一団が踊っている映像が流れていて、その他にも巨大なドームがそこかしこに点在。野球場レベルの大きさは余裕であるだろうか。
「名前からして、ノームランドに続いて古代帝国チックなエリアだと思っていたが、完全に予想を裏切られたぜ」
「グラサーン、アタシ達のデート予定地はどんな感じって、うわ、めっちゃ都会じゃねぇか!?」
辺りを確認している間にも、クロマ達が転送装置から現れては、俺と同じような反応を示していた。
「しかし、レベル5でこれかよ。ここより上のレベルはどんなエリアなんだ? SFか?」
「SFって何です? 美味しいんですか?」
「いや、食い物じゃねぇから。SFってのは……何の略称だっけ?」
「馬鹿、サイエンスフィクションだ。科学的な空想世界をだな――」
「――ほらそこ、無駄話をしない。迎えの車がやって来たから、さっさと乗って頂戴」
どうもこのエリアには車も走っているらしい。レイコ社長の指差す方を見ると、確かに黒塗りの車がやって来ていた。見た事のない車種だが、世界が違うのだから当然か。似たタイプで言うと、そうだな……お偉いさんが乗っていそうなタイプだろうか? ほら、リムとかジンとか、そういうタイプ。
「レイコ社長、本当に社長だったんだな」
「今更過ぎない、その感想?」
「これ、新手の怪物ですか? 見るからに硬そうですけど、焼いたら食べれますかね?」
「ツッコミ切れないから、本当にさっさと乗って頂戴……」
俺達の中で唯一ファンタジー世界出身のシラスは、当然の事ながら車を見るのが初めてだ。が、初手食欲が絡むという、まさかの一手を指して来るとはな。うーむ、流石である。ともあれ、リムとかジンっぽい車に乗り込む俺達。俺もこういう車に乗るのは初めてだなって、ん、んんっ?
「……なあ、こういう車種にしたって、内部が広過ぎる気がするんだが?」
車内っつうか、そこには部屋が丸ごと入っていた。俺の背丈でも立つどころかジャンプもできそうなくらいに天井が高く、部屋自体もVIPルームさながらだ。窓には外の景色が広がっていて、ここだけは本来と同じ絵面。ただ、それが逆に違和感と言うか、何と言うか……何事だよ、これ?
「魔法的なアレコレで、外観よりも広いつくりになっているのよ。グラサンのアタッシュケースと似たようなものだから、深く考えない方が良いわ」
「へ、へえ……」
そうか、俺のケースと同じようなものなのか。確かにそれは深く考えない方が良いかもしれない。
「本社には数十分ほどで到着するから、それまでは自由に寛いでいて。飲み物や軽食もあるから、その辺はお好みでどうぞ」
「至れり尽くせりだな……じゃ、俺は酒を!」
「僕はオレンジジュースで!」
「アタシはコーラ!」
「コーヒーはあるか?」
「軽食は全て私に回してください。それでも足りませんが、繋ぎにはなります」
「おい、肴はこっちにもくれよ。食い尽くすにもしても、少しは考えてくれ」
「貴方達、気持ちいいくらいに遠慮しないわね?」
そんなこんなで出発するリムとかジンっぽい車。これも魔法的な効果が働いているのか、車が動き出しても内部は揺れず、窓の外の景色がそれらしく流れて行くだけだ。これについても何か、こう……全然車に乗っている気がしない。
「革命的に便利になったような、趣が皆無になったような……」
「グラサン、またどうでも良い事に苦悩してるみてぇだな?」
「いや、どうでも良くはねぇだろ? シチサン、お前は合理性を重視し過ぎなん――」
その時、ニクショクの顔(うろ覚え)が脳裏に思い浮かんだ。
「――いや、そんなお前にも非合理な面もあったな。悪い、言い過ぎた」
「何だかよく分からねぇが、すげぇ馬鹿にされた感があるのは何でだ?」
「まーた喧嘩してるんの? グラおじとシチおじって、本当に仲が良いんだね?」
「シ、シチおじ!? ……クロポニ、何度も言うようだが、俺はまだ二十代なんだ。おじさん呼ばわりは止めてもらおうか」
「えっ、何で? おじさんはおじさんでしょ?」
「……!!!」
「シチサン、色々と思うところはあるだろうが、認めた方が楽になるぞ?」
どうやら、ポニちゃんとの仲も悪くはないようだ。物怖じしないポニちゃんの性格に救われている感もあるが、まあ良しとしよう。
「しっかし、このレベルはマジで現代そのものだな? NPCなのかカードマスターなのか上位存在なのかは知らねぇが、全員スマホを持ち歩いているしよ。あとは……ドームがやたらと多いな?」
「闘技都市だからね。カードマスターがバトルをする時、その会場を提供しているのがこのエリアなのよ。野良バトル、フリーバトル、或いは大会でのバトルの参加――裏闘技場でのバトルを除いて、どこで何をするにしても、基本はレベル5のどこかへ転送されるシステムになっているわ」
「転送……なるほど、カードショップの転送装置を介してコロシアムに移動していたのは、その為だったのか」
「そういう事。全エリア、全カードマスターがその対象だから、規模も相応になる訳よ。ああ、そうそう。そんなシステムだからこそ、レベル5に移動可能になったら、どの大会も観戦可能になるわ。尤も、大会のレベルに応じたGが必要になるけどね」
そんなレイコ社長の説明を聞いて、思い出す。オジョーとゴキョージュ先生の試合についてだ。
「レイコ社長、今度企業七騎同士のバトルがあるって聞いたんだが……それ、俺らも観戦できねぇか?」




