第76話 連戦疲労
「「はぁ~……」」
「はぐもぐ」
試験を希望していた生徒、その対戦相手役を全てやり終えた俺達は、揃って大きく息を吐いていた。いや、約一名飯を食っているが、それはさて置く。もうなんつうか、この世界に来て今日は一番疲れたかもしれん。この疲労感、ノームランド鉱山で必死に鉱石を掘っていた時よりもやばい。
「お、終わった、終わったぞ、グラサン……!」
「ああ、マジでお互いよくやったよ。結局夜までかかっちまったが、何とか時間内に収める事はできたな。今日ばかりは自分で自分を褒めてやりたい」
「お疲れ様です。まさか、途中で相手役を交代する事になるとは思いませんでした。お陰で私もお疲れ状態です。よって、肉を所望します」
「その台詞、何で俺に向かって言うんだよ……途中交代をしたのはクロマだろうが? だがまあ、全員根性出したって事で、今回だけはおごってやるよ。フレイムタンの肉で良いのか?」
「グッド、聞き分けの良いグラサンは好きですよ」
「ッッッ!? しゅしゅしゅ、しゅきぃぃぃ!?(おいおい、好きとは聞き捨てならないな。グラサンはアタシのだぜ?)」
と、疲労感マックスでも、何とかいつものノリを続けていられている。しっかし、予想していた通りの大変なバイトだったな。最初のハラダシ少年との戦いで覚悟は決まったが、やはりそれなりに使える奴があのデッキを使うと、俺も一切余裕がなかった。途中交代があったとはいえ、根性を見せたクロマはよくやったと言える。シラスも唐突な交代に上手く対応してくれたようだし、この1週間の成長っぷりが窺えるよ。まあ実際の戦いぶりは見えなかったから、内容までは知らんのだが。
「皆さん、本当にお疲れ様でした」
「おう、ゴキョージュ先生。あんな感じのバトルだったが、採点の参考にはなったかい?」
「ええ、有意義な試験になったと思いますよ。採点基準も十分に満たしていますので、これでプライマルアカデミーからの依頼はクリアとなります」
「そうか、根性出した甲斐があったってもんだ」
「や、やった~~~……」
「お・に・く! お・に・く!」
給料として大金を頂戴し、パックの大量購入で寂しくなっていた懐が一気にポッカポカに。ククッ、金の厚みは選択肢に繋がり、ひいては勝利に繋がる! 苦労して手に入れただけあって、今の俺はテンション高めだッ! ……とはいえ、疲労がマックスであるのもまた事実。今ゴキョージュとバトルをしたら、ぜってぇ全力を出せない自信がある。
「ちなみによ、アンタとのバトルは――」
「――随分とお疲れでしょう。かく言う私も大分お疲れモードなので、今日のところはもう休みたいんですよね。そういう訳で、時間を移して明日の昼頃にやるのはどうです?」
「本当に気が利くな、ゴキョージュ先生。俺としても、やるからには全力で臨みたい」
とまあ、ゴキョージュの厚意でバトルは明日へと持ち越し。場所はこの会場を確保したままにするとの事で、再度ここに集まる事となった。
「グラサンは大変にやる気ですが、クロマさんとシラスさんはどうします? 希望があるようでしたら、おふたりの挑戦も受けますが」
「おっ、マジか。受けとけ受けとけ、企業七騎と戦える機会なんて滅多にねぇぞ?」
「グ、グラサンがそこまで言うのなら、アタシもやってみようかな……?」
「どちらかと言えば、私は学食での食事を経験してみたいのですが」
「それはリアルに迷惑がかかるから止めとけ」
シラスが容赦なく食欲を発揮させたら、最悪、生徒の分の飯まで食ってしまいそうだ。これ以上、生徒達から奇異の目で見られる事態は避けたい。
「にしてもよ、プライマルなんたらってカードだったか? アレ、流石に性能を盛り過ぎだろ。ぶっちゃけ生徒によっては加減する余裕がなかったぞ?」
「あ、それアタシも思った! つか、どのバトルも全然余裕なんてなかった!」
「あはは、それは申し訳なかったです。ただ、レベル1の生徒がレベル4のあなた方と拮抗した戦いをさせるには、あのくらい下駄を履かせる必要がありましたので。事実、先のバトルはどれも好勝負ばかりでしたよ?」
「「それは、まあ……」」
正論で捻じ伏せられてしまった。ゴキョージュ曰く、上位存在基準の認識では、レベル1のカードマスターが若葉マーク付き、或いは落伍者、レベル2は一般カードマスター、レベル3が上級カードマスターとなり、レベル4は一流カードマスターとされているんだそうだ。大会などのレベルによるランク別も、主にそのような共通認識になっているらしい。
「そうか、もう俺らは一流扱いになっていたのか……でもよ、ハンデにハンデを重ねてのバトルはやっぱ辛いもんだわ。儲かる仕事だったとしても、もう暫くはしたくねぇな」
「まあまあ、そう言わずに。今回の仕事振りは、学園長にも評価されるであろうものでしたよ? 是非とも、来月の試験もお願いしたいですね」
「う゛っ、ら、来月……!?」
あからさまに嫌そうなクロマ。奇遇だな、多分俺もそんな感じの顔になっていると思う。
「その頃には上のレベルに行っている予定なんだ。また別の仕事に追われていると思うからよ、悪いが別の奴に頼んでくれ」
「そうですか、それは残念ですね……」
「つか、こんな重労働を毎月やってんのか? 教師が多忙ってのは耳にしていたが、まさかここまでとはな」
「ああ、いえ、流石に試験担当は毎月変わりますよ? それはそれとして、皆さんとプライマルアカデミーの繋がりを大事にしたいと思った次第で」
「誠実な見た目とは裏腹に、実はちゃっかりしてんのな……まっ、話の続きは明日やるとしよう。今日はマジでお疲れだからよ、シラスの飯に付き合って、その後は速攻宿で倒れとくわ」
「お・に・く! お・に・く!」
「グラサン、アタシとのデートの約束は!? ご飯食べた後でも全然構わねぇよ!?」
「お前さん、今の俺の台詞聞いてた? つか、レベル4での買い物はしたばっかだから、レベル5に行ってからにしとけよ。タイミング的にも俺の体力的にも」
「ふわっ、グラサン頭めっちゃ良いッ……!?(実はアタシもそう思っていたところなんだ!)」
って事で、こいつらのお守りをする為にも、僅かに残された体力を活用して焼肉に行かねば。肉を食って回復するのが上か、こいつらの相手で疲労するのが上か、これも一種の勝負だな! ……ハァ、シラスの存在のせいで影が薄いが、俺も結構な大食いの筈なんだがなぁ。シチサンからはフードファイトかよと馬鹿にされていたが、俺程度、全然小食な気さえしてくる。世界は広い、いや、異世界は広いわ。
「あー、うるせぇうるせぇ。じゃ、ゴキョージュ先生、俺こいつら連れて行かなきゃなんで、今日はここらで失礼するわ。明日のバトル、よろしくな! 世界最高峰の力、楽しみにしているぜ!」
「ええ、私も貴方との戦いを楽しみにしています。ああ、そうだ。最後に一言だけ」
「ん? どうした?」
ゴキョージュは優し気な雰囲気を僅かに崩し、神妙な面持ちをその表情に帯びさせていた。
「……グラサン、私は明日のバトルで少々つまらない、とまでは言いませんが、少々好みが分かれる戦い方をしようと思います。格上の者がすべきではない、そんな戦いをです」
「へえ、それはまた……どうして、わざわざ今それを言うんだ?」
「これだけの仕事をしてくれたのです。SSRのカードを見せるだけでは、少しグラサンの割に合わないかなと、そう思いまして」
「妙なところまで親切なこって。初見殺しのデッキって事か? んー……ちなみによ、その明日使うデッキとやらは、他の企業七騎なら勝てるのか?」
「ええ、たとえ初見であったとしても、彼らなら易々と突破するかと」
「ククッ、なるほどな。なら今の俺の力と企業七騎の力が、一体どれだけ離されているのか――明日の戦いで、精々参考にさせてもらうぜ?」
俺はそんな挑発的な返答をした訳だが、ゴキョージュはどこか満足そうな雰囲気を晒していた。根っからの教育者って奴は、潜在的な敵をも鍛えてしまうものなんだろうか。




