第77話 卒業生を見送るバトルショー
「爽やかな朝だな、若干焼肉臭ぇし酒臭ぇが」
翌朝、俺は万全の状態で起床していた。食い過ぎと二日酔い? いやいや、このくらいがベストなんだって。どうせ昼になったら腹も良い具合になっているだろうし、アルコールだって完全分解されているだろう。問題なのは精神と肉体の疲労で、こっちは完全回復を果たしているんだ。うむ、素晴らしいくらいに万全だ。
「昼までまだ時間はある、か。昨日稼いだGで更にパックを――いや、レベル5になったら、クロマ予想だと新しいのが販売されるらしいからな。それ用に纏まった金は残しておいた方が良い。となれば、多少デッキをいじって内容を変えておくか。昨日あんだけバトルを見られたんだ。そのまんまだと、流石に戦法がバレてブツブツ……」
結論、俺はシラスを叩き起こしてフリーバトルの相手役に任命してやった。
「さあ! 昨日食った分、ここで俺に還元してくれ!」
「還元するも何も、昨日のはおごりだったのでは?」
「それもそうだが、どうせ今日は時間まで暇だろ? もう一戦野良バトルに勝てば、お互いレベル5になる経験値調整をしてんだ。暇潰しの機会を作ってやった事を感謝してくれ」
「まあ良いですけど……その前に朝ご飯を食べます。グラサンもしっかり食べて、英気を養っては?」
「いや、俺はまだ昨日の分が腹に残ってんだが……」
昨夜、フレイムタンの在庫を食べ尽くすほどに食ったってのに、こいつの胃は底なしか? 金があったから支払いは問題なかったが……アレを毎食分支払っているレイコーポレーションの財政状況が、ぶっちゃけ心配なくらいだったんだよな。まあそんだけシラスに、投資した分の利益以上のもんを期待しているって事なんだろうが。
「……なあ。シラスは今日のバトル、ちゃんと勝つつもりでいるか?」
「それ、聞く意味あります? フリーバトル形式とはいえ、企業七騎に勝てば箔が付くなんてレベルじゃないくらい、それはそれは栄誉な事なんですよね? なら、勝つべきじゃないですか。その方が、より良い食事にありつけそうなんですから」
「クククッ、だよな」
「そういう訳で、可能な限りゴキョージュのデッキを見ておきたいです。グラサン、斥候としての先方役、任せましたよ」
「いや、ここは勝つ気満々のシラスに任せるのが一番だ。最初に勝つのは気持ちが良いだろうからな」
「アタシは最後が良い! 何かその方が有利そうだから!」
「「「……」」」
いつの間にか合流を果たしていたクロマを交え、バトルをする順番で揉める俺達。となれば、やる事はひとつな訳で。
「恨みっこなしの!」
「真剣勝負!」
「なんだぜ!」
「「「じゃーんけーん!」」」
◇ ◇ ◇
予定していた時間となり、俺達はプライマルアカデミーへ向かった。一昨日の昨日の今日だ、もうこの道のりを進むのも手慣れたもんである。ゴキョージュとの約束もある為、学園へ入るのも顔パスだし、バトル会場の体育館へのルートも把握済み。迷う事なんて一切なく、一切、なく……
「……なあ、これ何かの冗談か?」
「冗談にしては、規模がデカ過ぎね?」
「屋台とかないんですかね?」
約束の場所にて俺達を出迎えたのは、プライマルアカデミーの生徒達であった。それもただの生徒じゃない。お祭り気分で浮かれた、ウキウキな生徒達だ! ……いや、これだけだと意味が分からんと思う。まあ、ああいう事だ。
「ゴキョージュ先生の卒業生を見送るバトルショー、楽しみ~♪」
卒業生を見送るバトルショー!?
「卒業生の今後の糧になるようにって、先生が本気のバトルを披露してくれるんだよね? 今回は豪華三本立てって話だし、お祭り気分で観戦できそう!」
卒業生の今後の糧!?
「名目上はそんな感じだけど、実際のところはお楽しみイベントみたいなもんだよな。ほら、プライマルアカデミーって学園祭がないじゃん? だからきっと、その代わりの役割もあんだよ」
学園祭の代わり!?
「そっかー、ハラダシ君は試験に落ちちゃったんだ……」
「うん、本当に本当にあと少しってところまで、相手を追い詰めたんだけどね。クッ、僕は最後の最後に、何て詰めの甘い男なんだ……!」
「ハラダシ君は優しいもんねー」
今日も元気にハラダシ少年!?
……と、そんな会話をする生徒達で会場が埋め尽くされていたのだ。おい、何だよ卒業生を見送る何とやらって?
「ああ、いらっしゃいましたか。皆さん、今日はよろしくお願いします」
「おう、これはこれはゴキョージュ先生、こちらこそよろしく――の前によ、このお祭り騒ぎは一体何なんだよ?」
「はい? ええ、見ての通りお祭り騒ぎです。勉学が基本の学生にも、時には羽休めが必要ですからね」
「そうじゃなくてだな――いや、もう何を言っても手遅れか……」
会場全体を見回した感じ、昨日相手をした生徒どころではない人数が集まっている。つまり、プライマルアカデミーに在籍する全ての生徒が集まっているんだろう。今更俺らが文句を言ったところで、解散させられる雰囲気ではない。かと言って、企業七騎と戦える機会を棒に振る訳には――と、何だかんだで答えは決まっているんだな、これが。
「分かったよ、ゴキョージュ先生。だが生徒の前で無様を晒した後に、後悔なんてしてくれるなよ?」
「これはまた力強い言葉ですね。ですが、それは大丈夫ですよ。将来有望な後進の登場は、いつの世も祝福すべき事柄――仮にそうなったら、私は新時代の到来を祝福しましょう」
「ったく、余裕が見えて嫌になるぜ……まあいい、約束だ」
「ええ、ゴキョージュ先生との約束です」
場の空気が高まり、今にもバトルが開始される雰囲気だ。しかし、そんな空気を読まずに俺達が火花を散らすど真ん中を、何者かが通り過ぎていった。その者の肉体は巨体かつマッスル、はち切れんばかりの筋肉を見せびらかすようにして、両腕を上げ折り曲げるダブルバイセップスのポーズを決めていた。ポージング中の両腕には、まだ小学生ほどの生徒が乗っており――おい、学園長の爺さん何やってんの?
「学園長先生! 次は僕、僕の番!」
「違うもん、私の番だもん! 私も乗りた~い!」
「これ、順番はじゃんけんで決めるのだ。ルールを守ってこその社会形成、それは生活もカードバトルも同じ事、肝に銘じよ」
「「「「「は~い」」」」」
子供達の乗り物と化しながら、教師っぽい事を説いていやがる……
「ゲン学園長、今日も大人気ですね。羨ましい限りです」
「貴様がそれを口にするのか、ゴキョージュ? 学園長などこういった催しがない限り、生徒と触れ合う機会がないのだ。このくらいの事、して当然であろう」
「あー……こう言っちゃなんだが、昨日挨拶をした時と大分イメージが違うな?」
「む、貴様らも漸く来たのか。そして……今日もレイコは来ていないようだな。昨日に引き続き、余に対する挨拶もなしとは」
「ああ、そういやレイコ社長、今日も来なかったな。知り合いって話だったが、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩、か。フッ、どうだろうな。似て非なる事はあったが、さて……」
これは何かあったパターン、かつ関係性が面倒な時の反応だな。深掘りは止めておこう。
「おっと、そろそろ時間ですね。私の相手、その一番手はどなたが担当されるのです?」
「よく聞いてくれた。このじゃんけん最弱の男、グラサンが一番手だ!」
「じゃんけんの強さは普通! アタシ、クロマが二番手!」
「じゃんけん最強の健啖家、シラスがラストを飾ります」
「そ、そうですか、あはは……」
そう、俺はまたじゃんけんに負けてしまったのだ。子供達よ、覚えておけ。じゃんけんに負けて、順番が先になるパターンもあるって事を。




