第75話 プライマルカード
諸々の準備が整い、遂に開始される卒業試験。俺とクロマは体育館奥側の台座の前に立ち、これから次々とバトルを受ける事となる。体育館の真ん中には結界的な仕切りが形成されていて、俺の方から向こう側は全く見えないし、音も伝わって来ない仕様になっているようだ。まあ、これは試験を受ける生徒に対する配慮なんだろうな。例の如く原理はさっぱりだが。
「生徒はまず、試験番号と名前を言ってください」
と、ステージの壇上に居るゴキョージュ。どうやらあの位置からだけは双方の試合が観戦できるようで、そこより採点を行うようだ。シラスは……ゴキョージュの後ろで学食のメニュー表を眺めている。まあ、邪魔にならなければ良いのか……?
うん、まあいいや。さ、ユーモラスなアイスブレイクで俺の悪印象も多少マシになった事だし、こっからは依頼者のご期待に沿えるよう、頑張るとしますかね。
「し、試験番号1番のハラダシです! 今日はよろしくお願いしまっす!」
と、気合いを入れる俺以上に気合いの入った言葉を投げてくれたのは、見るからに好青年といった印象の、あ、いや、何か制服の腹部が大胆にカットされていて、腹が剥き出しだったわ。これじゃ好青年じゃなくて変態だわ。
「お、おう、初っ端から色々とインパクト強めの生徒が――ん?」
「……? あの、どうしました? 僕の顔に何か付いてます?」
「いや、顔ってよりかは、その風変わりな服装に既視感があるっつうか……」
あっ、思い出した。この腹丸出しのハラダシ少年、俺やシチサンと一緒にクソ天使の説明会に参加していた奴だ。奇抜な格好をしている奴だったから、他の面々よりも印象に残ってる。確かアウトカーストに捨て置かれた後は、他の参加者達に共同戦線を張るべきだとか、そんな話を持ち掛けていたような……結局それ叶わず、この学園に流れ着いたって訳か。
しかし、ゴキョージュのスカウト基準から察するに、このハラダシ少年はカードの素人である筈だ。俺と転生日が同じである事から、この学園へやって来てから日も浅いと思われる。……何でもう卒業試験に参加してんだ? いや、確かに受ける資格はあるだろうが、流石にひと月も経たないうちに受けるのは、早計じゃないか? この学園って最長3年は居られるんだよな? って事は、そのカリキュラムも駆け足でやるものではない筈なんだが。
「……何でもねぇ。ハラダシ、お前さんの実力を見せてくれ。俺の見た目に惑わされるなよ?」
「はいッ! 全力を尽くしますッ!」
まあ、ここでそれを指摘するのも無粋だろう。この若さだ、在学中にカードマスターとして覚醒したって事も考えられる。まずはバトルを通して、こいつの実力を測るとしよう。
「「――バトル!」」
◇ ◇ ◇
「――【カードマスター】に攻撃、これで仕舞いだな」
「ぐうあああああッ!?」
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ハラダシ ライフポイント3⇒0
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俺のメイドの攻撃を受け、後方へと派手に吹き飛んでいくハラダシ少年。これはリアルダメージマッチではない筈なんだが……随分とバトルに没入していたみたいだな。類い稀なる集中力、それは奴の長所のひとつなんだろう。うむ、それは間違いない。
……が、その他要素があまりにあまり過ぎる。ハラダシ少年が使った学園限定のデッキ、そこに組み込まれたカードは強かったんだがなぁ。例えばこれとかさ。
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『プライマルガーディアン』
分類:領主 レア度:― コスト:無2 タイプ:ゴーレム
攻撃力3/防御力3
【門番】
この【領主】はプライマルアカデミーの敷地外では使用不可となる。
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大理石の如く滑らかな石材で構成されたこのゴーレム、コストとなる【税】が無色2つのみであると言うのに、その能力値が全て3という、ふざけた構成となっているんだ。オマケに【門番】の能力まで備わっていて、2ターン目から展開された時は内心ふざけんなと思っちまったぞ。まあ、ハラダシ少年は俺の【領主】ガン無視で【カードマスター】にしか攻撃を仕掛けて来なかったから、【継承】で対応の仕様はいくらでもあったんだが。あと、次にこれとか。
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『プライマルファイア』
分類:戦略 レア度:― コスト:赤3
この【戦略】はプライマルアカデミーの敷地外では使用不可となる。
相手【領主】全てに3のダメージを与える。
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【税】に色が付き、それも3とそれなりのコストとなるこの【戦略】カード。しかし、ハラダシ少年のデッキは赤の単色デッキであった為、赤だろうと無だろうと使用する難度はそう変わらず、かつ赤で染まった分、効果が凶悪なものと化していた。おい、何だよ俺の【領主】全てに3のダメージって? 以前アカバンの奴が同じ3コストの【戦略】カードを使った事があったが、それは単体に2のダメージを与えるだけだったぞ!? あ、いや、何か【領主】を召喚する効果もあった気がするが……それを含めたとしても、この効果はやり過ぎだ! まあ、ハラダシ少年は俺の【領主】が1体の時にこれを使ったから、殆ど意味がなかったんだが。んで、最後にこれも挙げておこう。
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『プライマルディザスター』
分類:領主 レア度:― コスト:赤4無3 タイプ:ゴーレム
攻撃力9/防御力9
【突撃】【門番】
この【領主】はプライマルアカデミーの敷地外では使用不可となる。
相手【領土】1つを対象とし、そのレベルを1にする。
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これこそがハラダシ少年の切り札にして、最大コストを誇る最強の【領主】! らしいのだが……本当にもう色々とやり過ぎである。コストに対して能力値がかさ増しされているのはいつもの事としても、召喚時に直ぐに攻撃できる【突撃】、そして壁となる【門番】持ち。更には俺の【領土】レベルを強制的に初期化するという限界ギリギリの能力まで備わっており、どうすんだこれ? と、能力を二度見三度見する俺が爆誕。まあ、ハラダシ少年はこいつを召喚したそのターンのうちに、俺のフィールドにあった【暗殺】持ちの【領主】を攻撃してしまって、登場シーンがまさかの十数秒という逆偉業を成し遂げてしまったんだが。
とまあ、カードの総評以上にハラダシ少年のプレイングミスが目立つバトルだった。いや、ううーん、どう甘めに採点しようとも、そして行く先がレベル1であったとしても、この実力では流石に……俺個人の評価は、どうしてもそんな感じになってしまう。卒業に囚われず、今はゆっくりと基本について学び直しておいた方が良いと思うぞ、割と本気で。
「クッ、あと一歩届かなかったか……!」
「ライフポイント的にはな……」
本人としては惜しい勝負であったようだ。しかし、このカードパワーは厄介だな。能力自体は単純なものが多いが、どれもこれもシンプルに強力だ。今回はハラダシ少年の実力不足で随分と余力があったが、それなりの使い手が扱えば、苦戦を強いられる事になるのは間違いないだろう。その上で試験の条件を呑む必要があるのだから――気合い、入れ直すかぁ。




