第71話 ある意味修行パート
俺の1日は忙しない。まず起床後、眠気覚ましの野良バトルを数回ほどこなし、適当な店で朝飯を済ます。その後、仕事場に直行する馬車に乗り、数十分ほどどんぶらこ。そうして、レイコ社長に紹介された噂の鉱山へとやって来るのだが――
「やあやあ、グラサン君じゃないか。今日も来てくれたぞなね」
「おう、監督! 何せ働き盛りだからな、今日もよろしく頼むぜ! しっかし、今日も全然人が居ねぇな?」
――そう、俺以外の労働者は皆無なんだ。今日でもう3日目だってのに、未だにひとっこひとり居やしねぇ。お陰様で道中の馬車は俺の独占状態、帰りも1人寂しくって訳だ。
「まあ仕方ないぞなよ。グラサン君のような労働者がここを訪れたのも、相当に久し振りの事だったぞなからねぇ」
「本当に人気がねぇんだな、この仕事……あと、これは全然関係ねぇ話なんだけどよ、監督ってレベル1に親戚NPCとか居ねぇか?」
「アウトカーストに? 居ないけど、何でそんな事をぞな?」
「いや、何か初めて会った気がしないっつうか……」
特に、その語尾のぞなが。まあ暇を持て余すこの監督NPCは可哀想だが、人が居ないってのは前段階から分かっていた事だ。当初の予定通り、俺がここでも新記録を打ち立ててやる!
「ふんぬふんぬふんぬ――」
――ガキンッ……!
と、意気込んではみたものの、ここの鉱石の硬さも聞いていた通りなんだよな。アウトカーストの時と比べて、採掘ペースがやべぇ落ちてる。あくまで俺の体感だが、どこを掘るにしても、あの廃鉱山の倍くれぇのパワーが必要な感じだ。前はザクザク掘り進めたのに、今はガキンガキンと何とか砕いてるイメージっつうか……兎に角、重労働なのは間違いないだろう。俺でさえ汗水を容赦なく流すレベルなんだ。この労働に人気がねぇのも、まあ納得である。
「ふう、やっとトロッコ8台分か。このペースだと、今日も20台突破は無理そうか……?」
束の間の休憩中、積み終わったトロッコの台数を数え、少し落胆。パワーに任せるだけじゃなく、掘るのに適したより良い姿勢とか、色々と試してはいるんだけどな。どうにも思った通りのペースアップに繋がらない。
「おお、グラサン君素晴らしいペースぞな。トロッコ1台分どころかひと欠片の鉱石を掘るのにも、普通のカードマスターは1日がかりでやるぞなよ? それを半日でここまでやるとは……グラサン君は我が鉱山のエースぞなッ!」
「エースでも何でも良いけどよ、それでも採掘量のトップには達していねぇんだろ? なら、まだまだ全然だ」
「も、目標が高いぞなぁ……」
初日のうちに監督に聞いたんだが、現在の採掘量ランキングトップは、どうもこのノームランドを統括する精霊の帝王、ノームキングであるらしい。……今、ん? って思っただろ? ああ、その通り。こいつ、カードマスターではなくNPCなんだよ。NPCが記録保持者って、そんなのアリかッ!? なんて思いもしたけどよ、そういう仕様なのだから仕方がねぇんだ。どんだけ嘆いても、俺がトップになりはしないからな。
「やるからにはトップを目指す、それが男ってもんだろ」
そして、それこそがこの場所でカードを入手する方法じゃないかと、俺はそう踏んでいる。これも監督に確認した事なんだが、どうもここではカード鉱石が確率で出現する事はないらしい。つまりカードを手に入れるには、アウトカーストとは違う手法が必要になるって訳だ。で、現状考えられる唯一の方法が、先のノームキングの記録を抜き去る事である。規定の時間内にトロッコ21台分、その数を超える事できっと何かが起こると、俺はそう考えているのだ。
「まあ俺の予想が違っていたところで、採掘量は給料に直結するからなぁッ! ふんふんふんぬんぬんぬんッ!」
そんな調子でガキンガキンと鉱山に採掘音を轟かす毎日である。ちなみに、この日の結果はトロッコ18台に留まり、記録を抜く事は叶わなかった。だが、俺はまだまだ諦めてねぇ。卒業試験アルバイト当日まで、時間が許す限りこの挑戦を続けるつもりだ。
「おっし、明日こそはッ!」
帰りの馬車の中、俺は誰も居ないのを良い事に、1人気合いを入れるのであった。
そして数十分の時間を再びかけ、街へと帰還。例の如くレイコーポレーションに支払いを全任せしている宿へと戻り、まずは夢と努力の奇跡とも呼べる汗をシャワーで洗い流す。流石はレベル4の宿だけあって、個室にトイレとシャワー付きという好待遇。マジックアイテムが電化製品の代わりを成していて、もう殆ど現代と変わらないんじゃないか? ってくらいだ。小型の冷蔵庫もあるし――あ、そういやテレビはないか? まあ、その辺は電波関係の問題があるのかもしれん。普通に生活を送るだけであれば、もう不自由は感じられないな。オマケに飯は美味いし、ルームサービスまであるのだ。無論、どれも衣食住に含まれている為、料金はレイコーポレーション持ち! ……む? 何かここ数日で、随分と生活水準上がったな? 確か昨日まで、窓から入ってくる砂を顔面に被っていた筈なんだが。
「レベル4でこれなら、レベル5以上はどうなるんだ?」
普通にスイートルームとかをお出しされそうで、ちょっと怖ぇな。たまに泊まるだけならまだしも、日常的に利用するとなれば、落ち着かない事この上ない。そういうのが似合うのは、オジョーやオジキくれぇのもんだろ。シチサン? あいつの感覚は俺寄りだ。
そんな与太話もそこそこに飯を済ませ、次なる目的、カードショップへと移動する。ここへ来た理由? それはもちろん、今日の稼ぎ分を全てカードパック購入に回す為だ。基本パックと2色パック、全財産をそれらに振り分け、それぞれを大量ゲット。うーむ、パックの山だ。この量の大人買いは、前世界でもなかなか見れるもんじゃねぇな。それだけに開封ペースも早くしねぇと、このまま日が暮れちまう。って事で、無心で開封タイム&整理スタート。
――何とか終了、だがすべき事はまだまだある。今のデッキに使えそうなカードを寄せておいたから、今度はそれらをどう使うか、他のどのカードと相性が良いか、予期せぬコンボに使えないかを考えなければならない。前世は全プレイヤーが共通のプールからカードを使っていたから、ある程度こういった事はネットを調べる等で時短できたんだが、この世界じゃそうもいかないからな。カードマスターの数だけテーマがある、よって自分で考え思考錯誤するのが必須と、なかなかに大変なのだ。ククッ、まあそれも楽しみではあるし、自分が考えたコンボが決まった時なんか、爽快も爽快なんだけどな……!
「グラサン、来ましたよーって、またデッキをいじっているんですか? 暇さえあればって感じですね」
「シラス、そういうお前は……何か独特の臭いがすんな? またフレイムタンに行ったのか?」
「お肉は正義」
この時間になると、カードショップに決まってシラスが現れる。こいつとは1日1回、最後にフリーバトルをしようぜって約束をしているんだ。まあ、アレだ。パック購入からのデッキの再編成、野良バトルでデッキを調整、最後にシラスとのマジバトルにてデッキを仕上げる! って流れだ。
「【継承】召喚をする事で【凍結】状態を解除するぜ。ククッ、残念だったな!」
「クッ、またですか……何度も何度も【凍結】させているのに、本当にキリがないですね」
「シラス、確かにお前さんのロック能力は強力だ。だが、そいつの本領を発揮させるには、俺の【継承】との相性が悪過ぎる! どれだけ【凍結】させようとも、小型の【領主】で【継承】を繰り返す俺のメイドさんには通じないッ!」
「なら、今度は燃やすとしましょう。この赤の【戦略】カードで、そのメイドに直接ダメージを与えます」
「ああっ、俺が折角ここまで育てたメイドさんがッ!?」
「焼肉みたいな事を言いますね」
こんな感じの日々が続き、俺達は着実に強くなっていった。そして、約束の日を迎える事となる。




