第70話 アルバイト
「へそを曲げるって、どういう事だよ? オジキは常識外れな思考で奇想天外な事はするが、仁義を重んじるお人だぜ?」
「仁義、ね。私は古臭い印象しか受けないけど、クロマ的には心を掴むのかしら?」
「おう、ドンピシャだ!」
「話を逸らすなよ」
「そうだ、話を逸らすなッ!」
話の見えないこの展開と違って、クロマは今日もブレねぇな。
「悪いけど、今言えるのはここまでよ。オジキについては貴方達がレベル5に上げってから、改めて紹介するわ。この約束は絶対だから、今はそれで我慢して頂戴」
「……それもオジキ自身の希望、ってか?」
「グラサンに知られてしまった時点で、大分希望から逸脱してしまっているけどね。その辺は私の方で何とか誤魔化しておくから、それまで何も知らない体で居て。今後のオジキのやる気に直結するから、本当にお願い」
「お、おう……?」
てっきりレイコ社長が何か悪巧みをしているのかと思ったが、どうもそんな様子でもない。どっちかってぇと、レイコ社長の方が振り回されているような……?
「まあ、これ以上指摘しても収穫はなさそうだわな。オーケー、分かったよ。今は大人しくしておく。だから、その約束はぜってぇ守れよ?」
「私の名に懸けて誓ってあげるわ」
「うし、じゃあこれで重苦しい話は終わりだ。飯にするぞ、飯に!」
「おっちゃん、キノコステーキ2つな! 食後にデザートも!」
と、早速俺の分まで店員に注文し始めるクロマ。本当は根掘り葉掘り聞きてぇところだが、今まで世話になった分に免じて我慢する。どっちにしろ、レベル5はもう直ぐそこなんだ。答えは自分の目で確かめるとしよう。
「しかし、ゴキョージュに依頼された日までどうすっかな」
「1週間あるんでしたっけ? いつものように、裏闘技場に篭っていては?」
「いや、最初は俺もそう考えたんだけどよ、流石にレベル4に来て直ぐ裏ってのは、デッキパワーが足りねぇと思うんだよ。レベル3も3日4日でクリアしちまったし、そろそろ腰を据えてデッキと向き合う時期だ。折角1週間もある事だしな」
「レ、レベル3を3日4日でクリア、だと……!? グラサン、流石はアタシの夫!(グラサン、流石はアタシのライバル!)」
「誰が夫だ。ちなみによ、シラスのこれからの予定はどんな感じなんだ?」
「私ですか? これまで駆け足で各エリアを走り抜けて来ましたからね。レベル4に限定する事なく、各エリアの飲食店を食べ歩いて行こうと思います。1日5食くらいのペースで」
クールな瞳に青い炎を灯すシラス。しかし、俺が聞きたかったのはそっちじゃない。
「食う方じゃなくてよ、カードの話だ、カードの話」
「何だ、そっちですか。んー、グラサンがゆるりと構えるのなら、私もぼちぼち進めましょうかね? 経験値50までは野良バトル一本、そこからは久し振りに表の大会とか、そんな感じで。まあ期間中に1回は、レイコーポレーションの仕事をしなくちゃいけないかもですが」
「ああ、ここんとこ毎日仕事を貰っていたけど、本来は週1のペースでやるもんなんだったっけ? レイコ社長、今回のプライマルアカデミーのバイト、仕事のうちに入るか?」
「……オジキの件の詫びって訳じゃないけど、今回はそういう事にしておくわ」
「アタシは!? アタシも免除って方向で良いのか!?」
「いや、クロマは立場が違うでしょ。今日一日グラサンと一緒に居させてあげたんだから、明日から、いえ、今からまたバンバン働いてもらうからね?」
「ええーッ!?」
クロマの悲鳴が轟くのと同時に、店員がキノコステーキを運んで来た。おお、ジュウジュウいっとるわ。
「ほう、これはまたジューシーな」
「で、グラサンは具体的にどうするつもりなのよ? シラスと同じで野良に篭るの?」
「少しは味わわせろって……もちろん、それも考えてんだけどよ、間に肉体労働も挟めようと思ってんだよ。ほら、アウトカーストの鉱山、ノービスプレインでの畑仕事みたいなやつ」
「ああ、エリア別の仕事の事か。レベル3にも新作スイーツの試食とかあったな~」
「ッ!? な、何ですか、その夢のようなお仕事は!? 私、是非とも参加したいですッ!」
予想的中、早速シラスが食いついた。しかし、試食って仕事になるのか?
「へへっ、それなりに覚悟は要ると思うが、別に紹介してやっても良いぜ? デザート&デザートで定期的に実施しているんだけどよ、色んなスイーツがずらっと並んでる中から、2個3個自分で選ぶんだ。運が良ければ超絶うめぇのを堪能できる。けど、外れを引いたら――最悪、口の中で爆発する」
「どういう事だよ……!?」
いや、無敵ボディ故に死にはしねぇんだろうけど!
「パティシエの気まぐれスイーツとでも言うのか? ノリで中に小型爆弾を仕掛ける事もあったりすんだよ。まっ、何に当たるかは完全に運否天賦だな。見た目は全部普通だしよ。それでどれを食っても報酬は同じで――あっ、でも超低確率で中にカードが入っている事もあるらしいぜ? マジで気まぐれだよな~」
「そのパティシエ、クビにした方が良くねぇか?」
「爆発的な味わいとカードの味わい、ですか。ますます興味が出てきましたね!」
「まあ、シラスなら天職かもね」
ちなみに、レベル3では他にもラクダンビフ・レーシングでの騎手のバイトなどもあるらしい。詳しくは知らねぇけど、騎手って素人にやらせて良いものなのか? ともあれ、でかいレースで優勝すれば、これまた低確率でカードが手に入る事があるようで……なるほど。どんな労働をするにしても、カードの入手が低確率で起こるってのは一緒のようだ。
「まあ、こういう仕事なら経験値の変動なしにGを稼げるし、一発でけぇのを狙える可能性もあるんだよな。レイコ社長、このレベル4で俺に合いそうな仕事って何かあるか?」
「ちょっと、うちの会社以外の仕事まで斡旋させるつもり?」
「レイコーポレーションの直接的な収益には繋がらないかもだが、俺というカードマスターの強化には直結する話だぜ?」
「ったく、ここぞとばかりに強気に出て来るわね……貴方、アウトカーストで採掘経験があるのよね? なら、同じような仕事をしたら? このノームランドは鉱石の採掘も盛んで、その質もレベル1より上等よ。ただ鉱石自体がかなり頑丈で、並の力じゃツルハシを振るってもビクともしないの。レベル4まで成り上がったカードマスターで、そんな力持ちの奴なんて稀でしょ? だから、ここの採掘所は年中人手不足、採掘の募集をしていない日がないくらいよ」
「へえ、俺におあつらえ向きの仕事だな。そこもカード鉱石が出るのか?」
「さあ? 出るかもだけど、前例はなかったと思うわ。さっきも言ったけど、そこで働こうとする奴が全然居ないもの」
ほう、なら俺がカード鉱石発見者、その第一号になるかもしれねぇな。これでもアウトカースト鉱山採掘量、その新記録保持者なんだ。いっちょ、ここでもやってやりますかねぇ!
「精々頑張りなさいな。じゃ、私はそろそろ次の仕事場に行くから。ほら、クロマも行くわよ」
「え? いや、アタシまだキノコステーキもデザートも食べ終わってないんだけど?」
「大丈夫よ、代わりにシラスが食べてくれるから」
「お任せください! この私が責任をもって処理させて頂きます!」
「そ、そういう話じゃ……!」
「グラサン成分のチャージは十分にしたでしょ? 次はそのエネルギーを会社の為に使う番よ。今夜は雑用仕事が多いから、集中して取り組んでね?」
「そそ、そんな殺生なあああッ!」
こうしてクロマはレイコ社長に連行され、今日も元気に社畜として働かされるのであった。さらばクロマ、また1週間後にな。




