第72話 道中
卒業試験当日、俺とシラスは宿を出発し、プライマルアカデミーへと向かっていた。こういう時、決まってレイコ社長が待っているものなんだが、なぜか今日はどこにも姿を現さず。いや、クロマの奴は? とも一瞬思ったが、まあ時間までには来るだろうと、そのまま出発する事にした。仮に来なかった場合は、シラスの奴に代役を頼めば良いかと思っている。
「1週間ここで生活したけどよ、やっぱ生活水準の向上っぷりがやべぇと思うんだよな。宿もそうだが、馬車も見た目以上に性能が良いんだよ。速度こそ遅いが、乗り心地はもう殆ど車だぜ?」
「車って何です?」
「ん? シラスの前世にはなかったのかって、ああ、ファンタジー世界だとそりゃそうか。どう例えれば良いものかな……お前さんの前世にあった菓子がどんなものかは知らねぇけど、それがデザート&デザートの菓子に置き換わった、とでも言えば良いのか?」
「あのクッソ硬かったビスケットという名を借りた化石が、チョコレートパフェにですか!? そいつは凄い、素晴らしい技術革新ですッ!」
「お前さん、最近はそれにハマっているのか……?」
道中、そんな他愛もない話で盛り上がる。しかし、クロマが傾倒するだけあって、デザート&デザートも侮れないな。レベル3にしてチョコレートパフェまで生み出しているとは。まあそれを言ったら、フレイムタンだって取り扱う肉の種類が違うだけで、ほぼほぼ現代の焼き肉屋なんだが。
「そう言えば、例の鉱山の仕事はどうなったんです? ノームキングに勝ったる、これがわいの花道じゃ! ……みたいな事を毎日のように言っていましたけど」
「いや、どこの誰の台詞だよ、それ? ニュアンスが似ても似つかねぇよ」
「そうですか? イメージにピッタリだと思うのですが」
「偏見が過ぎる……まあ鉱山の採掘目標は、昨日ギリギリになってクリアしたよ。トロッコ22台分の鉱石をキッチリ収めてな」
「それはそれは、おめでとうございます。で、何かご褒美的なものはありましたか?」
「ああ、あった。目標のクリアを監督NPCが確認した次の瞬間、どこからともなく兵士NPCが数人現れてよ、そのまま城に連行された」
「それ、グラサンにとってはご褒美だったんですか……?」
二歩三歩と俺から離れ、明らかに引いている様子のシラス。違う、違うから。
「馬鹿、それがご褒美な訳ねぇだろが。その後だよ、その後。ノームランドの城ってよ、普段は立ち入り禁止になっていて、俺らも入った事がなかったろ? だから、その時に初めて入城する事になったんだが……初っ端から王座の間に案内されちまったよ」
「王座……国王に会ったのですか?」
「国王っつか、帝国だから皇帝――ん? だが、ノームキングなんだよな、ううん……? ま、まあ肩書なんざどうでも良いんだが、すんげぇ威圧感のあるノームに会ったんだ。兵士とか大臣とか、他のノームは小柄なのに、ノームキングだけは巨人かってくらいのデカさだったぜ? だから王座もでけぇの」
「突然変異ですかね? そのノームキングの記録を追い抜いたから、今からお前を屠り、この不名誉な事実をなかった事にする……! みたいな展開に?」
「俺生きてるし、さっきからその微妙なモノマネは何なんだよ? そうじゃなくて、さっき言った通り褒美を貰った。俺の予想が的中してな、やっぱあの鉱山でカードを手に入れる方法は、採掘量のトップに躍り出る事だったんだわ。で、俺の採掘っぷりに感銘を受けたノームキングがよ、大昔に掘り当てたっつう特殊なカード鉱石をくれたんだ」
そのカード鉱石を取り出し、実際にシラスに見せてやる。
「へえ、これが……NPCとはいえ、国のトップからの贈り物です。しかもそれだけの演出があったのなら、それって相当に価値あるものだったりします? もしかして、確定でSSRが引けたり? 企業七騎と戦う前から拝めたり?」
「いや、流石にSSRではなかった。中身はSRだ」
「何だ……」
「分かりやすいくれぇに興味なくしてんな、SRだって滅多に拝めるもんじゃねぇだろうが。しかもよ、このカード鉱石は選択式なんだぜ?」
「選択式?」
「つまり、ランダムじゃねぇんだ。今購入できるパックの中から、自分で選んで好きなSRを入手できるってこった。これはこれで凄まじく有用だぜ?」
「おおー、それは確かに」
お陰で必要としていたカードを発見できたし、あのパック内に何種類のSRがあるのかも確認する事ができた。まあ、なんつうか……基本パックのSRだけで、100種を軽く超える数があったから、コンプリートは絶対に無理だって事も分かったよ。SRでこれなら、R以下のカードは1000種くれぇありそうで怖い。いや、もっとか? 実際、今でもカードの種類がダブるのは珍しいからな。逆に上のSSRは数十種、Lは多くても数種ってところだろうか? んー、だとしても、やっぱ揃えるのは無理だな。前世のカードもそうだったが、世界に1枚しかないとか国家と等価値だとか伝説の神のカードだとか――他にも色々あるけどよ、最上位のレアカードってのは揃いも揃って、存在がバグっていやがるもんなんだ。
「シラスの方はどうだ? お前さんもお前さんで、毎日のように仕事をしていたんだよな?」
「ええ、日中はデザート&デザートにお邪魔して、新作の試食会に参加していました。どれもこれもが新感覚な甘味ばかりで、この1週間、私のお腹も満たされるばかりでした」
「……爆発はしたのか?」
「詳しく聞きたいですか? 少し長くなりますよ?」
「いや、やっぱ止めとくわ……」
死にはしないとはいえ、爆弾を口の中に入れる想像なんてしたくねぇよ。
「そうですか、残念です。ともあれ、私の方も仕事の報酬としてカードを入手しまして」
「おっ、マジか? 何か条件を達成する系だったのか?」
「うーん、それがよく分からないんですよ。用意された新作をコンプリートしたら、パティシエの方から満足気に渡されまして」
「そ、そうか……」
間違いなく、新作をコンプリートしたのが条件だったんだろうな。常人であれば、普通一度に全種を食そうとは思わんて。クロマの奴も2個3個とか言っていた気がするしよ。
「あ、中身はSRのカードでした。グラサンのように選択式ではありませんでしたが、それを加味しても美味しいお仕事だったと思います。甘いものを食べてお給料も貰って、その上カードも――ハッ! 天職とは、ああいうものを言うのでは……!?」
「まあ、間違ってはないわな。ただ、こういう仕事系で入手できるカードって、同じ条件を達成しても二度目のイベントは発生しない仕様みたいなんだよ」
「むっ、言われてみれば確かに? 私、毎日同じように働いていたのに、カードを貰えたのは初日だけでした。あとはパティシエがドヤ顔を晒すだけでした……!」
うん、やっぱそのパティシエはクビにした方が良いと思う。
「おーい、グラサンとシラスー! こっちこっち~~~!」
「この声は……」
「クロマさんですね」
プライマルアカデミーの近くに差し掛かった辺りで、こちらに手を振るクロマを発見。大きく飛び跳ねていらっしゃ――
「――おい馬鹿、んな短ぇスカートでジャンプすんじゃねぇ! 周りの目を気にしろや!」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫。これ、グラサンに見せてっから!」
「より質が悪いわ!」
「……警察、呼んだ方が良いですか?」
「俺を捕まえさせようとしてんのか!?」
出会い頭から頭の痛い展開である。つか、クロマもレイコ社長と一緒じゃなかったのか。こういう時は毎回同行していた筈なんだが、マジで珍しいな……?




