第68話 プライマルアカデミー
「額については問題ねぇ。つうか、むしろ多過ぎて怖い。一体何をやらされるんだって、不審に思うレベルだ」
「試験バトルで負けたら身ぐるみ剥がされるとか、そういうオチか?」
「いえいえ、そのような事は決して。2人で対応するとはいえ、少なくない人数の生徒とバトルをするのです。試験官として私もそのバトルの観戦をする事になりますし、そうなればあなた方のデッキ構成も知ってしまいます。それら労力と情報量を考慮すれば、これが正当な報酬額となりますよ」
詳しく話を聞くに、その卒業試験とやらに参加する人数はまだ確定していないが、多い時には百人近い生徒が参加する事もあるんだそうだ。形式はフリーバトルで勝ち負けによる経験値の増減、報酬の獲得は発生しない。が、それだけのバトルをするのであれば、確かに相当な体力を削る事になるだろう。更にはバトルをこなす度に、自然と俺達のデッキ構成も知れ渡ってしまう。それは試験官として観戦するゴキョージュに限らず、対戦相手の生徒もまた同様だ。合否のどちらになったとしても、生徒間で俺らのデッキについて情報を共有される可能性は大いにあるだろう。
「……先に言っておくが、俺らは今日レベル4にやって来た新参者だ。このレベルがどの程度のものなのか、その確認だってまだしてねぇんだ。それによ、レベル4に居るからには、ここの生徒達も相応の実力者なんだろ? 俺らに対戦相手が務まると思っているのか? いや、少し弱いくらいを想定して依頼しているのなら、それはそれで納得なんだがよ」
「ああ、なるほど。まずはその辺りの誤解を解く必要がありますね」
「誤解?」
「ええ、プライマルアカデミーがレベル4に設立された学園である為に、在籍する生徒達もレベル4だと勘違いされていますよね?」
「違うのか?」
「残念ながら。実のところ、本来彼らはアウトカーストに属するカードマスター、言うなればレベル1なのです」
「ほう?」
「あま~」
ゴキョージュのその言葉に合点が行った。一方、クロマは再度飽きてしまったようだ。
「おや、あまり驚かれないのですね?」
「まあ何となく察するところはあったし、若干鎌をかけての確認だったからな。ここへ来る間、生徒の話し声やら様子やらを見させてもらったが、どうにも緊張感に欠けていた。修羅場を潜ってないとも言えるか? まあ何であれ、レベル4に居るような奴らには見えなかったんだよ」
「何ならレベル2にも上がれなさそうな感じだったよな~。あまあま~」
「素晴らしい、実に素晴らしい洞察眼――なのですが、いち教師としては複雑な気持ちですね。指導には力を入れているのですが……」
ゴキョージュ曰く、プライマルアカデミーの実態はカードの才能がない者、或いはその経験が一切ない者に対する緊急避難場所なんだそうだ。この世界には俺やシチサン、オジョーのようなその道で生きて来た転生者が居れば、これまでカードに全く触れて来なかった者も居る。正に玉石混交のカードマスターが転生しちまった訳だ。そんな風にスタートから差があれば、当然後者の者達は順当に敗北を重ねていく。ある程度経験値に余力があるとはいえ、その末に行き着くのは、死という悲しき現実だ。
「大昔、まだ私が転生するよりも前の時代では、そうやって淘汰されていった若人が多く居たそうです。それを良しとしなかったのが、プライマルアカデミーの創設者にして学園長でもある、ゲン社長でした。才能のない者がせめて死ななくて済むように、経験のない者に正しき道を指し示す為に――そういった信条の下に、この学園は存在しているのです」
「へえ、何とも高潔な精神だな」
商売っ気全開の上位存在の中にも、そういうボランティア精神に富んだ奴が居たとは驚きだ。
ちなみに、このプライマルアカデミーにはスカウト専門の上位存在が居るらしく、転生直後の何度かのバトルの結果で、そのカードマスターをスカウトすべきかどうかの判断しているとの事。クロマやシラス、クロポニといった面子は、そのスカウトとやらに学園チュートリアルは不要だと判断されたんだろうな。実力的にレベル1とか、連戦戦勝だったろうしよ。俺やシチサンも同様で――いや、学園の入学には年齢制限もあるらしいから、そもそも俺やシチサンに声がかかる可能性は端からなかったか。大学って訳じゃねぇんだし、俺達みてぇなおっさんが入学しても不和を生むだけだろう。
更に補足情報を聞くに、在学中はGを稼いだりパックを購入する事ができなくなるが、その代わりに訓練用のデッキが学内限定で使用できるようになるんだと。それを使って実戦での基礎を、座学ではルールの基礎を固め、さっき言った最低限の力を養っていく訳だ。その間の食事や寝床の用意、制服等々の支給もされる為、生活に困る事はなくなり――ん? 俺がアウトカーストに居た頃よりも、随分と良い生活をしていやがるな? 卒業したら、学園生活とのギャップで酷い事にならないか? まあそれもある意味、上へ成り上がろうとするモチベに繋がるのか。
ともあれ、卒業試験で生徒が使用するデッキは、全てその訓練用デッキになるんだそうだ。訓練用デッキは初心者向けの扱いやすいものだが、全体的にステータスが高めに設定されており、レベル4相当のカードマスターが相手でも、デッキパワーは決して負けていないらしい。
「なるほど……つまり卒業に必要なのは、この世界で生きて行く為の最低限の知識と力量、って事か。で、そこまでの優秀さは別に求めていないと」
「求めていないとまでは言いませんが、仰る通り、合格のラインはそこまで高くないですね。最悪この試験に合格しなくても、入学から3年が経過した時点で、生徒は自動で学園を卒業する決まりになっています。色々と理由はありますが、生徒が在籍できる枠にも限りがありますから」
この世界の1年は春夏秋冬×30日の120日だから、3年だと360日か。まあ基礎を固めるだけなら、それでも保護期間としては長い方だろうか。
「一時的に保護するが、いつまでも匿う気はねぇ、か……真っ当な運営なんじゃねぇか? 卒業試験は実力を身に付けて、一足先に独り立ちする術ってところかね。うん、この学園の成り立ちと役目は理解したよ。在学中は学園の敷地の外に出さない等、外界と隔離しているのも、レベル1の生徒をレベル4へ連れて来ている縛りみてぇなもんだろ、多分」
「興味があるのでしたら、その辺りも説明しますが?」
「いや、相手について分かればそれで良い。俺らと関係ねぇところの説明は遠慮しとくよ。そろそろクロマも限界のようだしな」
「あま~がなくなった……」
甘々コーヒーを飲み干したクロマの頭から、煙のようなものが発生している。糖分が切れたのと同時に、脳の許容量もオーバーしてしまったようだ。
「ああ、そうだ。最後に確認しておきたいんだが、その試験のバトルではどう立ち回れば良い? 適度にやったやられたを演出すれば良いのか?」
「えっ、勝てば良いんじゃねぇの?」
「いえ、はじめから全力で勝ちに行かれるのも、ちょっと……バトル中の駆け引きや生徒の立ち回りを確認したいので、グラサンの仰る通り、適度な試練を生徒に与えて頂ければな、と」
「そ、それって尚更に疲れね? アタシ、そういう器用な真似ができる自信、ねぇんだけど……?」
「なら、今回のその役目はシラスに回すか? 飯をダシにしてやれば、あいつなら良い働きを――」
「――駄目、アタシがやるからッ!」
と、クロマも快諾。レイコーポレーションの社畜扱いである現在、クロマが参加して良いかどうかは、レイコ社長の許可が必要になるだろうが……やるからには全力で当たってくれそうだな、うんうん。




