第61話 祝勝会 in 高級焼肉フレイムタン
「グラサァーン! アタシ達の幸せなマイホームで、ううん、アタシ達の愛の巣でぇッ! 待っててくれよなぁぁぁ!?」
「だから違うっての……」
病み具合が一層強くなった気がするクロマはNPCに両脇を抱えられ、どこかに連れ去られてしまった。極度の興奮状態にある為、このオアシス争奪戦が終わるまでは監禁される事になるらしい。この争奪戦は2対2の戦い、双方の戦いの結果でカードマスターの処遇が決まる。まあそんな訳で、後はシラス待ちってところかね。ちなみに1勝1敗だった場合は、残ったライフポイントが高かった方の判定勝ちになるんだそうだ。まあ、シラスが負けるとは思えないけどな。
「うし、いったんクロマの事は忘れよう! そうと決まれば物販で酒を買って、シラスの勝負の観戦に――」
「――うわ、一足遅かったみたいですね」
と、酒という言葉に心躍ったのも束の間、視界の端っこの方からシラスのそんな声が聞こえてきた。これは、ああー……
「チッ、もう勝っちまったのかよ? 折角酒を楽しむ良い機会だと思ったのに」
「それは私の台詞ですよ。折角観戦しながらご飯を食べる、千載一遇のチャンスでしたのに」
澄まし顔のシラスとの再会、それ自体は喜ばしい事なんだが、どうにもタイミングが悪い。クッ、こうなったら今夜は祝勝会に洒落込むしかねぇッ! ……まあ、そんな冗談半分はさて置き。
「そちらはお相手さんはどうしてたか? ひょっとして、美味しそうな食材でした?」
「食材ってお前……流石の俺も、率先して蜘蛛を食う気にはなれねぇな。けど、なかなか歯応えのある相手ではあった。シラスの方は?」
「素晴らしい相手でした。やはり肉は良い……!」
じゅるりと食欲の音を奏でながら、バトルの光景を思い出している様子のシラス。ああ、何となくジャンクが何のカードの使い手なのかが想像できる気がする。まあ勝ったらのなら、何でも良いんだけどよ。
「2人とも、今日も見事な勝ちっぷりだったわね。文句のつけようのないくらいの完封で、私としても鼻が高いわ」
「ああ、レイコ社長。これで今日の仕事はクリアか?」
「ご飯食べに行っても良いですか?」
「ええ、仕事は完遂、ご飯を食べに行っても問題ないわ。あとの諸々はこっちで処理しておくから」
「了解ッ!」
レイコ社長の返答を耳にした瞬間、シラスはダッシュで物販の方へと駆けて行った。辺りの上位存在的な観客達が声をかけようともしていたが、その気迫に押されてしまったのか、結果として道を開ける事を選択したようだ。有無を言わさず上位存在を黙らせるあの姿勢、俺も見習わねぇとなぁ。
「ところで社長、負けたあいつらはどういう扱いになんだ? 俺らと同じスポンサー契約を結ぶ、とは違う流れだとは思うが」
「ええ、前にも言ったけれど、うちの契約枠はもう余っていないからね。契約は結ばず保障もせず、その上で小さな仕事をこなしてもらう事になるわ。まっ、強制的に働かされるバイトみたいなものかしら? 表の軽い仕事をメインに裏にもちょくちょく出場してもらって、その報酬は我が社に献上、みたいな?」
「命を賭けさせて、その上搾取とはひでぇもんだな」
「そういう契約なんだから、仕方ないでしょ? それにある程度の成果を出したら、後腐れなく野に放つわよ。まあ、働きぶりによってはスポンサー契約を結んであげても良いけど……その時は現役の貴方達と、どちらが相応しいかを考えないとね」
それで同じ契約者同士になったら、俺の胃に多大なダメージが与えられてしまいそうだ。大人しくデザートなんたらに戻ってくれる事を祈るばかりである。
「ん? つかよ、この戦いで俺、レベル4になったんだが」
「あら、それはおめでとう。部下の出世が早くて頼もしい限りだわ」
「部下じゃねぇから……いや、そっちじゃなくて。俺のレベルが上がったって事は、逆にクロマとジャンクはレベルが下がってんじゃねぇか?」
「ああ、そういう話……今回のバトルに関しては下がらないわよ。彼女達が賭けたのは、あくまでも自分の人権だけ、経験値はノータッチだもの」
「……? なら、俺も同じ立場になるんじゃ? 賭けたのは人権だけだが、普通にレベルアップしたぞ?」
「敗者はそうだけど、勝者の扱いは変わるわよ。勝ってもレベルが上がらない。言い換えればそれは、交渉次第でずっとそのレベルで戦い続けられる事になってしまうでしょ? 賭けたものに関係なく、強い奴はさっさと相応しいステージに上げてしまう。それが裏団体の共通ルールなのよ」
「……なるほど。言われてみれば、そうなるか」
勝てるレベルにずっと居続ける。そんな事ができるのなら、今は亡きフミタオシもそうしていただろうしな。あいつの場合は上のレベルから出戻りして、似たような事もしていたんだが。
「それよりもグラサン、今夜は予定を空けておきなさい」
「あ? 別に構わねぇが、何でだ?」
「祝勝会、したいんでしょ? タダで食べ放題ができる良い場所があるから、そこに行くわよ」
◇ ◇ ◇
その夜、俺とシラスはレイコ社長に連れられて、ある店へとやって来ていた。
「おいおい、良い場所ってここの事か?」
「そう、ここの事よ。高級焼肉フレイムタン、今日は私達プラスアルファの貸し切りだから」
上位存在の仕事は何とも早いもので、オアシスには既にフレイムタンの新店舗が出来上がっていた。あと、プラスアルファってなんだよと。
「お肉ッ! お肉ッ!」
そして、鬼気迫るシラス。こいつ、バトル後にライツロブの飲食系をコンプしてなかったっけ? などといつもの疑問を心に宿しながら、店の中へゴー。それからVIPルームにて、普通に焼肉を楽しむ流れになったんだが……
「へっへっへ、フレイムタンの肉がどんなもんか怪しんでいたが、なかなかどうして……うめぇじゃねぇか!」
「おやおや、いつもは甘味しか口にしない私ですが、この肉なら腹を満たすに足りますね。肉汁が素晴らしいです」
「お褒めに預かり光栄です。さあ、我々の未来への験を担ぐ為にも、今日はドンドン食べて行ってくださいね」
……同じ卓を囲んで肉を食ってるの、今日の争奪戦に参加していた各社の社長達だよな? こいつらがプラスアルファ? 勝った負けたの結果が出た後だってのに、何であんな仲良さ気に飯を食ってんだ? おかしくね?
「はぐはぐはぐッ!」
「ああ、何であんな感じなのか、気になる?」
「それは、まあ……」
「もぐもぐもぐッ!」
「言ってしまえば簡単な事なんだけれどね、グラサン達が勝たせたフレイムタンの社長、本当の目的はオアシスの独占なんかじゃなかったのよ。オアシスでの共同経営、具体的にはレース場の中に飲食店を作って、より強い需要を生み出そうってのが真の狙いだったの」
「は? なら、あの争奪戦をやる意味はなかったんじゃ?」
「ばくばくばくッ!」
「意味はあったわ。オアシスの所有権は年に一度の周期で変わる事になっていてね、今年はちょうど今がその時期だったの。ラクダンビフ・レーシングとデザート&デザートは高いG――表明費のようなものを払って、逸早く次の所有権を得ようとしていた。けれど表明期間のギリギリになって、フレイムタンもそこへ滑り込んで来てね。これまでレベル3で殆ど活動もしてなかった新参が、一体何を企んでいるのかって、一手にヘイトを買う事になっちゃったのよね。計画を話そうにも、二社は全然耳を貸そうとしないしで……まっ、一度はこうして実力を示す必要があったのよ。この世界、最終的に行き着く先はカードバトルだもの」
「……なるほど、それなら納得だな!」
裏ではややこしいアレコレがもっとあったんだろうが、カードバトルで全て解決できるって点はありがたい要素だ。元の俺の世界の思想、そのまんまだからな!
「ごくごくごくッ!」
……しかし、本当に食うし飲むなぁ、こいつ。




