第62話 それぞれの夜
祝勝会(なぜか負けた側の社長も参加する会)はそこそこに盛り上がり、平和なまま終わりを告げた。最後にレベル4へ移動するのは明日にしようと言う話で纏まり、今夜のところは宿へ直帰する事に。俺としては寝る前に野良バトルか裏バトルを何戦か挟みたかったんだが、自分のレベルより低いエリアではフリーバトルしかできないとの事で、泣く泣く諦める展開になってしまった。ああ、そういや裏団体もそういう取り決めがあるとか言っていたもんな。それは表でも同じだったみたいだ。
「しっかし、思っていたよりもとんとん拍子で進んでいけてるな。レイコ社長が最短ルートを整備しているからってのもあるが、第一目標のレベル5行きも、この調子ならそう時間はかからなそうだ」
ふと、シチサン達も順調だろうかと考えるが、それが過ったのも一瞬だけだった。あの鬼畜眼鏡が俺よりも下手に立ち回る事なんて、今までなかったからな。俺とはまた別の方法で上手くやっているだろうと、自然とそう確信する。ニクショクとの関係性だけは心配しちまうが、その辺は俺が関与すべきところではない。ないったらない。
「シチサンもそうだが、クロポニ辺りのレベルアップも早そうだな。俺よりもパックの引き運が良いし、ひょっとしたらもう何枚もSRを……あ、そういや今回のバトル、結局SRのカードは使わなかったっけ。大舞台とは違うかもだが、結構良いお披露目の場になると思ったんだが」
本当のピンチになったら使う予定だったんだが、運よくそのまま勝ててしまったんだよな。クロマの手札を枯らす事に成功して、無理に情報を出さずに済んだとも考えられるが……ああ、駄目だ。今夜は結構良い酒を飲んだ筈なのに、なぜか目が冴えて色々と考えてしまう。
「普段なら気晴らしにバトルをしに行くところだが、それもできねぇからな。かと言って、勝手にレベル4に行くのも不義理か。うーむ、やる事が読書しかねぇ」
この前に購入したカードマスター紹介誌に手を伸ばし、パラパラとめくる。
「そういや企業七騎の話、シラスには半端なところまでしかしていなかったな。まあ、したところで一部の情報以外、あんまり興味なさそうだったが。えーっと、どこまで話したんだっけ? 確か、そう、チマミレのところまで喋った気が……」
ページをめくり、その記事を探す。チマミレのページ、チマミレのページ……と、適当な感じでめくっていたせいなのか、その隣の記事を開いてしまった。
「っと、こいつは……第一席か」
企業七騎第一席、つまるところ、この世界で一番強いとされるカードマスター。エネルギー企業の最大手、七大企業『エナジーオブオーダー』とただ1人のみ契約している異端の男。企業七騎が世間で認識され始めてから、ずっと第一席の地位を維持し続け、敗北した経験がないという――とにかく、書かれている事全てがおかしな奴だ。企業七騎で顔を晒している奴は、決まって顔が良い法則があるらしく、こいつも俳優かってくらいに顔面が整っていやがる。なぜか騎士鎧のようなものを装着しているが、まあ第三席と第五席に比べれば、まだ常識的な姿と言える。歳は公開されていないようだが、見た感じは二十代半ば。そして、肝心の男の名前は――
「――フンドシ、か」
……フンドシ、フンドシかぁ。出てくる情報出てくる情報、その全てが完璧過ぎて、それこそ何だこいつ? オジョーと同じタイプの新人類か? みたいな印象に偏っていたんだが、フンドシって名前だけで全ての感情が同情に置き換わってしまった。絶対にここに至るまで苦労してきたよ、こいつ。その鎧の下でフンドシ締めてんのかって、周囲の奴らに思われながら過ごして来た壮絶な過去をお持ちだよ。
「そんな逆境にも負けず、カードマスターのトップにまで上り詰め、更にはその地位を守り続ける……それがどんなに大変な事なのか、今の俺には推し量れねぇ。だが、こいつは漢だ! それだけは確かだ!」
記事を握りしめ、隣の部屋の迷惑にならない程度の叫びで力説する。フンドシの冒険譚、そういった本が売っていれば、いつの日か見てみたいものだ……!
「あ、何か良い感じの眠気がきた。うし、寝よ」
その夜、晴れやかな気持ちになった俺は、これ以上ないくらいに熟睡できた。
◇ ◇ ◇
――同日同刻、レベル5某所の会議室。
「さて、集まったかしら? なら、さっさと始めてさっさと終わるわよ。私は暇じゃないんだから」
そう言葉を発したのはレイコであった。彼女の下には3人のスーツ服の部下達が集まっており、何とも重苦しい空気が会議室を支配していた。そう、レイコーポレーションの行く末を占う、重要な会議が今始まろうとしているのだ。
「社長、少し焼肉臭くないですか? 暇じゃないとか言いつつ、焼肉とか食べてませんでした?」
「それは本当かい? それは狡い、とても狡い。多忙の私なんて3日くらい絶食中だと言うのに……」
「もしかしなくても経費か? 経費で食ったのか? 社長アンタ、いくら会社のトップだからって、やって良い事と悪い事があってだな」
が、そんな空気は一瞬で霧散。ある者は椅子から立ち上がって抗議し、またある者は上半身を机に預けるようにして倒れ、またまたある者は経費精算書をレイコに差し出そうとしていた。
「は? 少し黙りなさいよ、愚図共が。この私が私欲でそんな事をするとでも? 取引先との会食だし、そもそもGも全て向こう持ちよ。その小さな小さな脳で頑張って理解なさい」
「異議あり! それはパワハラ発言です! 私も会社の金で焼肉食べたいです! あと、もっと私にも優しくしてください!」
「焼肉でも何でもいいから、とりあえず何か口に入れたい……」
「待て、Gを全て取引先に出させたのか? 社長アンタ、色々とグレーな道を突き進む我が社にも、信頼関係というものがあってだな」
「あらやだ、全然分かってないわ、このミニマム脳みそ共。減給処分が食らいたいのなら、素直にそう言いなさいな」
その後、十数分ほどの大変に建設的な意見のぶつけ合いが続いた。
「ったく、本当に無駄な時間を過ごしたわ。だから会議って嫌なのよね……さ、そろそろ本題に移るわよ」
「いの一番に熱くなった人が何か言ってますよ」
「無意味なエネルギーを使ってしまった、不覚……」
「ところで、今日は何の集まりなのだ? 会社の信頼がやばいという話か? なるほど、社長とお前達の責任だな。俺は悲しいぞ」
「フフッ、これでスカウトした奴らが無能だったら、私自らの手で無能なアンタらごと処分しているところだわ。ええ、物理的に首を切っているところよ」
その後、更にプラスして十数分ほどの非常に有意義な意見のぶつけ合いが勃発した。
「「「「ハァ、ハァ……!」」」」
「そ、そろそろ本当に本題に入るわよ……! で、実際どこまで成長したのよ?」
「わ、私のところは今、レベル3に入ったところです……! 彼、とっても優秀なので……!」
「彼女は例の如く、レベル5で頑張っているよ。うん、食事をするのも忘れるほどに頑張っているよ……」
「俺がスカウトした奴は、今日のバトルでレベル2を突破した。野暮用とやらで殆どバトルをしていなかった時期もあったが、レベル3は最速でクリアを目指すらしいからな。期待してもらって良いぞ」
「そう、なるほどなるほど。うちの子達も明日からレベル4での活動を開始する予定だし、全員が順調そうで何よりだわ。企業七騎の最高位、第一席の座を奪う為にも、この調子で王の原石達を育てていきましょう。我が社の手で新たなる世界を創造する為にも、ね?」




