第27話 諦めた者達
「ふい~~~っと」
念願の宿へと辿り着いた俺は、早速横になって肉体の労をねぎらうのであった。何気にこの世界に来て、初となる就寝タイムだ。寝なくても死なない体とはいえ、普通に睡魔は襲ってくるものだからな。ここは盛大に寝させてもらおう。尤も、ノービスプレインの宿スタイルはテント式、それも1人用である為に狭いんだけどな。大柄な俺には辛い仕様である。寝床も寝袋で、何だかソロキャンプをしている気分っつうか……まっ、アウトカーストの時と比べれば、これでも随分とマシな扱いだろう。次のエリアではベッドで寝られる事を祈りつつ、ぐうすか眠るとしますかね。ではでは、おやすみなんだぜ!
「……むう、眠れん」
肉体的には死ぬほど眠い筈なのに、頭の方が冴え渡っていて、一向に眠れる気がしない。まあ、それもそうか。レイコの社長に一気に重要情報を叩き込まれたからな。
「この世界を代表する7つの企業、だったか?」
それら大企業の1つ、しかも代表するカードマスターとして、オジョーはここ最近に台頭したそうだ。この世界における企業の知名度有力度は、スポンサー契約をしているカードマスターとイコールであり、切っても切り離せない関係にある。特に最上位クラスともなれば、その傾向が顕著に表れ、代表カードマスターが敗れれば企業も共に没落してしまうんだとか。いや、流石にフカし過ぎだろと思ったが、どうもこれ、マジなようで。ククッ、この世界もなかなかに狂っていやがるよ。
しかし、既にオジョーがそんなところにいらっしゃるとは、俺としても予想外……とも言えない。前にも言ったと思うが、カードゲームに限らず、何においてもオジョーの引きの強さは神懸かっている。この世界でも同じような事をしているのであれば、まあそうだよね、と即納得してしまうのが俺やシチサンだ。ともあれ、元気でやっているようで俺は嬉しいです、オジョー……!
一方、逆に心配になっているのがオジキの方だ。オジョーの情報は一発でツモったが、オジキに関しては全くと言って良いほどに情報がなかった。レイコがあえて情報を隠している――風には見えなかったが、果たしてどうだろうか。あいつが本気で本心を隠そうとしたら、正直見破れる自信はねぇんだよな。まあ、オジキもオジョーとは違う意味で恐ろしいお方だから、この世界の温いルールで死ぬ事はまずないと思うんだが、ううーむ……やっぱ心配なんてする必要ねぇか。ぜってぇ生きてるわ、それだけは断言できる。
まっ、ここで考え込んでも答えは出ねぇよな。それよか、明日見学をしに行く裏闘技場、そこのオーナーでもあるカードマスターなら、何か知っているんじゃないかと期待しておこう。俺の勘だとオジキ、裏の方で暗躍していそうだからなぁ。レイコの話によれば、そのカードマスターもオジョーと同じく七大企業を代表する奴みたいだし、それなりにカードマスターについても詳しいだろうよ。よし、そうしよう! 決定!
「そういや、何かを忘れているような気もするんだが……お、漸く頭もまどろんできやがったか」
やる事が明確になったところで、今日のところは眠るとしよう。明日もちゃんとした寝床で眠れると良いんだが。
◇ ◇ ◇
翌日、約束の時間、約束の場所、つまりは昨日の豪華テントの前にて、俺とシラスはレイコの奴を待っていた。
「……遅いな」
「もう5分も過ぎていますね。お腹が空きました」
「おいおい、今日は飯を食いに行く訳じゃねぇんだぞ……っと、おいでなすったようだ」
突如として目の前に魔法陣のようなものが敷かれ、その中よりレイコが現れる。魔法やらの何でもアリな世界観って事で、余計に驚く事はしないが……その不思議移動法、俺も使えたりすんのかな? 何か便利そうなんだが。
「お待たせ、重役出勤させてもらったわ」
「それ、部下のもんが皮肉を込めて口にする言葉だろうが。それよか、その魔法陣は何だ? 御社の商品か何かで? エリア移動をする時に使った、カードショップの転送装置とは別物だよな?」
「あっ、分かりました。今日はそれを使って移動するんですね? 歩かずに済みそうです良かったです。まる」
「残念だけど、これは商品でもなければ、今日の移動手段でもないわ。まあ、貴方達もそのうち使えるようになるわよ。順当にレベルアップを果たして行けば、ね?」
「「?」」
「はいはい、首を傾げるのは後々! 今は足を動かしなさい。行き先はあっちだから」
意味深な発言を考察する暇もなく、俺達はレイコの後を追った。またそれを教えるにはレベル足りない案件だろうか。ったく、秘密が多くて困ったものだよ。
「にしても、昨日から思っていた事ではあるんだが……このエリアに居る奴ら、何か腑抜けた顔をしている奴が多くねぇか? まだアウトカーストの奴らの方が、マシな顔つきだったぜ?」
「あ、男性の方も前のエリアはアウトカーストだったんですね。性別で分けられているとの事だったので、てっきり全然違うエリアに居たのかと」
「レベル1は男女が別々だから、全く同じ土地を2つ用意しているのよ。1つ1つはノービスプレインと同じくらいの面積だけど、合わされば最大規模のエリアになるって訳」
「なるほど、そういう事でしたか」
「それと、このエリアのカードマスターのやる気がないって話だけど……下手に過ごしやすくて、必要最低限の生活ができてしまうのが原因ね」
「ん、どういう事だ? さっさと上に行きてぇのは皆一緒だろ? 何でここで立ち止まる必要がある?」
気候的に過ごしやすいってのは分かる。埃っぽい、あと季節によって大分気温差が激しくなるらしいアウトカーストと違って、この点はでかいからな。レイコ曰く、この過ごしやすい気候を目当てに、わざわざノービスプレインに別荘を構える奴も居るんだそうだ。だが、それ以外の点は及第点にも届いていないだろう。1日2日過ごすだけならキャンプ気分で居られるだろうが、それがずっとともなれば辛くなるのは間違いない。飯だってそうだ。素材の味のみの野菜料理だけってのは、現代人にとって非常に耐え難い。
「私は割とアリだと思いますけど? ここ、見たまんま平和じゃないですか。食費さえ何とかすれば、まあ快適も快適です。ご飯も新鮮で美味しいですし」
「あの飯でか? いや、不味くはねぇけどよ……酒もねぇじゃん」
「シラスは割と過酷な世界からやって来たみたいね。そういう価値観であれば、確かにここも天国のような場所なんでしょう。今時は酒がなくても生きていける人種が増えているから、尚更に妥協しちゃう人が出てしまっているのかもね」
「そういう奴らが、それ以上レベルアップするのを諦めているってのか?」
「男女の垣根がなくなるのも大きいわ。中にはここで結婚をして、一緒に暮らすカードマスターも居るくらいだし」
「……そんなもんなのかねぇ?」
理屈は分からん事もないが、あんまり納得はできない生き方だ。
「言葉は悪いけど、どんな凡人も時間をかけさえすれば、このノービスプレインには辿り着けるのよ。死なず無駄遣いをせず、かき集めたGを正しく使っていけば、ある程度のカードは揃ってルーキー相手のアドバンテージが手に入るからね。けれど、このノービスプレインからは一気にふるいにかけられる。経験値10スタートというあまり後のない状態で、そこそこできるようになったカードマスターを相手に、勝ちを重ねていかなければならない。凡人にはそれが辛いみたいでね、勝った負けたを繰り返していく果てに、せめてアウトカーストには戻りたくないって、そんな消極的な思考に陥ってしまうの。結果、経験値の変動が起こるカードバトルには最低限しか参加せず、あとは食費を賄う為の仕事で飢えをしのぐだけ――で、この惨状よ。無能って罪よね」
そんな説明をしながら、レイコはゴミを見るような視線で辺りを一掃していた。容赦のない視線を浴びせられ、怯み後退る諦めの民達。しかし、その中のごく一部の奴らは、何やら喜んでいるようで……いや、これは言わんでおこう。
「レベル1がカードマスターの卵とすれば、レベル2は漸く孵化した雛のようなものよ。グラサン、シラス、貴方達はそんな半端未満なところで、成長を止めないでね?」




