第26話 裏闘技場
それから俺とシラスは、レイコーポレーションとのスポンサー契約内容について、詳細を確認していった。報酬額が決まる具体的な基準、どの程度どんな仕事が回ってくるのか、またそれへの参加は義務なのか自由参加なのか、仮に負けてしまった場合は会社としてどのような対応をするのか、エトセトラエトセトラ――詳細は省くが確かに儲かるし、のし上がる為の近道にもなるって事が分かった。そしてこの企業はろくなもんではなく、相応に危険だって事も理解したよ。正当な報酬が出る分、決してブラック企業って訳じゃないんだが、やっている事は深淵よりもブラックである。
「先に言っておくけど、この場ではい契約しますと頷かれても、即スポンサー契約とはいかないの。2人が本当に我が社に相応しいカードマスターなのかを軽く試験して、レベルも3になってもらう必要があるわ」
「スポンサー契約なのに試験が必要なのか? いや、もう正社員雇用云々の話はしねぇけどさ、筆記とかだったら死ぬぞ、俺?」
「私も勉学は自信ないです。同様に死にます。即死ものです」
「勝手に死なないで頂戴よ……安心して、筆記試験なんてものはないから。我が社が必要としているのは、何よりも実力よ。極端な話それさえあれば、本人が前科者・人格破綻者であったとしても、大体の事は容認されるわね」
「それはそれでどうなんだよ……」
「実力ですか……やはり、実戦を交えての試験なのでしょうか?」
「まあ、そんなところね。他に何か質問はある?」
レイコの誘いをどうするかはさて置き、ここで質問タイムが設けられる。性格の悪そうなレイコであるが、サービス精神は旺盛なようだ。
「ちなみによ、その非合法な闘技場ってのは誰が運営しているんだ? いや、そもそもこの世界自体、誰がどう運営しているのかも知らねぇんだけどよ」
「あ、それ私も知りたいです。試合で見た観客さんとか、変な人達ばかりでしたし」
「それを教えるには、まだ貴方達はレベルが足りないかしらね。レベルを上げて出直してきなさい」
「「ええっ……」」
尤も、だからと言って何でも答えてくれる訳ではないようだ。チッ、渋りやがって。
「ああ、でも限定的に答えるとすれば……裏の闘技場に関しては、その団体によって運営者が違うわね」
「団体?」
「そう、団体。それによって試合の方針が違ったりするのよ。ダメージごとに現実的な痛みが伴うリアルダメージマッチ、負けた瞬間に命が消し飛ぶその名の通りのデスマッチ、あとは犯罪者ばかりを集めたところもあったかしら? そこは性質的に派遣する機会がないから、よく知らないのよねぇ」
「逆に言えば、それ以外には堂々と参加するって感じか。つか、カードマスターに犯罪者なんて居るのか? 暴力は無意味だし、食い物とかも買う時は前払いだろ、この世界?」
「その購入した後の料理を盗むとか、大会の控え室で八百長を画策するとか、まあ色々あるのよ。法律を作れば、その抜け穴を見つけようとする。それが貴方達人間ってやつでしょ? まあ私達もそれが面白くて、わざと抜け穴を用意している節がない訳でもないけど」
「性悪だな」
「性悪ですね」
「フフッ、褒めても何も出ないわよ」
こいつらが何者なのか、今のところは伏せられている。が、まあ上位存在って時点で何となく察しがつくんだよな。オリエンテーションの時点で天使とか出していたし、そもそも本当に隠す気があるのかは謎だが。
「ともあれ、我が社は殆どの団体とお付き合いがあるから、仮に契約をするつもりなら、覚悟を決めてほしいところね。あ、そうだ。明日辺りに職場体験でもしてみる? この辺りにも低レベル向けの裏闘技場があるから、見学しようと思えばできるわよ?」
「こんなのどかな場所にもあんのかよ? 見渡した限り、それっぽい場所はなかった筈だが」
「そりゃそうでしょ。当然だけど、一般のカードマスターには見つからないようにしているのよ。万が一に発見したとしても、権利がなければ入る事もできないわ。もちろん、私が一緒なら問題ないけどね」
「あの、ここに来たからには俺ら流の歓迎を受けてもらうぜ! ヒャッハー、強制裏バトルだ! ……みたいな展開とかあります?」
「何なのよ、その意味不明な展開は……心配せずとも、本当に見学のみよ。契約も結んでいない一般カードマスター相手にそんな事をしたら、お上に何を言われるか分かったものじゃないわ。それは裏闘技場側も一緒で、だからこそ訳ありの人材がそこに集っているのよ。さっきは非合法な場所とも言ったけど、実際には存在が黙認されているようなものだからね。その辺の分別を弁えての運営なのよ」
「……?」
「シラス、難しく考えんな。どの世界も表裏一体、光があれば自然と闇もできあがるから、お互い上手く付き合う必要があるってこった」
「なるほど……!」
納得してくれたようだ。それっぽく言っただけなんだがな。
「じゃ、その職場体験とやらに参加させてもらおうかね。折角のチャンスだ」
「私もお願いしたいです」
「オーケー、なら明日のこの時間、ここに集まりましょうか。あ、ちなみにそこの団体のオーナーはカードマスターよ。この世界最高峰の実力者で多忙だけど、運が良ければ会えるかもね」
「あ? カードマスターが運営側なのかよ?」
「上に行けば行くほど、強くてGがあれば何でもできる――それがこの世界だもの。やろうと思えば私みたいに会社だって興せるし、土地を買収して建造物を建てる事だってできるわ」
「へぇ、そいつは夢が広がるな」
「自分専用の料理人を雇って、自分専用のレストランを作る事もできます?」
「できるけど……それ、わざわざレストランにする必要ある? 普通にお抱えのシェフとかにしたら?」
「そ、その手がありましたか……!」
シラスは大分天然だな。などと考えつつ、注文したマッシュポテトを完食する。ごちそうさん。まさか、マジで一切味付けされていないとはな。せめて塩コショウくらいは欲しかったぜ。
「とりあえず聞きたい事は聞けたしよ、今日のところは失礼させてもらうわ。最寄りの宿で爆睡してっから、何かあったら連絡くれ。まあ見た目よりも遠くて、全然最寄りって感じはしないんだが……」
「ああ、それなら歩いて直ぐだと思うわよ? 私が声をかけた時、少しズルして移動ができないようにしていたから」
「あの無駄なウォーキング、お前のせいかよ!? ほんっとに性格悪いのな!?」
「うふふ、ごめんなさいね。どうしても貴方を逃したくなかったものだから」
「私はもう少しここで御馳走になっていますね。グラサン、また明日」
「シラスはシラスでまだ食うのか……ああ、また明日――っと、そうだ。ひとつだけ聞き忘れていた事があった」
ある事を思い出し、テントの出入り口付近で立ち止まる。
「レイコ社長、オジキとオジョーってカードマスターを知らねぇか? 多分だが、どっちもこの世界に来ていると思うんだがよ」
「……オジョー、と言ったかしら?」
レイコの方へと振り返るのと同時に、彼女の纏う空気が様変わりした事に気付く。何つうか、主にやばい方への変化だ。げっ、何か知らねぇが、地雷を踏んだっぽい? 間近にいたシラスもその変化の影響を直に受け、手のフォークが完全に止まっていた。
「そう、グラサン貴方、やっぱりオジョーと同じ世界からやって来たのね。ええ、知っているわ。と言うか、私側の存在で知らない奴はまず居ないわね。彼女、それくらいに有名人なのよ」
「……どういう意味だ?」
「うふふ、今日一番の関心を示しているわね。なら、教えてあげる。オジョーは彼の有名な七大企業、そのうちの一社と契約を結んだ、最上位のカードマスターなの」




