第25話 レイコの誘い
今、何て言った? レイコーポレーション? え、それってもしかしてツッコミ待ちか何か? 個人的にアンタは普通の名前なのかよ、ってところから指摘したかったんだが、その後に気になる特大ワードが出て来ちゃったせいで、それどころではなくなったぞ。どうしてくれる?
「……スポンサー契約ってのは?」
数秒ほど悩み抜いた末、俺の口が捻り出した言葉はこれだった。普通の名前も変な会社の名前も、由来を聞いたところでどうしようもない。ならば、恐らくは一番有意義な質問になるであろう、これを最優先に口にするべきだと思ったんだ。人外であるこの美女の地雷が、一体どこにあるか分かったもんじゃないしな。え、こいつ自身が地雷? まあ、それはそうだとも思ってる。
「我が社が様々な面で貴方達を支援する、画期的な契約の事よ。天使達が与えた常識以外の重要情報の提供、カードマスターの実力に応じたGの支給、他にも相応の衣食住の保障も行っているわ。ちょうど、今みたいな感じでね」
「つ、つまり、いつでもどこでも食べ放題……!?」
あ、シラスがすんげぇ反応した。こいつ、食費でGが圧迫していそうだもんなぁ。
「ええ、この程度の安い料理ならいくらでも。これで貴方達のような見どころのあるカードマスターを確保できるとなれば、むしろ安いくらいだわ」
「ほわ~~~……!」
無表情がデフォだと思っていたシラスだが、案外感情表現は豊かであるようだ。しかし、うまい話には裏がある。どんな世界だって、それは同じだろうに。
「待て待て、確かにそいつは魅力的な提案だがよ。その代償にレイコ社長は俺らに何を求めるんで? スポーツ選手みたいに、ロゴ入りのユニフォームを着て大会に出るとかか?」
「ああ、そういう企業も多いわよ? 有名なカードマスターになってくれれば宣伝になるし、商品のCMにそのまま出る事だって珍しくないわね。けど、うちは少し毛色が違うのよ」
「「……」」
思わず押し黙ってしまう。レイコの笑顔は凄まじく絵になるものだ。同性のシラスからしても、それは同じように映っているだろう。ただ、やっぱ何かやべぇ圧があるっつうか……この後に出る言葉が、絶対にろくでもない事だという信頼感に繋がってしまっている。
「そもそもの話、レイコーポレーションが何の会社なのか、その説明をしていなかったわね? 気になる?」
「……まあ食べ放題の権利がかかっていますし、気にはなりますね」
「ああ、ここまで話を聞いた手前な」
「フフッ、良い子達ね。レイコーポレーションは表向き、新鋭の警備会社っていう事になっているの。この世界に荒事はないけど、何でもかんでもカードバトルで片を付けようって風潮があってね。そういった揉め事の対応担当として、専属のカードマスターを派遣、警備に当たらせるのが主な仕事なの」
「……それってスポンサー契約っつうより、社員として雇用していないか?」
「見方によってはそうかも? けど、カードマスターでもない私側の存在じゃ、同じような介入はできないのよね。だから、さっき言ったCMとかの派生形とでも思っておいて。有名なカードマスターほど、派遣した時の受けが良いのよ、色々な意味でね」
嘘は言っていない、ように思える。ただ気になるのは、今言った仕事は表向きのもので、本業は他にあるとでも言いた気な口振りなところだ。で、こいつが俺やシラスにやらせたいのは、多分そっちの仕事な訳で。
「レイコさん」
シラスもその事に気付いたのか、目つきが鋭く――いや、相変わらず無表情な感じだけど、勘付いてはいる様子だ。
「おかわりお願いしても良いですか?」
「もちろん」
……前言撤回しても良いかな? ま、まあ、このタイミングでそれを聞ける胆力は確かにすげぇけど。
「あー……表向きの企業がどんなもんかは分かったよ。で、本業の方は?」
「あら、随分と興味津々ね? 我が社に関心を持ってくれて、本当に嬉しいわ」
「すまん、ぶっちゃけ今寝不足状態で辛いんだわ。単刀直入に言ってくれると助かる」
「そう? なら仕方ないわね……荒事があった場所にカードマスターを派遣する。その在り方がレイコーポレーションの実態である事に変わりはないのだけれど、その派遣先がちょっと特殊なのよね。例えば……そう、裏のカードバトルを生業としている非合法な闘技場に、とか」
ここにきて、レイコが今日一番の満面の笑みを浮かべ始める。
「へえ、ここにもそんな場所があるのか。まあ、当然あるよな」
「経験値じゃなくて、命を対価にするってところですか? その分、リターンも大きいと。良いですね、沢山食費になりそう」
「あらやだ、この子達ったら全然驚かないわ」
が、その笑みは直ぐに消えてしまう。見たまんま、レイコは性格がよろしくないらしい。
「まあ、こっちは前世でも似たような仕事をしていたからな。つか、俺としてはシラスが普通に順応してんのが驚きだよ。お前さんみたいな若い奴が、何で普通にしていやがるんだ?」
「グラサンの世界がどんなものなのか知りませんけど、こっちはこっちで日々生きる事に必死でしたから。特に私はこの通り、大食いでしたし」
「あー……」
考えてみれば、ファンタジー世界って血みどろな路線もあり得るのか。こいつの境遇は想像するしかねぇが、現代みてぇに普通に生活していれば食えていける、みたいな常識はないのかもしれない。今日の飯代を稼ぐのにも命懸け、そんなのが日常だったとすれば、この覚悟の決まりようも納得ってもんだ。
「2人とも、本当に素敵ね。私の目はやっぱり確かだったみたい」
「自画自賛しているところ悪いけどよ、俺らを引き込みたいのなら、もう少し情報が欲しいところだな。その裏のカードバトル、具体的にはどういったもんなんだ?」
「さっきシラスが言った通りのものよ。ハイリスクハイリターン、時には命をも賭けの対象とする闘技場が秘密裏に存在していて、地位を隠してやって来た闇の住人達を日夜楽しませているのよ。大会と言うよりも、そいつらが利権とかを賭けて、子飼いのカードマスターを競わせているって感じね。言ってしまえば、カードバトルの体を成した抗争に近いかしら? まっ、実際のところはどいつもこいつも汚い金持ちばかりだから、ただ血が見たいってだけだと思うけどね。ホント趣味が悪いわ、うふふ。……そしてご想像の通り、負けたカードマスターはタダじゃ済まない世界よ。ただ――」
どこからか骨付き肉を取り出し、豪快にそれに噛みつくレイコ。
「――勝った時のリターンもそれ相応、得られる経験値もGも表の比じゃないわ。どう、ますます興味が湧いたかしら?」
「肉あるんじゃねぇか。酒は? 酒はないのか?」
「肉あるんじゃないですか! 狡い、私も食べたいです! それ、食べたいです!」
「……2人とも、ズレてるとかよく言われない?」
いや、だって目の前でそんな不可思議マジックを見せたらたら、なあ?
だが実際問題、経験値を真っ当に稼ぐのは面倒なんだよな。アウトカーストの時は最初から経験値が50スタートで、レベルアップが近かったし大会にも即参加できたが、このノービスプレインではそうもいかない。レベルアップ前に得た経験値の大小に関係なく、経験値は10での固定スタート。大会に参加するにもやはり50は必要のようで、最低でも野良バトルで40連勝する必要がある。そこまでして漸く大会への参加権利が得られるっていう、マジのマジで長い道のり――相手の実力次第ってのもあるが、命を賭ける程度でその過程を省けるってんなら、選択肢としては普通にアリか。
「つまるところ、俺らはアレか? その抗争の代役カードマスターとして、裏のバトルに参加させられるって事か?」
「流石、話が早いわね。そう、我が社は依頼人の下に適切な人材を送り、勝利を約束するのが本業なの。戦争における傭兵、麻雀における代打ちとでも言えるかしら。どう? やりがいのある仕事だと思わない?」
うん、うん……でもやっぱりこれ、スポンサー契約っつうより正社員の雇用だよな?




