77
空の公爵も貴公子も、よく鬼と一緒にいられると思った。
「父上は、鬼を信頼している。もう一度狙われることはないだろうと。
僕は心配だ。ふとしたきっかけで、心変わりするんじゃないかと」
「坊っちゃんが正しいと思う。俺も俺を信用できない」
「そこは否定してくれ」
神妙にうなずく鬼に、貴公子はため息をついた。
「どんな人物かも知らされず、小さい頃から鬼が隣にいた。ここまで付き合ってきたんだ、行くところまで行くさ」
「なーに、心変わりなんかしない。だって俺は、いい人だからな」
鬼は、笑っていた。
やけに疲れた昼食だった。貴公子と鬼と別れた帰り道、聖女はつぶやく。
「いい人って、どんな人だろう……」
いい人とは。てっきり真っ先に思い浮かぶのは女神かと思ったが、違った。ギーセだ。
あのとき、俺がドーターに殺されそうになったとき、自らを顧みずに俺を助けた場面が、鮮明に浮かんだ。逆の立場だったら、俺もそうありたいと思っても、見捨てて逃げ出す自分の姿がありありと思い浮かんだ。
俺と比べれば、育ててくれた家族も、救ってくれた女神も、出会ってきた人はいい人ばかりだ。
「やっぱり、みんなみたいな人だよね、いい人って。私は幸せ者だ」
嬉しそうに言い放つ聖女に、四人で顔を見合わせた。
「私が聖女様に何を勧めたか、忘れたんですか? 最後まで悩み苦しんだ聖女様こそ、いい人です」
「力を投げ出した私がいい人だなんて、どうかしてる。それに、何もかも私のために言ったことだって、わかってる。そんなあなたに、私は何もしてあげられてないのに」
「私は、別に何もしてほしくありません。ただ聖女様の幸せな毎日を眺めていたいだけなのに、何か勘違いしてませんか」
「そんなこと言われても、納得できるわけない!」
微笑ましい喧嘩が始まってしまった。
「何を笑ってるんですか! 鉄球さんこそ、いつも鉄球みたいです! そのうち本当に鉄球になっちゃっても知りませんから!」
何を言われているのだろう。
フルルは、寒そうに体をさする。
「私がいい人だなんて、悪寒がする」
女神は、暗い顔を反らす。
「私がいい人だなんて、なんておこがましい……」
とても気まずい帰り道だった。




