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見たこともない凝った作りの料理だった。テーブルマナーというものがあるらしく、俺はさっぱり分からない。美しい所作のフルルを見様見真似して、しのいだ。
貴公子の料理だけ、他とは違っている。
「体質の問題で、献立に気をつけないと太ってしまう。これ以上太ったら、本当に鬼に担がれる羽目になる」
「そうそう、決して食いすぎてるわけじゃない。たまに誤解される、いいご身分だって。心ないやつは、そんなに食う分があるなら貧しい民に分け与えろ、って責め立てる」
「いや、違う。僕の食事は、食材の選別や調理法に至るまで、金がかかっている。金をかけた分を、公爵家に生まれた者として、別の形で還元しなければならないと思っている」
貴族とは、自分の食事にそんなことまで考えるものなのだろうか。
貴公子は、料理を見つめる。
「しかし、僕は未熟者だ。何をやっても人並みにできない。精進しなければ」
「まあ、武術の才能もからっきしだ。だからって、坊っちゃんが強くなろうとする必要はない。そのために俺のようなやつがいる。
自分にできないのならできる人を集めろ、そう公爵の言っていた通りだ。坊っちゃんには、たくさんの人の助けが必要だ。どこかに、優秀なやつらがいたらいいのになー……」
鬼は、ちらちらこちらを見た。
貴公子は、鬼の異変に気づいた。
「鬼、何かやらかしたな?」
「あ、いや、その……ちょっと用事を思い出したから、出かけてくる」
「お前は僕の護衛だろう」
「こいつらなら放っといても大丈夫大丈夫」
鬼は、食事室を出ていってしまった。
「みなさん、何があったか聞かせてほしい」
スカウトの話をすると、貴公子はため息をついた。
「確かに、それは魅力的だ。僕も、みなさんと仲良くなりたいが、主従の関係に限った話ではない。
鬼の無礼、申し訳ない。悪い人では……いや、悪い人だが、今はそうならないように心がけていると思う、たぶん」
鬼はいったい何者なのだろう。主への態度も異質なものだった。
「鬼は元々傭兵であり、僕の父、現公爵を狙う暗殺者だった」
とんでもない人だった。




