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航空艦の船員が貴公子に敬礼をした。貴公子は本当に貴公子だった。
甲板に上って艦内に入り、執事に先導されて豪華な食事室に案内された。
「ふう。失礼、艦を出入りするだけでも大変で」
貴公子は、荒い息を整えた。そのそばに、鬼が控えている。
「ついに、俺に担がれて運ばれる気になったか?」
「いい運動になっているよ」
うながされるまま席につく。食事の準備はすべて船員がやってくれて、ただ座っているだけでいいのが、どうも慣れずにそわそわした。
「みなさん。今日は僕の招待に応じてくれて、ありがとう。この機会に、ぜひ親交を深めたいと思う。遠慮なく何でも言ってほしい」
鬼はああ言っていたが、なぜ誘われたのだろう。
「みなさんの噂や活躍を耳にして、話をしたくなった。こんな大げさな形にしたのも、もてなしたい気持ちの他に、僕をわかりやすく知ってもらえると思ったからだ」
噂や活躍とは何だろう。
「最近では、古の勇者と魔王の美術館の人々を救い、古の魔王さえも退治されたとのこと。以前の魂の迷宮での事件も知って、どんな方かお会いしてみたかった。噂以上の立派な冒険者のようだ」
全部、女神の功績だ。いたたまれなくなり、グラスの水を飲んでごまかした。
「聖女殿のお力についても聞いている。ぶしつけな質問であれば申し訳ないが、先日失われてしまったとか。僕が何かお役に立てないだろうか」
聖女は、やんわりと断った。取り除いたのではなく失ったことになっている。
「必要であれば、いつでも言ってほしい。僕個人ではなく、僕の家の力が助けになれるかもしれない。
僕の家、帝国の公爵家については、ご存知だろうか?」
鬼が空の公爵家と言っていた。
「僕の家は空、他に食や武とそれぞれ呼ばれる公爵家があり、三大公と言われている。なぜ空なのか。空の公爵家が治める領地から、浮遊石という資源が採掘されるからだ」
浮遊石。
「物質を重力に反して宙に浮かび上がらせる魔力を秘めている。言わば、大地に眠る魔石だ。
遥か昔、天空を漂っていた大陸が、大地に墜落した。大陸に押し潰され、荒れ果てた岩石の世界を開拓したのが、僕のご先祖様とされている。大陸を浮かばせていた浮遊石の存在が明らかになると、独占して財を成した。
浮遊石の研究や製品の開発が進められ、この航空艦の動力にも浮遊石が使われている。輸送や兵器など、様々な用途に利用される現在の主力製品だ」
どうやら貴公子は、思ったよりすごい人らしい。俺と同じように侍女はぽかんとしているし、女神と聖女は興味深く聞いていた。
眠たそうなフルルの目が、カッと開く。食欲をそそる香りの料理が運ばれてきていた。




