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身支度を終えて、みんなの前にきた聖女の異変に、最初に気づいたのは侍女だった。
「失礼します」
侍女は、聖女の額に手を当てる。
「……熱があります。今日は休みましょう」
聖女の顔は赤らみ、ぼーっとしていた。
聖女も、登校を止められると覚悟していたようだ。
「どうして、よりにもよって今日になって……」
「限界を超えたと体が知らせているんでしょう。今日のことは私たちに任せて、ゆっくり寝てください」
聖女は、悔しそうだった。
「迷惑をかけてばかりで、ごめんね」
謝ることではないのに、そう言わずにはいられないのだろう。
聖女の看病と警護を侍女とフルルが担当して、俺はクーシーの世話に向かった。
俺が世話しているクーシーは、俺を見ると遊ぼうとはしゃぎだす。飼い主というより、兄弟のような関係になってしまった。世話をしている分俺が兄貴分だが、そうなれなければわがまま放題だったかもしれない。
聖女のクーシーは違う。自分よりか弱い聖女に従順だ。クーシー自身がそうありたいと思っている節さえ見られる。自分を見てほしい、語りかけてほしい、触れてほしい。まるで親と幼い子のような関係だった。
俺が代わりに聖女のクーシーを世話した。俺も世話係の一人として認識されていて、滞りなく作業が進んだ。ただクーシーは、いつもなら聖女が姿を現す方向を、じっと見つめて待ち続けていた。
クーシーの訓練を見せてもらった。
モンスター使いの人が騎乗して操り、風のように障害物を超えていく。
マリオネットを相手に、戦闘の訓練もする。すべてモンスター使いのかけ声に従って動く。吠えろと命令されれば吠え、噛みつけと命令されれば噛みつき、放せと命令されれば放す。獰猛さはなく、獲物を襲うときとは別物になるよう訓練されていた。
臭いの嗅ぎ分けや追跡は、マリオネットにはできない。聖女が最も楽しみにしていた訓練だった。
聖女に訓練の様子を伝えれば役に立つかもしれない。最後までつぶさに観察して、元気になったら話そうと思った。




