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馬車に乗り込み、天空の竜のクラン本拠地へ向かう。以前ドラゴンのマリオネットが発着した場所だ。
人目を気にしてフードを深く被った聖女は、馬車の中から久しぶりの町並みを眺めていた。
クラン本拠地に着いた。俺たちを先導する勇者は、ある人物に報告する。
「リーダー、ただいま」
「おかえり、ご苦労さん」
リーダーは珍しい亜人だった。二対の翼を背中に生やす、ドラゴニュートと呼ばれる人間のようなドラゴンの亜人だ。
「この天空の竜のリーダーを任せてもらっている。そこのお嬢さんが聖女と呼ばれている子か?」
「は、はい」
「お前さんの薬でドラゴンが救われたことがある。おかげでそいつは無事に卵を出産できた。本当にありがとう」
「いえ、私は何も……」
「なんだ、謙虚だな。どこぞの誰かさんに見習ってほしいくらいだ。そいつときたら、仕事が終わったら一々自慢しにきてうっとうしいったらない」
勇者は、大げさにうなづく。
「本当に。そいつときたら、私に次々と仕事を押しつけてきてきりがないんだから」
「とっておいた俺の酒を勝手に飲みやがったこともあったな」
「とっておいた私の果物を盗み食いされたっけ」
アワアワする聖女を尻目に、勇者とリーダーはお互いを牽制した。仲が良いからこそだろう。
勇者を放っておいて、リーダーは俺を見た。
「これまた面白そうなのもいるな。よし、とりあえず相撲をしよう。かかってこい、女神の鉄球」
なぜそうなる。
助けを求めてフルルを見てみる。
「いいぞやれ! ぶっとばせ!」
聖女と侍女を見てみる。
「怪我に気をつけてね」
「頑張ってください!」
勇者を見てみる。含みのある笑みをしている。何かを企んでいるに違いない。
やるしかなさそうだ。リーダーと向かい合って構えた。勇者の号令とともに激突し、組み合う。
「――これが本当にサル人間の力かッ!?」
リーダーとの力比べは、互角だ。ドラゴニュートと互角に渡り合えることを誇るべきなのだろう。
「ドラゴニュートは生まれつき強い種族だ。それに加えて鍛錬も怠らなかった。それなのに互角ってのは大したもんだ。
だが、魔法を使えないんだってな。この勝負、もらったッ!」
強化の魔法だ。リーダーの力がぐんと上がる。もう成すすべがない、投げ飛ばされる。
そう思った次の瞬間、全身に魔力が満ちる感覚がした。騎士に流された悪意のある冷たい魔力とは違う、思いやりのある温かな魔力だ。
「――何ッ!?」
リーダーを上回る力が湧き出てきた。投げ飛ばした俺の勝利だ。
勇者は喜んでいる。
「はい、リーダーの負け。おめでとう、女神の鉄球」
リーダーは、呆れたように笑った。
「そういうことか。魔法をかけやがったな」
勇者の魔法が俺に力を与えたということだろうか。信じられない、そう思う理由があった。




