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魔法は、直接相手に触れるか、生物由来の素材を通さなければ効果を与えられない。例として、騎士が俺にかけた眠りの魔法が前者で、リードを通して本体に魔力を流すマリオネットの魔法が後者だ。
離れたところにいた勇者が俺に魔法をかけられるはずがない。その疑問には、リーダーが答える。
「勇者は、世界に三人しかいない遠隔魔法の使い手の一人だ。離れたところから対象に魔法をかけることができる。ずるいよな」
「勝てるとわかりきった勝負を挑む人の方がずるい」
「実力を確かめたかった。噂ほどじゃなかったが、思っていた以上だった。試しにうちで働いてみないか?」
まさかの勧誘に、冗談かと思った。
「本気だ。暇になったらいつでも訪ねてくれ。
皆さん、お騒がせして申し訳ない。俺はこれで失礼する。精々勇者をこき使ってあげてくれ」
「はいはい、早くどっか行って」
追い立てられたリーダーは立ち去った。
気を取り直して、勇者は本拠地を案内した。その中でも目を引くのは、敷地に寝そべる継ぎ接ぎドラゴンのマリオネットだ。
「このあと、ゴンドラに乗って空の旅をしようと思ってる。
バロート。お客さんを連れてきたよ」
継ぎ接ぎドラゴンを点検整備していたバロートは、チラッとこちらを確認して作業に戻った。仮面で顔を隠していて、感情が読めない。
「彼がマリオネットを操縦して連れて行ってくれる。私の知る限り、最強のマリオネットを操る、最強のマリオネット使い。だから安心して楽しんで」
バロートに挨拶をすると、会釈が返ってきた。
「無口な人だから。このクランの創設メンバーで、リーダーも子供の頃からお世話になっているらしい。リーダーも年齢が怪しい人だから、バロートもあんな若い見た目でどうなっているのやら。このクランの人って、変な人ばっかりなんだよね」
勇者もその一人だろう。そんな俺の浅はかな考えを、勇者は見抜いていた。
「あなたも他人事じゃないからね?」
俺も彼らのような変な人だというのか。さすがにそれはない。
フルルは、信じられないといった顔で俺を見ている。
「お前は私が会った人間の中でも指折りの変人だ」
変なオートマタのフルルにだけは言われたくない。
聖女は、俺を憐れんでいる。
「私は変でも気にしないよ」
言っては何だが、聖女も変人側の人間だ。
最後の一人に視線が集まる。
「まさか、私も……?」
唯一残った一般人の侍女は、不安そうだった。




