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俺に面会に来た人がいると、学園から連絡が入った。俺にこの依頼を勧めた騎士だった。
フルルに聖女を任せ、騎士と外のベンチに座った。
「王家のための聖女の薬を受け取りに来た。君に警護を任せた責任もある。様子を知りたかったが、何かあったのか?」
王家は、聖女についてどう考えているのだろう。
「学園に一任している。警備体制や体調管理なども含めて、ここが住居として最も適していると判断された。そうではないのか?」
聖女に害が及ばない環境なのは間違いない。聖女が苦しんでいるのは、聖女自身の問題なのだろう。
髪を伸ばすことさえ罪悪感に苛まれる。自身を狙う者への恐怖から、出かけることもできない。俺やフルルのような性格や力を持っていれば違う人生を送れるだろうに、聖女はそうではない。だから今のままで仕方ない、とは思いたくない。
「何不自由なく暮らせているのだから、それくらい……」
そう言った騎士は、自分の言葉にうろたえた。
「すまない、部外者だというのに、バカなことを口走った。改めないといけないな。
王女殿下のお側に仕える騎士にまでのぼりつめた。相応しい人間になる、そう誓ったはずなのに」
騎士は、笑顔を取り繕う。
「君を選んだ判断は間違っていなかった。聖女も君が側にいてくれて頼もしかったはずだ。思い悩んでいる君には、休息が必要に思える」
騎士は、俺の肩に手を乗せる。
「一度ゆっくり休むといい。目覚めたら、悩みも解消されているだろう」
騎士の手から、何かの力が流れ込んできた。これはおそらく、魔力だ。
強烈な眠気に襲われ、姿勢を保てない。ずるりと地面に倒れた俺の懐から、騎士は聖女の居室へ繋がる魔石の鍵を抜き取った。
眠りの魔法をかけられた。俺の体調を慮っての行動ではないこと、聖女を狙っての行動であることは明らかだ。
騎士の足首を掴み、潰すつもりで握りしめる。オートマタをちぎった俺の力を、騎士は耐えた。強化の魔法を使ったのだろう。
「手荒な真似はしたくなかったが、仕方ない」
騎士は、俺の手を外そうと躍起になった。
死んでもこの手を離してはならない。うかつな自分への怒りと情けなさを糧に、それだけを考えた。
「いい加減に放してくれ! ――うおッ!?」
騎士を引きずり倒す。殴られ蹴られるうちに、眠気が紛れていた。
鉄球を拾い、振りかぶる。
「よ、よせッ……」
顔面に叩きつけた。騎士ともあれば、命までは失わないだろう。
自分の体をつねって眠気をごまかし、意識を失った騎士を引きずって、警備の事務所まで引っ張っていった。




