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 伸びた髪を剃りたいと、聖女は侍女に頼んだ。伸びたと言うにはあまりにも短く、丸刈り頭にしか見えない。


「聖女様、もっと髪を伸ばしてみませんか?」


「もう十分伸びたから、お願い」


「もったいないと、いつも思っていました。聖女様なら、きっとどんな髪型も似合うと思います」


 いつになく頑なな侍女に、聖女は戸惑った。


「薬を待っている人たちがいる。そんなわがままを言っていたら、間に合わなくなるかもしれない。あなたも知っているのに、どうしてそんなことを言うの?」


「いいじゃありませんか、それで」


 耳を疑う聖女に、侍女は優しく語りかける。


「聖女様の髪を梳かしたいんです。そのあと、おめかしをして、みんなで出かけましょう。警護のお二人がいれば、誰も聖女様を傷つけられません。責める人がいたなら、私がそそのかしたのだと盾になります」


「そんなこと、許されるわけがない」


「誰に許されなくてもいい。同じ苦しみを味わうのなら、誰かのためではなく、自分のために生きてほしい。聖女様も、こんな人生は嫌だから苦しんでいるのでしょう?」


 聖女は目を閉じる。


「もうあんな目にあいたくない、あんな目で見られたくない。私は、これでいい、こうするしかない」


 侍女は、悲しそうだった。


「……私には、もうできません。他の方にお願いしてください」


「待って!」


 聖女の声も虚しく、侍女は部屋を出ていった。


 その後、侍女は俺とフルルに相談にきた。


「どんな病も治す薬になる、そんな呪いのような力があるから苦しむ。取り除く方法に心当たりはありませんか?」


 確かに、そんな方法があればいいと思う。だが、俺もフルルも知らなかった。


「それなら、聖女でなくなればいいのなら、誰も彼女が聖女だと知らないところへ行けばいい。学園のその上、王国自体が彼女を保護しています。だから、国外へ行くというのは、どう思いますか?」


 思い切った話だ。どこまで考えているのだろうか。


「それは、まだ……」


「私と女神の鉄球がいれば、どこへでも行ける。ね?」


 当然のように俺も含まれていた。


 聖女を連れて国外への逃避行。王国だけでなく、冒険者ギルドも追っ手になる。冒険者ギルドは世界中に勢力を伸ばしているため、町らしい町に居場所はない。俺の故郷のようなど田舎やフロンティア、人里離れた辺境に隠れ住むしかなくなる。それもいつまで続けられるだろう。


 聖女がそう望むなら、それもいいかと思った。俺とフルルはともかく、聖女と侍女の体力だけが心配だった。


「私の城に来るっていう最後の手段もある。オートマタは私の命令に背けないけど、お母様と姉妹にバレたらヤバいから、なんとか説得してみる」


 今より最悪の環境に行ってどうする。


 呆気に取られていた侍女は、笑った。


「冒険者とは、凄いですね。すべては私の身勝手な妄想です。話を聞いてくれて、ありがとうございます」


 いくらでも聞く。俺にはそれくらいしかできることが思い浮かばなかった。


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