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 警備の事務所で事情を確認すると、聖女の薬を受け取りに来たという騎士の話は嘘だった。王女の護衛騎士という立場と俺を利用して、聖女に近づこうとした。


 周りから見れば、騎士が聖女を狙った証拠がなく、騎士の聴取が必要な状況だ。目的は何だったのか、そして俺に罪をなすりつける気だったら厄介なことになる。


 知らせを聞いたのか到着した理事とともに、拘束され治療を施された騎士が目覚めるまで待つ。


「ここは……」


 目覚めて周囲を確認した騎士は、自身の拘束に気づいて状況を理解した。


「すまなかった。聖女に近づくために、君を利用した。どうしても薬が必要だった」


 素直に認めた騎士に一安心したが、それで終わりではなかった。


「今さら君に頼むのは筋が違うだろうが、話を聞いてくれ。妻とお腹の子の命がかかっているんだ。

 妊娠してから妻の病が判明した。このままでは妻の体が出産に耐えられないと告げられた。お腹の子の状態も芳しくない。手の施しようがなく、残された手段は聖女の薬だけだ。

 頼む、髪の毛の束でいい、手に入れてとある場所に届けてくれないか」


 嘘であってほしい話だった。


 髪の毛の一本さえ聖女は持っていない。そう言っても、騎士は諦めない。


「それなら、爪の一枚はあるだろう。血液でもいい。薬の材料になりそうな体の一部なら、何でもいい」


 騎士の目は、狂気を帯びていた。


 聖女は、こんな目をした人間たちの中で生きてきたのだろうか。俺の想像を絶していた。


 俺にもできることがあった。俺が聖女の代わりに壁になる。もう聖女はこんな視線にさらされないでほしい。こんなことがあったとは知らずに、平穏な毎日を過ごしてほしい。


 断ると、騎士は愕然とした。


「なぜだ。二人の命がかかっているんだぞ。それくらい、いいじゃないか」


 聖女なら分け与えるかもしれないが、もう傷ついてほしくない。騎士の家族の責任を負うことになるとしても、そう思った。


 話を聞いていた理事は、騎士に告げる。


「それを許せば、聖女は明日にでも干からび、骨の欠片さえ残さず消え去るだろう。聖女の奇跡を求める者は、お前だけではない。

 聖女の薬が今ほどの効果まで高められたのは、我々の研究の成果だ。爪を煎じて飲んだ程度では、風邪を治すくらいにしかならない。研究材料を求める何者かに騙されたな」


「では、持ち帰ったところで、私の家族は?」


「助けられるかどうかは怪しい。薬を相応の対価を支払って手に入れるべきだった」


「私にそんな財産はなかった」


「対価とは金銭に限らない。提示する対価を支払うというのなら、聖女の薬をお前の家族に届けよう」


「それは……?」


「我々がお前の身柄を引き取る。もう家族には会えなくなるが、それでも構わないか?」


 聖女の薬と引き換えるほどの対価。それでも騎士はうなずいた。


「二人を助けられるというのなら、命も捧げよう」


「生きたお前にこそ我々にとって価値がある。王国の騎士ほどの人間ならば、期待できそうだ」


 理事の表情に感情はなかった。


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