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フルルと二人で王国立学園にやってきた。貴族や成績優秀な庶民も入学できる、広大な規模の学園だ。
守衛から医療分野の施設が並び立つ区画を案内された。その本棟では研究や学生の教育を、病棟では患者を受け入れて治療が行われている。
受付に話を通したあと、案内された部屋には理事がいた。
「どうぞ」
ソファーに座って面と向かった。年老いているが言葉に力のある人だ。
「冒険者ギルドの推薦であれば、実力は申し分ないことと思う。お二人の人となりを知りたい。聖女の薬についてどれだけ知っているだろうか?」
どんな病も治す魔法の薬は、聖者の聖水と同じく聖女の体の一部を混ぜて作られている。
「世界中にただ一人、彼女だけが生まれ持った奇跡の体質だ。しかし、希少なため、限られた者しか恩恵を授かれず、世の病に苦しむ人々が尽きることはない。
聖女の薬から得た利益を、医学の発展に投資させてもらえないか、死後も人々を救うことに繋がると、我々は彼女にそう望んだ」
理事は淡々と語る。
「聖女の遺体も余すことなく利用させてほしい、そう望んだ。魔石と遺体の一部は、薬液に保存され後世に残される手はずになっている。それらを手がかりに、新たな魔法の発見に繋がると期待している。
他の部分は、乾燥後、破砕して粉末状に変え、薬にさせてほしい、そう望んだ。数に限りができた薬の価値は一層高まるだろう。
彼女の献身によって大勢の人々が救われると、我々は信じている」
聖女は病に苦しむ人々を助けている。そんな人が、なぜこうも聞くに堪えない目に合わなければならないのか。
理事は顔色を変えない。
「聖女の元に案内しよう。会って話をしてみてほしい」
聖女の居室は、空の近い最上階にあった。何重もの魔石の鍵で隔てられた廊下の先、部屋の窓際に聖女は座っていた。
薬の材料に使われているのだろう、髪も眉も剃られてなくなっていた。膝に乗せた本を閉じる手は震えていて、指を何本も失っている。
「我々が保護する以前、彼女の力を欲して手段を選ばない者がいた。そういう者から、君たちが彼女を守ってくれ」
理事自身がその一人ではないのか。
「医学の道を志し、老いた今はそれだけが唯一の心の拠り所になっている。その志に恥じる行いだけはしていない」
この人は、らちがあかない。聖女本人に確かめるしかない。ここから助け出して、そんな一言さえあれば、何が相手でも戦える気がした。
「私は、ここにいないと」
聖女はうつむく。
「私がいなくなったら、助けられるはずだった人が助からない。だから私は、ここにいないといけない」
脅されているのではないかと、信じられなかった。
「ここを出て、どこへ行けというの? 病に苦しむ人々を見捨てて行けというの? そんなの、耐えられない。一生後悔する。一生忘れられない……」
涙をこぼす聖女に、俺は何も言葉をかけられなかった。




