21
天使はベルを持っていた。ベルの音色が悪魔の像を静めたようだ。
「ゴーレム。人間から酷い仕打ちを受けてもなお、ともに生きることを諦めなかった者たち。まだ生き残っていたなんて。
ゴーレムを知らないということは、君は異世界から迷い込んだのか」
ハチが天使を警戒していることが気になるが、危ないところを助けてくれたことを感謝した。ギーセを治療してもらえないかお願いした。
「僕の町に来れば、治療魔法を施してあげられる。外には、こんな紛い物とは違う本物の悪魔たちがいて危険だから、僕が守ってあげよう」
ギーセを助けられる。ハチと一緒に行こうとした。
「待ってくれ、そのゴーレムはここで処分する。危ないから離れた方がいい」
天使の言葉に耳を疑った。
「ゴーレムはとても危険なんだ。処分できるうちにしておかないと、力を取り戻したら厄介なことになる」
天使は、剣を鞘から抜いた。
天使は本気だ。ギーセのために、ハチを見捨てなければならないというのか。
断ることができず、ハチを見捨てるという選択肢が頭をよぎった。人は追い詰められると本性を現すと聞いたことがある。これが俺の本性なのかもしれない。
ハチが、前に進み出た。殺されるというのに、受け入れる気でいる。俺とギーセを見て、バイバイと手を振った。
ハチは同じだ、ギーセや賢者や女神と。なぜだかわからないが、彼らを見捨ててはならない、強くそう思った。
どうか見逃してはもらえないだろうか。天使に頼み込んだ。
「邪魔をするなら容赦はできない。警告はしたよ」
天使は剣を構える。
なんとかなる、これまでもそうだったと、自分の力を過信したのだろう。ハチをかばった俺は、天使の剣に胸を貫かれた。
どんな痛みも、どれだけ経験しても慣れることはない。呼吸ができなくなり、血を吐いた。
辛そうに俺を見守り、寄り添うハチ。見捨てようとしたことを許してほしい。
天使が剣を振るう。目の前で、ハチは無惨に殺された。ハチの体から、赤色の魔石がこぼれ落ち、床に転がって虚しい音を立てた。
あまりにも簡単に命を救い、奪う。
「君は、もうだめだね。君の友人は、手を尽くすと約束しよう」
天使にとって、俺たちの生き死には、ついでなのだろう。どうでもいい、そんな目をしていた。
ギーセを連れて去っていく足音を聞きながら、目を閉じる。苦痛に悶える時間が過ぎ去ると、一瞬にも永遠にも感じられる平穏が訪れた。
ギーセは助かってほしい。そして家族と幸せに生きてほしい。ギーセのような人の人生は、そうあるべきだ。
女神。もう一度会って感謝を伝えたかった。なぜ俺に恩恵を授けたのか、悲しそうな顔をしていたのかを聞きたかった。俺は、女神の悲しみを晴らして、笑顔を見たかったのかもしれない。
最後に、なぜか勇者の姿が思い浮かんだ。かっこいい人だった。もっと話をしてみたかった。自分でも気づかないうちに、恋心でも抱いていたのだろうか。
そんな自分をバカらしく思っているうちに、意識が薄れていった。




