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「ここから帰れたら、俺の村に行ってみてくれ。いいところなんだ」
ギーセはゆっくりと語る。
「海を見たことがあるか? 王都で暮らしてわかった。当たり前だった景色が、どれだけ素晴らしいものだったかを。恋しいな……」
ギーセは笑い声を漏らす。
「みんなにお前の話をしたら、信じてもらえなかったけど、言ってやったよ。今に見とけ、お前の名前を覚えとけって。女神の鉄球、その二つ名とともに、きっとみんなの耳にも届く日が来る……」
ギーセの声が小さくなっていく。
「みんな……ごめん……」
それきりギーセは気を失った。
一刻を争う状況だというのに、俺はただただ走り続けることしかできなかった。
巨大な扉がそびえ立つ空間に出た。入り口を塞ぎ、追っ手を足止めする。
ハチが扉に駆け寄っていった。扉を開く必要があるらしい。
ギーセを寝かせて、扉を力の限り押したが、ぴくりとも動かない。
一緒に押していたハチは、開かないことに困惑している。
悪魔の像が入り口をこじ開ける音がする。
扉が開かなければどうすればいい。ハチは何も答えられなかった。
この扉を開くしかない。このまま開かなければどうなるのか、その事実を頭から振り払うために、微動だにしない扉を押し続けた。
背後から複数の重い足音が近寄ってくる。入り口を突破した悪魔の像の群れが迫っていた。
悪魔の像の目に感情はない。仲間をどれだけ壊されても、怒ることも悲しむこともなく襲ってきた。そのアンデッドやオートマタと同じ不気味さに、恐怖を掻き立てられた。
一つわかったことがある。俺にとって、ギーセは女神や賢者と同じくくりに属する人だ。なぜそう感じるのかまではわからないが、彼らのことを思うと、不思議と恐怖に立ち向かう力が湧いてくる。
こんな状況では、ハチも連れて帰ることになるだろう。三人で元の世界に帰ろう。
悪魔の像との戦いを始めようとしたそのとき、澄んだ音色が響き渡った。
まるで眠ったかのように、目を閉じた悪魔の像たちは、動きを止めた。
何が起こったのか、それを引き起こした者の声が答える。
「何事かと思えば、君の仕業か、ゴーレム」
男とも女とも取れる声と容姿、その人物の頭上には、天使の輪っかが浮かんでいた。
天使は、ハチをゴーレムと呼んだ。




