12
ある日、街の様子がいつもと違った。空を見上げる人が目についた。
澄みわたる青空と太陽の他に、小さな点が空に浮かんでいた。ゴンドラを体にぶら下げる何かの姿が見えた。
見上げる人は誰も騒がない。あれが何なのか、そして危険な相手ではないと知っているらしい。街に下りてくるにつれ、その正体がわかった。
あれは、ドラゴンのマリオネットだ。体中にある継ぎ接ぎがマリオネットの証になっている。目隠しをされ、背に二対の翼を生やしていて、家ほどもあるゴンドラが体の巨大さを物語っている。
野次馬の一人に加わって見に行くと、継ぎ接ぎドラゴンの下りた場所には、天空の竜の敷地があった。
クランメンバーであろう人々が、ゴンドラの中に荷物を運び込んでいた。その中に、一際目を引く人がいた。悪魔の角と天使の輪っかを併せ持つ亜人、勇者だ。
俺と年頃は変わらない。仲間と談笑する姿は、古の勇者と比べて、当たり前だが生き生きとしている。
そのうち、勇者は荷物運びから逃げるように野次馬の前にやってきた。幼い子供を連れる母親と言葉を交わし、母親と手を繋ぐ子供と目線を合わせるようにしゃがむ。
「どうしたの?」
子供は、勇者の頭に向けて小さな手を伸ばしていた。
「これ、触ってみたい? いいよ」
悪魔の角と天使の輪っかを珍しがっていると思ったのだろう。勇者は、手が届くように頭を差し出した。
けれど子供は、角や輪っかには目もくれず、勇者の頭を撫でた。
「勇者さま、えらいね。がんばってね」
自分が母親からされていることを真似したのかもしれない。
「ありがとー! 頑張る!」
喜びを爆発させた勇者は、子供を抱きしめた。
勇者がいると場が和やかになった。彼女の人柄がそうさせているのだろう。とてつもなく強い人だということを忘れてしまいそうだった。
「……ん?」
俺の方を見た勇者は、何か変なものを見つけたかのように怪しんだ。
「あの、その鉄球って、本物? ちょっと持ってみてもいい?」
鉄球を手渡す前に、勇者ほどの相手にバカな話だが、落としたら危ないから気をつけて、と忠告してしまった。
「確かに。わかった、気をつける」
笑った勇者は、鉄球を軽々と受け取った。
「ふふん。どうだ、すごいだろう」
勇者は、得意気に鉄球を指先で支え、コマのように器用に回転させた。俺にはとてもできない芸当だ。
「こんなものを持ち歩くなんて、あなたは何者?」
冒険者であることと、女神から恩恵を授かったことを伝えた。
「女神の抱擁を。世界は広いな、そんな人がいるなんて……」
少し思慮した勇者に、まじまじと見つめられた。
「私たちと一緒に、オートマチックキャッスルへ行ってみない?」
最初、何を言っているのか理解できなかった。パーティに誘われていると気がついて、変な声が出た。冗談かと思ったが、勇者は真剣だった。
「報酬はクランメンバーと同額を支払う。どうかな?」
誘われて嬉しかったが、邪魔をしてはいけないと思い、流石に断った。
「出発を控えての急な話だし、そうだよね。
……一つだけお願いを聞いてもらってもいい?」
勇者は言うか言わないか迷っていたが、決心したようだ。
「これは、私自身にも言い聞かせていることなんだけど、せっかく授かった力を悪いこと、例えば女神様が悲しむようなことに使わないでほしい。力に溺れてしまう人を見たことがあるから」
そう言った勇者は、どこか寂しそうだった。
「それじゃあ、冒険者同士、また会えるのを楽しみにしてる」
勇者は仲間のところへ戻っていった。
人々の声援を浴びながら、勇者たちは飛び立っていく。
見送りながら考えた。俺は女神を悲しませていないだろうか。心当たりはないが、自分自身では気づけないのかもしれない。悲しませたくないと心から思った。




