楊奉と楊定、新豊にて郭汜軍を壊滅させること①
まだ日のあるうちに、ようやくのこと追いついた郭汜軍は、新豊城へとおし寄せた。
その数、約二万。
たいする朝臣軍はやっと三千にとどくかどうかというところで、誰がみても郭汜に有利であることは疑いない。郭陣の誰もが、自軍の勝利を疑ってはいなかった。
そのうえみると、城壁上には『楊定』の二文字がおどる旗が翻っている。
「おのれ楊定めが。こんどは朝臣どもに鞍替えか」
出際にうまいこと李傕軍をけしかけられた郭汜はこれに頭を煮えたたせ、むしろ借りと天子と一石二鳥よとばかり、城にむかって呼びかけた。
「やい楊定! よくもおめおめと我ら涼州人のまえに面をみせたな!」
その声に楊定こと泰阿は城壁にのりだして応戦する。
「お前こそ! おそれおおくも皇帝陛下の御前に矛先をならべるとは何たる所業! 貴様の化けの皮は薄っぺらいとみえる!」
「なにを!」
「かかってこい! 陛下の御前で貴様に引導をわたしてくれるわ!」
「ええい! あの裏切り者をうち殺せッッ!」
大将の号令一下、郭汜軍はたかがこれしきの小城、ひともみにしてやらんと攻めかかった。
うまく敵を誘いこんだことに満足した楊定は、城壁からいっせいに矢を撃ちかける兵の間からいったん降り、じっ、とおし黙った。
風は我らにやや追い風、問題はない。
それにしてもこの空気············はるか春秋の頃を思いだすものよ。気の昂ぶりを抑えられんて。
「! 将軍っ、あれを!」
城壁で指揮をとっていた部将のひとりが、身をのりだすようにして彼方に目をやりながら彼をよんだ。
「なにか······敵軍の様子が妙です」
「なにぃ?」
そんなことがあるものか。楊定はその言を訝りながら目をむける。
だがなるほど、たしかに妙だった。
前列はあいも変わらず猛烈に城壁にとりつかんとしているが、その後方、待機して整然としているはずの後陣がみょうに騒がしい。あの土煙は、なにも風や兵の踏み荒らしによって起こっているものではなかろう。
そうこうするうちに、なにかが宙に舞った。
ひとつ、ふたつ、とその塊ははね飛ばされ地におちる。あれよの間に人の群れが割れてゆき、さながら一本の道筋ができて、それが真っすぐこちらへ延びてくるではないか。
「何だあれは」
「将軍! 舞っているあれは·····敵兵ですぞ!」
見守る楊定──いや泰阿の顔が、その「何か」が軍をわって近づいてくるたびに笑みで彩られていく。なにかの間違いか、とまわりの者が怪しんだとき、突如泰阿は城壁にのりだすと、大音声に呼ばわった。
「何とまあ! よくもまだ動いていられるものよな!」
とうとう最前線をすらはね飛ばして門前に堂々と馬をとめたのは、言わずとしれた怒れる妖の将、月塊その人である。
「な、何をしている! 撃て撃て!」
「しかし──あれは楊奉殿だぞ!」
「なに? では味方かッ?」
楊奉こと月塊は、やっと泰阿の顔を認めると、すうっ、と大きく息を吸い、言葉とともに一気に吐き出した。
「やぁぁいッッ! 泰阿ぁぁぁぁ────ッッッ! 借りをかえしに来てやったぞぉぉぉッッッ! 大人しく降りてッ、来やがれェェェエエエ──────ッッッ!」
兵力数は完全に自分の妄想であります。
史実では、このとき李傕・郭汜はとっくに仲直りしており、その必要はさほどになかったはずですが、当話では本拠地の備えやらに兵数を割いているという設定です。
※調子にのってアップしていたらストックがスッカラカンになってしまいました。
申し訳ないのですが、つぎの更新までで、いったん定期更新をお休みさせてくださいませ。




