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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
石胎箴緯
283/403

泰阿、終南山で威をふるうこと②


「打ち合おうだぁ? ずいぶん好戦的な野郎だぜ。アンタの相棒は仙妖、とか言われてたが、もしそうならもっと穏やかでもよさそうなもんだがね」


 月塊は平地へと戟を手に歩をすすめながら、油断なく泰阿の動きに目をくばる。それとしって泰阿は、不意打ちなぞせんとばかり、悠然と腕組みをしてそれを待ちかまえている。


「なに、普段はそうでもない。だがな、こう、初めて対する相手ともなれば疼いて仕方ないのだ。なにせ腕比べの相手は百年変わらぬことも多いでな」


「ふん、たがい飽き飽きってところかい?」


 新鮮な獲物あつかいされる方はたまったもんじゃないな、と月塊は冷ややかにいう。


「隠すな隠すな、(われ)にはわかるぞ? お前もおなじクチだろう。吾々が全力で競うに足る相手は、どうしても限られてくるものだ」


 ヘッ、と月塊も口元をゆがめて足をとめた。

「どうも分らねぇ。アンタどう見ても人のようだ。楊定だってのがツクリだとしても、臭いまでは誤魔化せねぇはずだがな。それも仙人の御業かい」


「フフフ、そんなところさ。そこまで及ばぬところがお前の未熟な由縁よな」


 あーそうかい、と月塊は戟をかまえ腰をおとす。その様子に泰阿も満足そうにむきなおったが、月塊のもつ得物に目がいくと、一瞬眉をしかめた。


「······人間の戟? そんなものでやるつもりなのか。フム······」


 なにをおもったか、腰に()いた二本の剣のうち、上にあった飾り気のない方の剣をひき抜く。なんの変哲もない、涼州勢謹製の剣。


「まあよいか、これで」



 風が吹く。霧がゆっくりとふたりの足元を過ぎ、草地をなでてゆく。


「先手もらうぜ!」


 月塊が先んじる。刃を上向けた戟を両手に握り、地を蹴たてた。瞬きののち、深遠な山間に鋭い金属音が鳴り響いた。


 ギリギリと音を立て、刃と刃が噛みあう。さすがに互角以上の相手だ、力では押しきれない。

 泰阿は目一杯力をこめる月塊に平音な口調でいう。


「どうした、遠慮はいらんぞ? 本気でうち込んでくるがいい」

「······チッ」


 仕掛けはわからねぇが、人間の肉体を質にとっておいて何言いやがる。


「──まさか······この体を案じて全力では()れぬと? フン、舐められたものだ」


 泰阿は剣で月塊の鋭鋒を難なく払うと、矢継ぎ早、めったやたらと粗雑といってもいいような剣を突きだした。それでいて反撃を許さないような圧力がある。


 くッ······間合いはこっちがいっとう有利だってのに、ぜんぜんそれを感じねェ······!


「ほれほれどうした。これでもか、これでもか」

「──ッ、このッッ······!!」


ならば望みどおりに、と言わんばかり、月塊は柄尻をつかんで、退きながらグォンと戟を振りまわす。


「おっと」

 首をねらった奇策の一撃を、泰阿は頭をのけつつ、剣で制する。そのまま月塊が戟をひくのに乗じて前へとでるところ、心得ていたとばかりいち早く引きつけた月塊は突きをくり出す。これも弾かれる。が、狙いは最初からそこではない。


「シッ!」


 ドスンと刃を落とした月塊は泰阿の足元を狙って(すく)うように薙ぐ。避けたぶん歩法が乱れた隙をついて体を反転。

 遠心力をのせた袈裟(けさ)懸け!

 泰阿、これを避けるを嫌って迎え打たんとしたところ、月塊の戟は意外な軌道をとる。急速に胸元に引きつけられたそれは、またしても鋭い突きへと変化した。

 泰阿は小癪とばかり見切って首をひねりこれを躱す。


「!」


が、月塊の突きの鋭さが一分勝った。

 泰阿の頬に刃がかすった感触が確かにあった。

 入ったぜ! テメェの油断を反省しな!



 ペキッ



 意外な音。そして、先の一撃で目を見張ったのは、むしろ月塊のほう。

 絶句して己が戟の刃先をみつめる月塊に、泰阿はかすった箇所をコシコシと指先で拭いながらほくそ笑む。


 刃が──刃が欠けた? んな馬鹿な! 相手は生身なんだぞ!


「ご覧のとおりだ。心配せず本気で······いや、必死にかかってこい。でなくば──」


 ブン、とまたも無造作に振られた一撃。その刃はたしかに届かなかったはずだ。だが実際には月塊の鎧の胸元にかなりの深手をあたえた。


「グウッ!」

「吾の牙がお前を裂く」


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