泰阿、終南山で威をふるうこと③
かなり短めです。
ので、二部ございます。
予想だにしなかった傷。
そして、当然得られたであろうはずが奪えなかった相手の傷。
どちらもが月塊にすくなからず動揺を与えた。不可解な事態に、たまらず退がって距離をとる。
どういうことだ。俺の矛が通らなくて、逆にアイツのチャチな剣が俺にこれだけの傷を······!
泰阿は満足そうに笑いながら提げている剣をブンブンと振って間合いをつめる。
「フフン、どうだ解ったか? お前もそこそこ硬さはあるようだが、やはり吾には及ばんよ。逆に吾の剣はこれ、このとおり──」
ズバリ、と空を裂く。メキメキッ、と音がして、徐晃らが退避していた頭上の木が幹ごと斜めにズレ落ちる。
「「うわッッ!!!」」
「鈍らだろうと油断はできぬぞ」
「チッ!」
踏み込ませては駄目だ。
山際に追いつめられるまえに月塊は即座に前にでる。相手の間合いへ寄ることになるが、戟の一撃の重さに頼っていては速度で劣る。逆に寄ること、手数をふやすことで、相手へ「溜め」の間を与えないことで、すこしはあの斬れ味を薄めることができるやもしれぬと踏んだ。
「ほっほう、いいぞいいぞ!」
泰阿はよろこんで待ちうけ、鋭く突きを繰りだし続ける月塊と刃を交えあう。ふたりの人智を超えた妖の剣戟は刃にのる熱そのままに加速し、絶叫にもにた金属の耳障りな音をひと息もつかぬうちに絶え間なくうち続け、比喩ではなく火花を散らす。徐晃以下、皆呆気にとられてその様を見守るしかない。
「──くっ······そっ!」
やはり先に疲れてきたのは月塊のほうだった。
「ふん、疲れがきたか? だろうな、手数だけはたしかにお前の勝ちだろうて」
「抜かせッッ!」
月塊は刹那、間合いをずらして下がり、また踏みこむ。と、見せかけて一気迅速に相手の右背後に回りこむと死角を突く。
だがやはり泰阿はそれにも対応し、剣で巻きこむようにして押しこみ、月塊を下がらせてしまった。
「······あ〜、やれやれ」
泰阿は溜め息をもらし、トントンと剣で肩をたたきながら冷めた眼差しをむけた。
「さすがに人の戦は飽きてきたぞ。そろそろ仙の領域で死合おうではないか」




