月塊、西山の強者をたいらげること④
たやすく我が身を貫いた鉄刺に、月塊は顔をゆがめた。それを前後させた両手で握り、力まかせにへし折る。
「ふんッッ!」
「!」
おつぎは自慢の棘が折られた窮奇がたじろぐ番であった。へニャリと力が抜けて棘がただの毛の塊へともどり、月塊はそれをズルリとひき抜いてこともなげにうち捨てる。
「このテの業には飽き飽きだぜ、胸くそ悪ィ」
怒った窮奇は棘をみずからきり放し、大量の毛針をお見舞いする。たがそのすべてが彼の急所を捉えることはできず、ほとんどを拳によって叩かれ落とされる。
窮奇は土螻に棘があたることをおそれて獲物の上半身のみを狙わざるを得ない。月塊にとって真正面から飛んでくるものならどれを無視してどれを防ぐか見切るのはいとも容易いことであった。
そのとき唸り声をあげ、土螻が暴れだした。いつまで俺の背中の上にいやがるんだ、このダニめ!
そう言わんばかり上下にビョンビョン跳ね、窮奇の棘が少々刺さろうがおかまいなし、といった暴れっぷりをみせた。
たまらずしがみついた月塊の体勢がくずれる。そこへ間髪いれず必殺の鉄棘がせまり、その顔面を脅かす。
「!」
滑りこむ要領で上体をそらし仰向けになったその上を太い鉄棘が過ぎる。たまらず土螻の跳躍にあわせ宙空に逃れると、待っていたとばかり窮奇が大量の棘や毛針を見舞う。やはり月塊は拳や肘などでそれを寄せつけないが、窮奇はそれにひそかに鋼糸を紛れこませていた。
気づいたときはすでに遅く、両腕はそれにからめとられ、あわや両足も、と思われたが、毛針を蹴落とすに合わせて足を持ち上げたままいなし、それをさせない。
かまわず窮奇は大気をゆるがす特大の毛針を発射する。まさに必殺の一撃である。
月塊はこれを驚くべき視力でとらえ、ふたたび両足で思いきり蹴りあげてやる。靴底と毛針弾がこすれ赤々とした火花が散ったが、その一撃は見事に上空いずこかへと消える。怒った窮奇は自身の巨体ごと反転して月塊を地面へと打ちつけた。二度三度と打ちつけ続けるうち、ふいにその手応えがなくなった。
「あー、やれやれ。こいつはえらいことひきうけちまったぜ。観光気分がたかくつきやがった」
月塊はあちこち泥だらけになった自身の姿をみてため息ひとつ、それをはたき落とす。
「さすがにお前らの相手は素手じゃ無理かもな」
膝をおり、大地に掌をおく。
「さて、と。こっちの世でも大丈夫かね······っと」
その口角がニヤッとあがる。
「安心したぜ、ほらよっと!」
ダ、ダンと地面を踏みしめる。と、応じるようにニ個の岩石がのし上がる。宙に舞ったかと思うと、月塊の手におさまる頃には二本の棍棒へと変じていた。その様、まさに把手のついた棍、すなわち把手双棍である。
土螻が鬱憤そのままに突っ込んでくる。月塊はこれを迎え討ち、やはりその突進を受け止める。さればと土螻は四本角の共振をいま一度とはかるが、
「墳ッ!」
左右に振り抜かれた把手双棍は軽々とその角を砕く。
「!」
たじろぐ隙に月塊は跳びあがり、重みをつけて最後の二本までへし折ろうとするが、それさせじと窮奇が毛綱を伸ばしてくる。
「ウラッ!」
すでに予想ずみ。
月塊は二本の棍を擦り合わせる。耳障りな甲高い音に火花が散り、棍の片方が一気に研ぎあがる。それを振り下ろすと、追ってきた綱はいとも簡単に切り裂かれた。なんと右手にもつ棍の背が、鈍角ながら尖って刃物の如き切れ味をもつものへと変じていた。
二、三度それを振るって綱を完全に微塵にすると、パッと身を翻し、土螻の毛塊に足をとられることなく背をけって跳躍する。
どこへ、とみればつんのめる怪物の向こう側。
そう、祠堂の方へである。
窮奇が慌てて止めようとするが、土螻が邪魔で毛針を放つことが出来ない。
そうこうするうちにも、祠堂をまもる西王母のもとへと月塊は迫る。
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