月塊、西山の強者をたいらげること⑤
しっかと体勢をととのえた月塊が祠堂に月塊は迫るのは瞬きの合間だろう。
西王母はその不遜な突進に猛り、ますますもってその身体で包むように巻く。おのが身を盾にして時を稼ぎ、配下の二体が戻るのをまつ気なのだ。
その姿に月塊はおや、と思った。
自身絶対的な力を、この神仙は持っているはずである。だが彼女はそれを振るおうとはせず、ただ祠堂を護ることに執心しながらも、目前の敵である自分にさえある種の情けをかけているようにみえる。
その名に恥じぬ神々しい様に、これまで敵としかみえていなかった月塊の見る目も変わる。
迷いが出たことは否めない。だが月塊とて、後方の二体がもどることを許すわけにはいかないのだ。決して小手先であしらえる相手などではない。好機は今、逸することあたわず。
ふり切るように月塊は一歩を踏みこむ。メリメリとそのたおやかな手を豹のそれに変えて、西王母が爪を振りおろした。だが刹那、月のほうが疾くその目測ははずれる。
詰みだ!
双方ともがそう思ったろう。だがその横腹をまさしく殴るかようにして、左方から何かが月塊を吹き飛ばした。
「なッ」
「!」
頭のうえからくる風切り音にみあげると、なにやらがっしりとした両腕が自身をつかんでいるのがわかった。人に似た逞しいそれは多少の身動きではびくともしない。
ブルル、と鼻息がもれ、手綱をはんだ馬の顔がこちらをいた。
「いったい何だ! 放っせ、このッ!」
「なんだ、余計なお世話だったかい? お若いの」
妖馬の背から身を乗りだした単福がからかうようにニヤリと笑った。
月塊はぽかんと単福の顔をながめる。
「なんだ、人間? なんでこんなトコに人間が? 誰だおまえ?」
「アンタこそ何だい、ちっこいナリしてどえらい暴れっぷりじゃねぇかよ」
単福ははじめて──それがいくら馬であろうと空を翔んでいるうえ、人ににた前脚と蛇の尾をもつのだ──乗った妖獣の手綱を器用にくり、上空を旋回させる。
「俺は妖だ。このくらいのこたぁ何でもない。それより何のつもりだ! あと一歩のトコで邪魔しやがって! さっさと降ろしやがれ!」
月塊は悔しそうに、地上の怪物たちを眺めながら焦っていう。さすがにここまでの高さとなれば、負傷していることを思慮にいれても、みずからとび降りるなどということは出来ない。
「なんだよ、これでも助けたつもりだったんだぜ? 甲斐がねぇなぁ」
「いらんお世話だこの野郎!」
単福はやれやれとため息をつく。
「降りてどうするよ。あんなデカいのとまだやり合うってのかい? このままおさらばした方がお利口ってもんだぜ」
「俺はあの怪物どもに用があるんじゃねえ! あの祠堂に用があるんだ! いいからはやく──」
彼の言葉が途切れぬうちに、窮奇が毛鍼を妖馬にめがけて大量にみまった。
「のわッ!」
「いわんこっちゃねえ!」
月塊はためらわず全力でもって腕の拘束をふりほどき、毛針群に向かうように跳びだすとそのほとんどを両手の双棍で弾きとめた。が、考えなしだったのかそのままヒュルヒュルと落ちていくのを認めた単福は肩をすくめると、妖馬に促す。
人を乗せるのがたまらなく好きらしい妖馬・孰湖はこれにやすやすと追いつき、月塊をたまもやしっかと抱きとめた。
「アンタ無茶苦茶だな。なんであんな小汚い祠堂にこだわるのさ」
「ぶっ壊すんだ! 叔均ってヤツがそうするのが善いといいやがったからな!」
「へぇ······」
単福はほんの一瞬眉をひそめた。
また話が進まず、申し訳ないところです。
何でこんなところでナンバーかさむんだよって感じになってしまったので、御免なさい、サブタイトルをちょっとだけ変更させていただきます。




