月塊、西山の強者をたいらげること③
まずは尖兵、一本腕足のシンチが多勢をかさに攻め寄せる。まるで鉈を投げつけるがごとく縦の回転をみせ、己の身を弾に突っこんでくる。
月塊ははじめの一匹を躱し、二匹目のそれをうけ止めようとして直前でやめた。その腕と足の回転は鋭く、地面に刻み跡をのこし、跳ねるように飛翔する。
どうやらあの状態でも自由がきくらしい。目が回らないのかとも思うが、そもそも連中には目らしきものがないようだ。数を揃えたからといって、それが弱いことの証明にはならないということか。
呼吸をあわせて押してくるそれらを相手どりながらも、月塊は奥でこちらの手並みをはかっている大物三体の動きにいささかも注意を怠らない。
コイツらの連携も圧力もたしかに厄介だ。だが──
躱せぬ、まして耐えられぬわけでもない。そのため彼は虎の子の術をだすことなく、それらの鋭さをぎりぎりでいなし、地面に到達するかどうかの瀬戸際で、もうひと押しをくれてやる。
つまり真上から踏みつけてやるのだ。
シンチは無様にも地面にめり込み、ジタバタもがくところに仲間が降ってきて、そこをまんまとかわした月塊のために同士討ちとなり動かなくなる。
むきになったシンチはいよいよ速度を増すが、単調、かつ無駄のない動きが仇となった。
こうみえて古強者の月塊の眼は、すでに彼らの急所を見切っていた。四方八方から遅いくるそれをほぼすべてを蹴りで迎え討ち、あるものは地面に叩きつけ、あるものは仲間の道づれで彼方へと吹き飛ばされた。
戦況を見守っていた西王母は彼のただならぬ動きと、シンチどもの鋭転ですらかすり傷がやっとの頑強さをみとめて、残存のものをいちど退らせた。
「窮奇、土螻、出でませい!」
それまで西王母を護るように鎮座していた大物二体がおおきな身体をあげ、しずかに月塊との間合いをはかる。いよいよ大物のお出ましか、と月塊も二体のうごきをじっと見据える。
「さぁて、先触れの連中があの程度だったんだ。どこまでやれるかね」
けしてハッタリでもない。
身体の好調ぶりはこちらにきても維持されており、むしろ上がってきているとすら感じた。無理に妖術を使わずとも凌げそうなほどにである。
ズダズダと地面をかいて、土螻が巨体を推して突っ込んでくる。
「真っ向かッ、面白ェ!」
月塊はあえてそれをまち、応さとばかり受け止める。
が、さすがは大物。その力は尋常ではなく、ミシリ、と総身が音をたてる。一方の土螻も、その血走った大きな黒眼で自分の額をおし留めているこのちいさな的に驚嘆をみとめた。
こちらの全体重をのせた突進すら、コイツを数歩分退かせたにすぎないとは。さらにグイグイと押し込むが、コレを地面ですり潰すには生半なことではすまぬらしい。
だがこれで手詰まりとはならなかった。この土螻も、背後で隙をうかがう窮奇も、けっして裏窓の護り番であった檮杌に劣る存在ではない。ましてここは彼らの世の内である。
土螻の四本の角が不気味にきしみ、細かく振動をはじめた。その共振は瞬く間に重なり、地面を、そして月塊の脳を揺らす。シィーンと、なにやら耳鳴りが頭内にひびき、月塊に頭痛と酔いをもたらす。
「ぐ······ぉッ!?」
そればかりか、これまでほぼ無傷だった彼の身体にもこまかなヒビ割れを起こしはじめているではないか!
たまらずひきつけていなし、土螻がつんのめる間にその頭から背を蹴って前方へと跳ぶ。と、そこへ背後から伸びていた窮奇の鉄棘が、一本の槍さながらに彼の左肩を貫いた。
シンチ。漢字が出ませんでした。
記述ではどうも、化物全体のことをシンチとよぶみたいで、この生物=シンチではない感じなのですが、名前がないとしまらないのでそうしております。
······まあ、どうでもいいことですね。




