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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
山海魔経
227/403

月塊、西山の強者をたいらげること②


 翔びかい襲いくる鳥の猛攻をかいくぐり、月塊は樹々の枝をわたる。地上はなにやらのたくった細木が縦横にはえ、行く手をふさぐためやむなくのことである。どうしても避けきれぬものはムンズと掴んで身にとどく前にこれをおし留める。

 この羅羅(らら)という鳥は、大きさこそ鳩程度のくせに人を集団で襲うというけしからんやつだ。月塊に喉元をつかまれて苦しそうにしながらも、生意気にもはやした嘴の内の牙を見せつけるように剥いた。


「っ!」


 背後からの風切り音で首をひっ込めると、目の前の幹になにやらビィンと突きたった。またしても鳥で欽原といい、特別鋭い矢のごとき(くちばし)をもち、それを頼みとして吹き矢よろしく突進してくる。

 と、その嘴の刺さったところより樹皮がたちところに色を失った。物凄いはやさで樹が枯れ死んでいくではないか。


「うっへ」


 たまらず荷物になった羅羅を投げつけべつの樹にうつる。そこにも欽原らが追討ちをかけ、たちどころに数本の大樹が枝葉を散らせて干からびてゆく。


 突き抜け、バッと視界がひらける。

「崖かい!」


 それでも月塊がためらうことなくそこから身を踊らせると、厄介な鳥どもはそこまでが縄張りだったのか追いかけるをやめ、おかげで彼は追跡を振り切ることができた。

 頑丈自慢な妖ならではのうごきでゴロゴロと斜面を転げくだり、止まるのも惜しいとばかり前へ、前へと進む。



 もうとっくに第二の神域、萊山へ入っているはずだ。地上はあいわらず、なよなよ細っこいくせにやたら弾力のある木が栄華を極めている。

 月塊はそれをうっとおしく思いながらも何とか隙間を縫ってゆくと、はたせるかな、ついに平原の先に祠がみえてきた。


「······はぁ? おいおい、なんだよそりゃ」


 思わずこぼしてしまったのも仕方あるまい。その祠堂の後ろには、まるでそれを抱えるように──つまり祠堂が小さくみえるほどに──大きな身体を横たえた怪物がいた。

 その様、人の上半身に豹の下半身。豹の尾をゆらし、ふくよかな顔の口元からは牙をのぞかせる。そんな女人が大きな身をよこたえて彼を待ち構えているであった。


「よくぞ参った」


 その女人が口をきいた。


「我が神山を踏み荒らされるわけにはいかぬで、こちらで待たせてもらった。よくも来やった、異界の侵入者よ。

 ──我は西王母なり」


「ああッ?」


 西王母? それが本当ならば、いま自分の目の前にいる化物が、あの西王母か?

 その存在は中華にいきるものならば誰もが識っている。西の果て、崑崙山の主にして周の穆王と遊びし伝説上の神仙女である。


 月塊は両の眼をひらいてまじまじと彼女をみやったが、その眉がわずかにくもった。

 たしかに化け物だ。見た目もそうだし──というかもっと人間然としていると思っていた──仙気も本物といえよう。だが、何というか、こう、物足りない。

 力を抑えてんのか? それにしては闘る気満々な姿だが······


「これ以上の狼藉、見過ごせぬ。とはいえ主からは何やら只ならぬものを感じる。弱輩には任せておけぬゆえに、妾直々に陣頭にたちに参った」


「そいつはどうも······」


 西王母を護るように、ひとつ腕、一本足の化獣が多勢にあらわれ、その先頭に窮奇(きゅうき)が地響きをたてて落ちてくる。油断なく身構える月塊の背後には、四本角の怪羊・土螻(どろう)が静かにおりたつ。


「妾の神領たる西山域に踏みいりし傲岸不遜、その咎、とくとその身に刻むがよい······!」


 西王母がザッと袖をはらうと、化物どもは一斉に月塊へ襲いかかってきた。



有名な西王母様。

ただ、山海経に記されたお姿はちょっと荒々しい、というかあだっぽいです······


そのお姿は、人のようで豹の尾、虎の歯をもち、乱れた髪に玉のかんざしをさしていたそう。


!? こ、これはケモ耳キャラなのでは······!

(まあ、耳についての記述はありませんが)


一部アクションを修正しました。

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