単福と琴箭、東西にわかれること②
琴箭はきっぱりと投げられた言葉を、いくぶんの諦めとともにのみこんだ。
「そう······仕方のないことです」
予想はついていた。むしろこれで良かったのかもしれない。それでも進む、という意志は、ときにつり合う以上の対価を必要とさせるものだから。
「伝言、たしかに。達者でね。仇を討てるよう祈ってるわ」
「······ありがとう。俺も姐さんの無事を祈ってるぜ」
最後に萊萊と話しがある。単福かそういうので、琴箭はふたりを残してすこし距離をとる。まだ気まずそうに萊萊は彼と目を合わせない。
「──悪かったヨ、嘘をついてテ」
「まったくだ。おかげで幾度死にかけたかわからねぇぜ」
ホラよ、しゃがみ込んだ単福は、彼女に何かがはいった小袋を押しつける。それは例の狍鴞の欠片の入った小袋だった。萊萊はまるい眼をさらに大きくして彼をみつめる。
「もう俺のところにあってもたんなるお宝だからな。ま、あんな襲撃のあとじゃ大して役に立たねぇかもしれねぇが、あって損にもならんだろうぜ」
「······オマエ、もうホントに降りるんだナ······」
「ああ。まぁ、アレだ。最後はこんなんになっちまったが、けっこう乙なもんだったぜ、お前との旅もな」
「────」
「おいおい、俺のことは嫌いじゃなかったのかよ。それより······なぁ、萊萊。頼みがあるんだ」
「ナニ」
「姐さんのことさ」
単福は、祠堂を確認する琴箭をちらとうかがって唇をかくす。
「まっつぐ北山へ向かわせるんだ。いいか? 一切寄り道をさせるんじゃねぇぜ? おそらく放っといてもそうなるんだろうが、あの人のことだ。またなんぞ妙な清心をだしかねねぇ」
「············でモ」
「わかってる、だから頼んでるんじゃねえか。だがあの人にお前達の抱える問題をどうにか出来るわけじゃなし、そもそも関係ないことだ。それでもあの人はキッチリお前のためにやってくれたろう? なら次はお前の番じゃねえかよ」
萊萊は手渡された袋をみつめていたが、ひとつ小さくうなずくと、その紐を手首に通した。それを見届けると、単福は手を上げて琴箭に合図する。
ふたりの姿が樹間に霞んでゆく。やがて完全に見えなくなった。
単福はちいさく息をこぼした。
「そうさ。あの人にゃ関係ねえんだ······」
もう一度ふたりの消えた背中を見送るように言葉をもらすと、肩がけの荷と胴巻きの締りを確認する。
「さぁて。じゃ、行くかい」
折枝を踏み、ふたりとは別の方向へ。霧中に消えていった。
高山の枯れ木をゆらし、まるで風のように疾駆する。ついこないだ会ったばかりというのに、もうこの妖獣・孟極は自分に懐いている。よほど親しみやすい気質なのか。まあそれはいい。だが良くないのは、ほかの妖獣までもが彼に首ったけだってことだろう。
月塊は、珍妙な啼き声をたてて突っ込んでくる赤いモフモフを両手でむんずとはさみ込んで、その突進を脇へといなす。
「ったくよォ! どうなってやがんだ!」




