単福と琴箭、東西にわかれること
とにかく萊萊側の事情はわかった。
もちろん、いま彼女が語ってくれたことが真実であるとする担保はない。実際に彼女らは嘘をついていたわけで、こちらを便利に操ってくれていたわけだし。
だが話の真偽などは、こうしてじかに対面してみればある程度くみとれるもの。琴箭にはこの萊萊が、このうえ虚実をふくめてまでこちらを欺いているようには思えなかった。
誰にでも事情ってあるものだ······
腹をくくるしかない。どのみちこの「先」を目指すのなら、萊萊の協力は不可欠なのだ。異界の住人としての彼女の知識と常識が。
よしんばまだ騙されているにしても、それごとのみ込んで先に進む。この旅は、そもそもがそういう賭けであるのだから。
むずがる萊萊をいつかのように腕に抱きとめて、琴箭は皆のもとへ戻った。単福以下、全員の萊萊にむける目は依然けわしい。
琴箭は出来るだけ主観をまじえぬよう、さっき萊萊が語ってくれたことを伝えた。
「······姐さんはそれを信じるかい」
「······そうね。私は進む。それしか道がないなら。そのためになら」
「························」
皆は沈黙し、たがいに視線で問い合う。単福が代表していった。
「今日一日、時をくれ。その間皆それぞれに決めてもらおう」
夜分。
扉がしずかに閉まる。これで子供をのぞく全員が集まっただろう。
小屋の中、ほそい灯火のなかにうかぶ面々は疲れ切っていたが、それでも最後となるかもしれぬ選択をするためだ。納得したものを得るために多少の無理はやむをえまい。
発起人の単福が感謝をしめし、頭をさげる。
「みんな、疲れているだろうに済まねえな。雁首そろえてもらったのは言うまでもない。明日よりの行動についてだ」
「··················」
琴箭は、萊萊とふたり厩で休んでいた。いまは皆も、それぞれ別れて里人の厄介になっていることだろう。
ひさしぶりの人家の温かさ。郷愁をさそう生活の匂い······。
そのことだけでも、このさき自分と歩を共にしようと言ってくれる人は減るであろうな、と予想しながら琴箭は眠りにおちていった。
身支度をすませ、最後に帯をキュッと締めなおし、鉄扇をたばさんだ。そうして萊萊と支度のできたことを確認しあい、小屋の戸をあける。
ガラガラとあけた戸の外は、うっすらとした霧に包まれていた。それがこのへん特有のものなのか、南夷の森の影響なのかはわからないが。
昨夜は獣の襲来にたたき起こされることもなく、ひさしぶりにじっくりと疲れとることができた。それだけでもこの里には感謝だ。ザクザクと土を踏み、琴箭と萊萊は森をめざす。
「ねえ。いまアンタたちの世と私達の世がごっちゃになっているわけよね」
「そうダ」
「なら里の反対側に──つまり今と逆に進めば、そのまま中山域に入れたりしないのかしら」
「······たぶんムリ。今は一部同士ガ重なってルだけ」
「そ。ならそれはそれで救いよね。まだ足掻くことはできるってことですものね」
森が近づいてくる。と、薄靄の奥にひとつの陰があった。
密林を眺めまわしていた単福が、こちらへと向きなおった。
「よぉ。オハヨウさん」
「······早いのね。何かしら」
「皆を代表して伝えるよう頼まれてね。
結論からいうと、誰も来ない。アンタ達とは行かないってことだ」
微修正しました。




