単福、萊萊をうたがうこと③
集まっていた全員の目が、一様に萊萊にむけられる。萊萊は興奮したように息を詰めると、そっと琴箭の足の陰に隠れた。
「はじめに祭祀をしろと言いだしたのは狌狌の連中だぜ」
異界──否、山海『境』にはいってすぐに辿り着いたのが狌狌の郷だった。だがそもそも、そこへ行ったのは萊萊と出逢ったからだ。この子に導かれたから、自分たちはあの郷にいき、そこで先へ進む方法として、祭祀をして回ることを説かれた。
「まだある。翼徳のダンナがいた神域でのことだ。
俺たちは確かにきいた。姐さんの物覚えの良さには感服するが、俺だって注意している中できいたことぁ忘れやしねえ。
長はたしかに言ったぜ。神域はふたつだ、と。だが萊萊、てめえは神域はみっつあるといって譲らなかったよな」
「······でモでモ」琴箭の足にすがりついて半身を隠しながらも、萊萊は反論する。
「あったダロ? みっつめの祠堂はあったじゃなイ」
「その結果こうなってんだろ。ひょっとしたら前のふたつでも同じようなことが、って疑うのも自然なことじゃねえか」
もっともな指摘だった。そう、今までは気付けていなかっただけで、漢中のどこかで似たようなことが起こっていても不思議ではないのだ。
一方で、ここまでともに苦踏してきた仲間を信じたい気持ちもある。それは単福とてもおなじで、そこを含んだ上で、皆のためにあえて追求しているのである。
そもそも、それをして萊萊になにか得るものがあるのか。考えてみるならそこだろう。だが······
「──あー、もウ! やってらんなイ!!」
突如萊萊はピョンと琴箭のうしろから跳びでで、みなから距離をとった。
「そーダ、そーでス! ウチがみーんなやりましタ! チェ、とうとうバレちゃっタ!」
こちらを嘲るように口の端をゆがめ、笑みを浮かべてたつ。
「ワタシだって妖獣なんダ! 自分たちのために動くのは当たり前だロ! なんだヨゥ、皆してそんな目でみやがっテ! そっちだってウチに頼りきりだったクセに!」
イーッと、おもう様舌をだしてアカンべをすると、もう振り返りもせず。萊萊はもと来た森の暗がりへと跳ねていった。
「······」
みなが沈黙のうちに沈んで、言葉も出なかった。精神的な疲れが最後に残っていた、妖獣を退治してやったという刹那の高揚をも奪い去り、一時に身を重くしてゆく。
「──潮時、なんじゃないかね」
え、と琴箭は顔をあげて単福をみる。
「舟をおりるなら今、ってことをさ。ここまで来ても、まだ進みたいって奴を止めやしない。
だが俺は降りる。そもそも俺の目的は仙人云々じゃねえ。仇ひとり見つけ出したいだけだ」
ほかの者もゆるやかにうなずく方がおおかった。さもありなんだ。どういう経緯にせよ、こうして幸運にも現の世に戻ってこられた。なおも死地へと帰ろうなどと考えられる者がどれだけいるのだろう。みな疲れきった己に問うのだ。そこまでして、仙人の弟子になりたいのか、と。
まだ日の残る森のなかを、琴箭は歩いていた。
危険はない。そのはずだ。ちかくで響く鳥の囀りがそれを教えてくれている。もっともここでは、そんなちいさな鳥たちでも信用はできないが。
みっつめの祠堂の近く、苔むす岩のうえに、萊萊は独りぽつねんとして座っていた。
うーむ、うまく行かない······
六月中の予定ですが。
これまでどおり、火曜日と土曜日、そして日曜日の更新といたしたく存じます。
落ち着けばまた、まとめて出せたらな、とか考えております。




