単福、萊萊をうたがうこと
いくらなんでも、出し抜けに中山域に入れるなどとは思ってはいなかった。城壁や門とまではいわぬが、何かしら区切りがあるものだとそう考えていたのだ。もちろんそんなものなどなく、ただ緩やかに、いつの間にか中山域ですよ、と来ることだってあるかもしれない。それでもいい、先に進めたという実感さえ得られれば。
だがいま、眼前にひろがる光景はそのどちらでもなかった。
急にぷっつりと。南蛮の景色はおしまいとなり、遅い春をやっとむかえ始めた里山の茶色い景色がそこにあった。
身を膨らませる熱気がいきなり途切れ、いまだ寒ののこる風がピュウと吹きつける。その差は真夏から一挙に昨年の秋に逆戻りしたようなもので、琴箭はぶるりと身震いをおぼえたほどだった。
「······どうなってんだ、こりゃあ」
遠くで農夫が畑の世話をしているのを眺めながら、さしもの単福も目を丸くするしかない。
まるで、いきなり現にもどってきたよう······
素直にうけとればそういうことになる。あの風景は、これまで歩んできたものとはあまりにかけ離れすぎている。
「戻ってきたんだわ。でも何で」
背後をふり返る。たが熱気蒸す南山の森は、依然としてそこにあった。
「そうでもない、か。そもそもあの大窓ン中は常世のようなものなんだろう? おかしいじゃねぇか」
そう、おかしい。浮世と常世が一時に存在するなんて、歩きながら眠っているようなものだ。
「! そうだ、萊萊っ」
萊萊もまた、いうなれば幻のなかの存在。まったく混乱のただ中だが、何がしかの光明をもたらせてくれるかもしれない。そう思って期待したのだが、
「「なんじゃコリャアーッ!」」
本人がいちばん動揺していた。
「エ、エ? 何アレ? ニンゲンの里? いつの間にあんなに増えたんダ? いつの間に里を作っタんダ????」
「ちょっと萊萊っ、しっかりしなさい! 南山のつぎは中山なんでしょ? 中山はどこ行っちゃったのよ!」
「しらン、ワカらン!」
「······とにかく進んでみるか。ひき返したって意味がねぇしよ」
よそ者はただでさえ目立つ。それがへんな馬と荷車を引き連れて入って来たとあっては、里人の関心をひかぬわけがなかった。だが最も注視されたのは、琴箭の肩にすがりつく一見の価値ありの白い子猿であった。
完全に奇異の目でみられ、萊萊はどうとう爆発した。
「なに見てんのヨ、コラーッ!」
「······! ヒィィィッ!」
「おい阿呆! 喋るんじゃねえ!」
現の里にはいればもしかすると消えてしまうのではないかと心配したが、萊萊はいっこう変わる様子がない。流馬も荷車も相変わらず健在である。わからぬことだらけだが、これは少しまずい兆候であると思われた。
「なぁ、姐さん。あんまり考えたくはねぇが、あの森もああして在るし、この白毛玉も木造りウマもこうして元気だ。ってこたぁ、よ」
単福もおなじ考えらしい。
「······ええ。どちらも幻ではないでしょうね」
げんにこうして萊萊は里に易々と入ってきている。ということは当然、次もありうる。
「この里はあの常世と隔たれているわけではない。つまり」
「「ぎゃあああ──────ッッ!」」
「「なんだ! 化物が! は、離せェーッ!」」
安息なぞあり得ない。そういうことだ。
お詫び。
もう脳ミソをいくらしぼっても鼻血も出なくなりそうですので、とりあえず毎日更新は五月でいったん終了、とさせてくださいませ。(明日もお休みします)
また、六月中は私事により、若干更新頻度が乱れるかもしれません。週末はなるべく投稿できるよう気をつけますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(ハッキリしたらあとがきに載せます)




