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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第2章
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幕間 決死のレオフィーネ


 「セルシウス様。感謝いたします」


 レオフィーネは感謝していた。

 もし、自分が人神教の孤児院に拾われ、聖都の学校で魔法を学んでいなければ死んでいたと。


 赤紫の空、枯れきった木々、足を取られる砂利道。

 羅刹の水晶を起動し、門をくぐったレオフィーネを出迎えたのはそんな景色だった。


 進めど進めどその景色は変わることなく続いた。

 稀に、ボロボロの民家を見つけることがあったが、そこには何もなかった。

 人も、水も、食料も……。


 『圧縮袋(コンプレシオンボルサ)』に貯蔵しておいた食料も尽きた。

 そんなレオフィーネの命をつなぎとめていたのは魔法だった。

 レオフィーネは圧縮袋からコップを取り出し、魔法を唱える。

 

 「水の恵みで我を満たせ『水降(アクアディステンデ)』」


 コップから水がこぼれないように、魔力を調整する。

 コップに入った水を飲み切り、「ふぅ」と一息着く。

 口の周りに付いた水を袖で拭っていると獰猛な鳴き声が響いた。


 『グルルアッ』


 「またかッ!」


 レオフィーネは辟易したように呟く。

 そんなレオフィーネに襲い掛かったのは、ガリガリにやせ細った体躯、尖った爪、発達した犬歯、髪が抜け落ち禿げ上がった頭皮を持つ『餓鬼』とよばれる生物だった。


 「ハアッ!」


 レオフィーネは裂帛の気合と共に白銀のレイピアを抜き放ち、餓鬼の喉元に突き刺した。

 呻き声をあげながら瞳から光が失われていく餓鬼。

 生気を失った餓鬼からレイピアを引き抜くと、レオフィーネは餓鬼の死体を細かく切り裂いていく。

 餓鬼の肉片にレイピアを突き刺すと火魔法で肉をあぶった。

 そしてその肉に齧り付く。


 「ウウッ、グッ!」

 

 吐きそうになる臭みに耐えながら、レオフィーネは必死に肉片を飲み込む。

 レオフィーネの誇りはズタズタだった。

 騎士になったその時から女としての生き方を捨てたレオフィーネではあったが、代わりに騎士としての誇りを持って職務に励んできた。

 誇り高い自分が、魔物の肉を食らうなんて……。

 初めて餓鬼を食べた日は涙を流した。

 しかし、レオフィーネは折れなかった、誇りよりも成し遂げなければならない大切なことがあったから。


 「進もう」


 レオフィーネは足に力を込める。

 彼女の歩みが止まることは無かった。

 力を求める理由があるから。


 どれほどの時が経ったのだろう。

 時間の感覚はもうない。


 レオフィーネが餓鬼を食べることに何の抵抗もなくなった頃、彼女は不可思議な建物を見つけた。

 長い長い石階段。その両脇には朱く塗られた木製の灯篭が立ち並ぶ。

 

 「何だこれは……」


 石階段を登り切ったレオフィーネを出迎えたのは赤い奇妙な形をした木製のオブジェだった。

 オブジェをくぐったその先には、白塗りの石壁に囲まれた社。

 彼女が生きる世界にはない建物、それは鳥居と神社だった。

 

 木製の大きな門をくぐると、そこには広大な枯山水が広がっていた。

 枝葉が綺麗に整えられた木々も植えられている。

 緑の葉が付いた植物を、彼女は門をくぐってから初めて見た。


 「珍しいこともあるもんよなぁ、お客さんかぇ?」


 レオフィーネが緑の木々や枯山水に心を奪われていると、不意に声が掛かった。

 美しい声だとレオフィーネは思った。

 鈴の音の様な清涼感の中にうっすらと色香が混ざったそんな声だ。

 レオフィーネが振り返るとそこにいたの白髪の艶やかな着物を着込んだ女性だった。

 花魁風の白い着物には黒い椿の刺繍が施され、首周りの解放感が艶やかさを演出している。


 「フー。わらわは椿姫(ツバキヒメ)。主は誰なんだぇ?」


 椿姫は神社の縁側に腰掛けながら、キセルを吹かしつつレオフィーネに尋ねる。


 「私はレオフィーネ。力を求めてここに来た!」


 レオフィーネは強い眼で椿姫を見つめながら言い放つ。

 椿姫は面白いものを見るような目でレオフィーネを見つめると問いを投げる。


 「そうかぇ。力を求める理由はなんだぇ?」


 「不死王を殺すためだ」


 レオフィーネは間髪入れずに答えを返した。

 ケタケタと嗤いだす椿姫。

 馬鹿にされていると感じたのだろう、レオフィーネは怒気はらんだ声で吠える。


 「何がおかしい!?」


 椿姫は目尻に溜まった涙を拭いながら問いに答える。


 「あの男は人の身で殺せる存在じゃありんせん」


 「不死王を知っているのか?」


 椿姫の口ぶりから、不死王について知っていると思ったのか食い気味に問いかけるレオフィーネ。

 不死王の情報は少しでも欲しい一心だった。


 「昔、あったことがありんす」


 話を続けろと顎をしゃくるレオフィーネ。

 やれやれといった様子で肩を竦めながら椿姫は答える。


 「配下になれと言われたでありんす。現世の争いに興味がなかったので断りんした」


 「そうか」と短くこぼすレオフィーネ。

 目算が外れてがっかりする。

 

 「現世に再臨したというのは知りんせんが、もしそうなら、やめといた方が身のためでありんす」


 椿姫が嘆息混じりでレオフィーネへと告げる。

 そんな椿姫の言葉を聞いて、もう話すことは無いと思ったのだろう。

 椿姫へと背を向け、踵を返そうと門へ向かうと……


 「待つでありんす」


 椿姫の感情を感じさせない声と共に門がバタンと独りでに閉まる。

 門についていたかんぬきがガチャリと音を立て門を固く閉ざした。


 「何のつもりだ?」

 

 レオフィーネは椿姫に向き直ると、怒気をはらんだ声をあげる。

 すると椿姫の周囲に白い面が6個浮かび上がった。

 老人の顔を象った翁面、平安時代の女性を象った小面、若い貴公子を象った童子、神霊を模した怪士、鬼を模した獅子口、怨霊を模した般若の6つだ。

 能面達は宙をグルグルと舞いながら嘲るように言い放つ。


 『食事久しぶり』

 『餌が来た』

 『食べる』

 『おいしそう』

 『食べがいありそう』

 『早く食べよう』


 能面達は椿姫を急かすようにまくしたてる。

 椿姫はレオフィーネを見据えニタリと薄気味悪い笑顔を浮かべると『般若』の面を手に取った。

 般若の面を付けた椿姫。

 その瞬間、ボキンと薄気味悪い音を立てながら椿姫のうなじが盛り上がった。

 バキンボキンと骨が折れる音を響かせながら徐々に変質していく椿姫。

 

 背中から6本の腕が生え、はだけた白い豪華な着物から見える地肌からは餓鬼達の顔が浮かび上がっている。

 般若の顔を持つそれが縁側に置いたキセルを手に取ると、キセルは6振りの日本刀へと姿を変えた。

 その日本刀はボロボロに刃こぼれしている。

 6振りの刀を6本の腕にそれぞれ携えるとそれは歪な姿に全くそぐわない鈴の音が鳴る様な清涼な声で告げた。


 『わらわは椿姫、羅刹の魔女と呼ばれし者、そして餓鬼を統べる女王』


 『腕から引き抜こう』

 『足にしようよ』

 『臓器を引きずり出そう』

 『首引き抜こう』

 『全部引きちぎろうよ』


 『『ハハハハハハハ』』



 椿姫の周囲を舞っている能面達が嗤いだす。

 レオフィーネは目を閉ざし瞑想する。

 そして心の中で誓った。

 ――私は死ねない、不死王の首をとるまでは


 決死の覚悟を決め、白銀のレイピアを抜き放った。


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