自称魔王の愉快な仲間達
冒頭は一人称視点です
俺は魔王の側近をやっている男ディーズ。
自分では名参謀だと思っているけど、なんかこう今いち俺の評価はパッとしないね。
だが俺は過去を振り返る男。
パッとしない評価には何か原因があるはずなんだ。
パッとしない評価を周囲のせいにして逃げるのは簡単さ。
でもそれじゃあ、俺の評価は未来永劫パッとしない。
そう思うだろう?
優秀な奴ってのは自分をしっかりと分析する。
そして自分の悪い所を直していくんだ。
一つ一つ虱潰しにね。
俺は優秀な奴だ。自分ではそう思ってる。
だから自分を分析するためにある事を継続している。
――そう、日記だ。
自分の行動を毎日書き記していけば何がいけないところか見えてくるだろう?
こんなことを思いつくなんて、やっぱ俺って天才だわ、凡人とは視点が違う。
……話を戻そうか。
魔族領ってのは、争いが多い地域だ。
魔物も多いし、魔族の中には凶暴な種族も多いし、トラブルも多いわけよ。
いやー、ホント参っちゃうね。
こないだも、犬が畑を荒らしているからどうにかしろって苦情があったから行ってみると、犬じゃなくてでかい狼の魔物だったし……。
あれを犬と表現する村人の神経を疑うね俺は。
そんな感じだから、強い奴に守ってもらいたくなるわけよ。
そこでドーン、魔王登場ってわけ。
でも魔族領は広い。
それにたくさんの種族がいる。
だから強い奴も結構いるってわけ。
だから魔王もいっぱいいる。
簡単に言えば魔王って言っても領主みたいなもんだな。
広い魔族領を複数の領土に分けて、そこを魔王が各々守っていく……そんな感じ。
その中の一人『魔王ラズベル』に使える側近の一人がこの俺ディーズ様ってわけだ。
ラズベル様は強い、魔王の中でもかなりね、だから領土も広い。
でも彼にも短所があるーー「珍しい物に目がない」ってところだ。
少し前に、虫をモチーフにしたカラクリをつくる技師が領土にいるって噂をどこからか聞きつけてきて、「連れてこい」とか言い出しやがって。
あーめんどくせえ。
頑張って探して王宮に連れてきたら、そのカラクリ技師が持ってきた人形がきもいのなんのって。
あーこれ終わったわ、魔王キレるわ。そう思ったねマジで。
案の定、魔王がキレだすわけよ「気色悪い物を王宮に持ち込むなッ100万回死ねッ」って。
そしたら、技師の爺さんがキレだすわけよ、「美を理解できぬ愚か者は滅びるであーるッ!!」とかなんとか言って。
それ聞いた魔王ガチギレ、俺ガクブル。
まあこっちが呼んどいて、「気色悪い」とか言われたらそりゃあキレるわな、魔王も村人思いのいい人なんだけど、たまにキレやすいからな……そこんとこどうにかして欲しいわ。
爺さんが「吾輩は魔王になってお前ぶっ殺すのであーる」とか言って帰っちゃうし。
あれから、あの爺さんが『蟲毒』に虫の研究をしに旅立ったって風の噂で聞いたけど、今頃何やってんだろーなー
魔王ラズベルの側近ディーズの日誌
ーー
―リリア&ポチ サイド―
「ありがとうポチッ」
「ガルウッ」(いえいえどういたしまして姉さん)
落下の衝撃からリリアを自分がクッションになることで守ったポチ。
敬愛する主人の伴侶となる女性を守ることができたことを誇るように決め顔をする。
リリア達が落ちた先は岩壁に囲まれた洞窟になっていた。
岩壁にはランタン状の魔法灯がかけられ、通行人に付随するよう順繰りに点灯していく。
壁と壁の間には地下水脈がゆっくり流れており、ポチが入り深さを確かめると水深が浅いことがわかった。
地下水脈の中に揺らぐ影――綺麗な魚だった。
「わあ、キレイ」
魚が奥へ奥へと進んでいき、それを追うように地下水脈沿いの沿岸を走り出すリリア。
ポチが何かあってはいけないと、心配そうな顔でリリアを追っていく。
水路を進んでいくと岩壁に囲まれた広い空間に出た。
空間の中心には池がある。
「お魚さんがいっぱいッ」
その池には、リリアが追っていた魚と同種の魚の群れがいた。
リディア渓谷に流れている水のようで透き通っており、魚群の銀色の鮮やかな鱗に魔法灯の橙色が反射して、実に美しい空間を演出していた。
魚群の美しさに見惚れるリリアとポチ。
そんな二人の穏やかな雰囲気をぶち壊すようにウイーンと機械的な音を立てながら、行き止まりと思われていた岩壁が左右に開いた。
ズシーン、ズシーン
「えッ!?」
「ガルッ!?」(まじで!?)
でっぷりと太った灰色の体躯。
ウネウネと動き回る尻尾。
口からはみ出る程大きな2本の前歯。
リリア達の視界に現れたものは
――超巨大な二足歩行のネズミだった。
『チューチュー』
可愛らしさの欠片もない野太い声でネズミが鳴く。
超巨大ネズミは池の中心にいる魚群を見つめると、太った体躯からは想像もできない軽やかな跳躍を見せ池に飛び込む。
そして右へ左へとその太い腕で水を薙ぐ。
池から魚が飛んでいき陸地へと打ち上げられていく。
ピチピチと陸の上で跳ね回っている魚を見て1人と1匹は思った……
((それッネズミじゃなくて熊だからッ!!))
ーー
―タナカサイド―
「ボッチは嫌だなぁ」
心底嫌そうな声でタナカは1人愚痴る。
その後、別の空間へとつながっている通路を1人進んだタナカだったが、不気味なほどに虫人形達に遭遇しなかった。
先程と比べて、打って変わった静寂がタナカを一層不安にさせていた。
狭い通路を、しばらく進むとタナカの耳に楽器の音が響いてきた。
ダダダダダン、ダダダダダン
「……これは太鼓?」
前世で学生時代に一度だけ太鼓の演奏を見たことがあったタナカ。
この世界に来てから一度も聞いたことのない音を聞いて懐かしい気持ちになっていた。
タナカは音の発生源へと誘われるように走っていくと光が見えた。
狭い通路から飛び出し、光の指す空間にでるとそこは……闘技場だった。
ダダダダ……ダンッ
タナカが闘技場へ姿を現すと、太鼓の音は止んだ。
人っ子一人いない闘技場の観客席。
そんな物寂しい闘技場の中心には太鼓を叩いていた者がいた。
それはタナカの生前の世界で空想されていた怪物に似ていた。
朱い体色に筋骨隆々な体。
目の前に置かれた太鼓。
頭から生える2本の角。
「……雷様?」
タナカは屏風絵や日本のおとぎ話で描かれていた雷神だと思った。
しかし、思い違いだとすぐに考えを改めた。
タナカが生前見たことのある雷神の絵とは決定的に違うものがあったからだ。
太鼓を叩いていた者はタナカを見つめた。
対戦者が来た……そう思ったのだろう。
それは背中に背負っている雷マークが入った楽器をチラリと見ると手に持ったバチでその楽器を強く叩いた。
シャーン
澄み切った音色が闘技場に響く。
普通の者であれば心が洗われ落ち着きを取り戻すような癒しの音だ。
しかし、プルプルとタナカは震えていた。
我慢したくてもしきれないといった様子だ。
タナカは止められない衝動にかられ口を開いた。
「太鼓じゃなくてシンバルかよッ!!」
ーー
―ミーナ&スズキサイド―
「全くあんな見え透いた罠に引っかかりやがってッ」
ミーナはレンガ造りの狭い通路を歩きながら憎々し気に吐き捨てる。
道端に転がっているレンガの破片を蹴飛ばし、怒り心頭といった様子だ。
そんなミーナを見かねたのか、スズキがやれやれといった顔で口を開いた。
「確かに、主はひょうきんだ。思慮も浅く短絡的で愚か者と言われても仕方がないだろう」
ミーナが全くだと言わんばかりに頷いて同意を示す。
もしこの場にタナカがいたのであれば「そんなことを言わんといて……」と悲しげな瞳で呟いたことだろう。
そんなミーナをたしなめるようにスズキは話を続ける。
「しかし、自分が逃げてはいけない場面をしっかりと理解している。俺との戦いでもそうであったが、お前を見捨てずに戻って来ただろう。主はお前たちを助ける為に死を覚悟して俺へと向き合った。主はひょうきんな中にも芯を持っている強い男だ。そんな主に魅力を感じ、お前も告白を受け入れたのではないのか?」
ミーナの顔が真っ赤に染まっていく。
耳まで真っ赤に染まりあがったところで肩越しにスズキへと振り返り「うるせぇよ」と一言呟いた。
2人がそんなやり取りをしながら歩いていると狭い通路から広い空間へと出た。
そこは正方形の大きなタイルを敷き詰めた作られたステージがあり、その回りは水路で囲まれている。
そして壁面には、まるでショーケースの様にびっしりと大小様々な人形が鎮座していた。
「よくきたな、であーる」
ミーナとスズキが部屋に入るとステージの上に一人の老人が現れた。
片眼鏡を掛け、灰色の切り整えられた髭を生やし、黒地に白線が入った黒ストライプのスーツを着こなし、シルクハットを被る小洒落た老人だ。
「てめえは何者だ?」
ミーナが訝し気に老人に尋ねる。
すると老人は、スーツの襟元を一度正し、軽く皺を伸ばした後、重々し気に答えた。
「吾輩は魔王! 智と力を兼ね備える者。至高のカラクリ技師にして、人形達の王であーる」
そういえば大目玉から聞こえていた声と同じ声だとミーナは気づく。
スズキは獰猛な笑顔で、その物々しい牙を惜しげもなく老人に見せつける。
ミーナもスズキに触発されたのか、ニイィと悪魔の様に嗤い口を開いた。
「私らがどうやら当たりを引いたみたいだな、悪いがお前をぶっ殺してここの金目の物を根こそぎ頂いてくぜ」
仮に宝物等が無くても、壁面に鎮座している精巧な人形達は高値で売れると思ったのだろう。
最早、完全に老人から金目の物を奪いつくそうとしている盗賊の様な雰囲気を二人は醸し出しながらジリジリと距離を詰める。
そして、一足で飛び掛かれる間合いまで近づくと二人は老人に飛び掛かった。
老人は全く動じずに堂々と言い放つ。
「飛んで火にいる夏の愚か者で、あーる」
「何だこれッ!?」
「グアッ……主よすまない」
その後、人形達が所狭しと鎮座している気味の悪い部屋には老人の高笑いがこだましていた……




