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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第2章
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すぺしゃる料理

 リディア渓谷――そう呼ばれる緑豊かな美しい渓谷がある。

 その渓谷は大きな山と山に挟まれた谷があり、美しい川が流れ、川のせせらぎが通る者を癒してくれるだろう。

 その川の周囲には大自然が広がり、背の高い木々から差し込む木漏れ日も癒しを与える一助になっている。


 その渓谷の素晴らしい点は決して景観だけではない。

 リディア渓谷は人族の領土から魔族の領土へと一直線で結ばれているため最短距離となっている。

 都市から都市へと物資を売り歩く行商人。

 世界の全てを見て回る旅人。

 彼らの旅路を楽にしてくれるありがたい地形だろう。


 ……しかしその渓谷を通る者はいない。

 『リディア渓谷は通るな』――それは彼らにとって常識だ。

 大きな山と山の斜面には大小無数の穴が空いている。

 それにうかつに近寄ってはいけない。

 それは虫達の巣だ。

 奴らは生きることに貪欲だ。


 緑豊かなその渓谷には多種多様の虫が生息している。

 奴らは常に奪い合う。

 領地、巣穴、食料となる植物。


 その美しい景観とは裏腹に虫達が貪欲に食らいあう。

 そしてついた異名は『蟲毒』。

 ――命が惜しければ迂回することを勧める。


 世界の危険区域100選 著 ダニエル=キース


 ーー


 「ふあーあ」


 黒いローブを着込んだ男は大きな欠伸をする。

 睡眠をとれない体になってしまったがせめて欠伸だけでも……そう言わんばかりに大きな欠伸を連発する。

 誰しもその暖かな木漏れ日の中で惰眠を貪りたいと思ってしまうのだろう。


 「木漏れ日とそよ風が気持ちいいね」


 タナカの膝の上に座る美しい金髪の少女が、そよ風にその金髪を靡かせながらタナカへと話しかける。

 そんなタナカ達の後ろでスズキをソファ代わりにしながらミーナは熟睡していた。


 現在タナカ達一行は『蟲毒』をゆるゆると進んでいた。

 危険区域なのだが、タナカ達に襲い掛かる虫はいない。

 何故ならタナカ達はヨルムンガンドの頭部に乗って進んでいるからだった。

 念には念をということなのだろう。

 タナカ達を乗せるヨルムンガンドの周囲には公爵トリュゴネスゾンビと鬼熊ゾンビが警戒するように並列走行している。


 「ガルアッ」

 「おっ次の巣穴か」


 鬼熊ゾンビがタナカを呼ぶ。

 コンコンとタナカが軽く頭を小突くとヨルムンガンドがゆっくりと止まる。

 

 タナカはヨルムンガンドの頭部からリリアを抱きかかえながら飛び降りるとスズキ達に待機するよう命じた。

 気持ちよく眠るミーナを起こさないためだろう。


 「よし、いくかッ!」

 「ガルッ」

 

 タナカは鬼熊ゾンビとリリアを引き連れ巣穴へと入っていった。


 「ここもダメか……」


 1時間程だろうか、タナカは巣穴から出てくると辟易したように呟く。

 タナカが迂回ルートを使わずに『蟲毒』を選択したことには理由があった。

 ここリディア渓谷こと『蟲毒』には綺麗な川が流れている。

 その綺麗な水を吸い上げ豊かな自然が生い茂っているが、そんな土地に稀に自生する植物がある。


 その植物の名は『ナオール草』。

 綺麗な水源があり、かつ日光が当たらない日陰を好んで自生する。


 『蟲毒』はゾンビーズにも存在したエリアで『ナオール草』の自生地としても知られていた。

 リリアの村には病気が蔓延している。

 その為、万病に効果があるとされる『ナオール草』を採取しつつ魔族領へ向かうのがベストだろうという判断で、朝から虱潰しに巣穴を漁っていたのだが、未だ当たりは引けていなかった。


 「もう2~3巣穴を調べたら、夜営場所を確保しようか」

 「うんッ」


 まだ日が暮れるまでには時間があるーーそう判断したのだろう。

 タナカ達は再びヨルムンガンドに飛び乗り移動していった。



 ーー


 「結局、見つからなかったな」


 タナカが残念そうに呟く。

 パチパチと焚火の音が響く奥行きが浅い洞窟。

 巣穴の一つを夜営場所として使うことにしたのだろう。


 入り口は公爵トリュゴネスゾンビとヨルムンガンドゾンビが見張りをしている。

 焚火の温かさに気持ち良くなったのだろう、丸まりながらうたた寝をするスズキをソファ代わりにしながらミーナが訝しげに呟いた。


 「本当にあんのか?」


 ミーナのそこそこ長い冒険者生活の中で『ナオール草』が自生している所を見たことが無かった。


 (自生場所としてそこそこ有名だったんだけどな……)


 タナカはゾンビーズ時代の記憶を思い出す。

 結構な数の巣穴を回って収穫が0だったことに不安を覚えたのだろう。

 しかし何度思い出しても自分の記憶違いとは思えなかった。

 中々見つからない事への苛立ちのせいか、微妙な空気になりつつあるタナカ達一行。

 その微妙な空気をぶち壊すようにカワイイ音が流れた。


 ぐぅぅぅ~


 「ヒャッ」


 頬を少し赤く染め、お腹を手で隠すリリア。

 背もたれにしている鬼熊ゾンビへ顔を隠すようにして埋める。

 そんなリリアを生温かい目で見つめながらタナカは立ち上がった。


 「ミーナさん。僕に携帯料理セットを貸してください」


 凛々しい顔でミーナに言い放つタナカ。

 謎の自信に満ち溢れ、無駄にさわやかな笑顔を浮かべている。


 「お、おう……」


 ミーナが若干引きつつ、圧縮袋(コンプレシオンボルサ)から携帯料理セットを取り出しタナカへと渡す。

 タナカはそれを受け取ると、巣穴の最奥へ行き、自分の背で料理の内容を隠す。


 シャンシャン


 中華鍋もどきを片手で持ち上げつつ、料理へと空気を含ませていく。

 料理を見る目は正に真剣。

 それ以外に今のタナカを表す言葉が見つからない。


 ワイン……なのだろうか。

 なにやら紅い液体を中華鍋モドキへ注ぐとボウッと紅い火が燃え上がり料理をより洗練していく。


 「わぁ~」

 「意外な才能だなゾンビ」


 タナカの料理する姿を見て、リリアとミーナは感嘆の声をあげる。

 タナカはアイテムストレージから白い皿を取り出すと、慣れた手つきで皿へと料理を盛る。

 そしてその上に銀の蓋を被せた。

 さながら高級料理店のシェフの様に二人の元へと料理を運んでくるタナカ。

 

 片手に料理を持ちつつ、アイテムストレージからササッと小洒落たテーブルを取り出し、テーブルクロスをその上に掛ける。

 そしてお皿をテーブルの上に置き銀の蓋を開ける。

 期待に満ち溢れた目で料理を見つめるリリアとミーナ。

 そして、タナカは料理名を二人に告げた。


 「メイン料理は大コオロギの兜焼き。サイド料理は3種類の芋虫のオードブル。飲み物は『精神崩壊茶』。腐ったパンを添えてです」


 タナカの顔面に強烈な蹴りが入った。

 宙を舞うタナカ。

 驚愕の瞳で鬼熊とスズキが宙を舞うタナカを見つめる。

 ボキンッと気味の悪い音を立てながら顔面から地面へとダイブしたタナカへミーナが暴言を吐きつける。


 「てめぇ殺す気か!? なんだ『精神崩壊茶』って!? 馬鹿か!? 私の男の癖に家事もできねえとは……結婚する気あんのかッ!?」


 その後、ミーナが蟲毒で集めた山菜や木の実とオリタナで購入していたのであろう肉を使って簡単な炒め物をタナカ以外に振る舞った。

 ……タナカは自作料理を悲し気な瞳をしながら食べた。



 ーー


 「特に異常は無かったな」


 その後、ミーナに罰として朝まで見張りの命を受けたタナカはヨルムンガンド達と一緒に入り口で警備をしていた。

 睡眠も必要なければ疲れも感じないタナカではあるが、一仕事終えた気分を味わいたいのだろう。

 んんーと言いながら伸びをすると朝の散歩へと出かけた。


 カチャカチャ


 タナカが特に目的もなく密林を歩いていると奇妙な音が聞こえた。

 耳に残ったのだろう……音の発生源へとタナカは歩を進める。

 するとそこには


 「何だこいつら……?」


 ――二匹の二足歩行の蟻が踊っていた。

 その体は、木と鉄でできたカラクリ仕掛けだった。


 タナカの味覚はゾンビになったことで腐った物の方がおいしいようです。


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